第7話 限界

 ……あれから、どのくらい経っただろうか。

 アルデンヌの実家を飛び出して多分、十日……いや、二週間ほど経過したと思われる。


 その間に色々なことがあったが、今語るほどの余裕は存在しない。


「流石に……限界ね……」


 場所は緑が広がるど田舎アルデンヌ領から遠く離れた大都会、王都リベルタ。


 そのメイン通りの、とある一角。

 建物を背に座り込み、ざーざーと冷たい雨に打たれながらクロエは呟いた。


 視界に広がるのは煉瓦作りの街並み、行き交うたくさんの馬車や人々。

 ど田舎の地元では決して見ることの出来なかった光景が広がっていた。


 つい先刻、長い長い道のりと時間をかけてクロエはリベルタにやってきた。

 憧れの王都は生憎の曇り模様だったが、その街並みを目にした瞬間の感動たるや筆舌に尽くしがたかった。


 棒を通り越して枝になってしまった足を、最後の気力で引きずりながらなんとか王都入りしたクロエ。


 しかしそこで、クロエの体力は尽きた。

 

 少ない食料と防寒具で野を超え山を超え、ひたすら走り歩き続けた末に目的地である王都に辿り着き、街中を歩く事しばらくして冷静になった。


(……あれ、私、これからどうすればいいんだろう?)


 途端に、今まで気を保っていた糸がぷつんと切れた。

 意識が朦朧としてきて堪らずクロエは道の端に座り込んだ。


 間が悪く降り出す雨。


 アルデンヌ領からはかなり南に移動したとはいえ、雨は雨だ。

 冷たい雫が無慈悲に体温を奪っていく。


 身体が熱いのに寒気がする、先ほどから妙な動悸もする。

 酷使に次ぐ酷使の末に、クロエの身体は明らかな異常をきたしていた。


(これは……まずいかも……)


 これほどの危機感は、幼少期に姉の意地悪によって領地の山に置き去りにされ遭難した時以来である。


 あの時はなんとか獣道を見つけて生還したが、今回はまた状況が違う。


 王都にいるはずのシャーリーを頼るという選択肢も、生憎彼女の現在の居場所がわからない。


 初めて訪れた大都会で、頼れる人もお金もない。

 考えなしでここまで突っ走ってきたが、冷静に考えて最悪の状況ではないかとクロエは思い至った。


 道行く人々は皆自分にしか関心がないのか、もしくはボロボロの姿で座り込む怪しい少女に声をかけるほどお人好しではないのか、クロエにちらちら目を向けるものの立ち止まることはない。


 これはいよいよ詰みというやつかと思うクロエに、三つの人影が落ちた。

 

「おいおい、こんなところで雨宿りかぁ?」


 どこか粘着質のある声。

 クロエが顔を上げるとそこには……見るからに柄の悪そうな男が三人、下卑た笑みを浮かべて立っていた。

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