Sideマナ/3 じゃ、別の彼氏、使うかー。

 案の定、アンジャスティナが生きてた。


「まさか、魔王軍と合流しているとは……。ステラ・マリス、実在するのか」


 あたしの部屋に来て、なんか悲壮感たっぷりにのたまうオウタイシくん。

 だぁ~かぁ~らぁ~、もっとしっかりやれって、あたしがさぁ……。


 や、実際には言ってないよ?

 けどさぁ、オウタイシくんさぁ、それを察するのが彼氏ってモンじゃないの?

 あたしが言わなくてもさぁ、察するくらいはしてほしいわよ。


 ねぇ、あたしと君、婚約してんのよ?

 だったら察するくらい、普通にできるでしょうが。いや、察しなさいよ。


 はぁ~、こいつ、マジ使えねぇ~……。


 あたしはオウタイシくんに膝枕させてあげつつ、彼の頭を撫で続ける。

 あ~、何であたし、こんな無能に膝貸してやってんだろ。

 王子様のクセにクソアマ一人捕まえらんない、こんな無能雑魚なんかにさー。


 金なかったら速攻捨ててたわ、こんなヤツ。

 って、思いつつ膝枕させてやってるあたしの献身っぷり。マジいいオンナだわ。


 っつーか、ステラ・マリスとか何よ。

 思い出したけど、あれ、ガキが見る幼稚なお遊び番組に出てくるヤツじゃん。


 じゃあ、何?

 あのクソアマ、もしかして私と一緒なの? てんせぇしゃってヤツ?


 うっわ、ありえねー。マジキモいんですけど。

 あたしとアレが一緒とか、考えたくもないわ。体かゆくなりそう。

 余計、殺意湧いたわ。あの女、絶対ブチ殺してやる。


 でもなー、どうするかなー。

 オウタイシくん、他にも色々やることあって忙しいとか抜かしてるしなー。

 忙しいから彼女放置って、無能彼氏の言い訳黄金パターンじゃんか……。


 もうさぁ、オウタイシくんには任せらてらんないよね、これ。

 仕方ないなぁ。じゃ、別の彼氏、使うかー。

 だーれーにーしーよーおー、かなっと。


 ――あ、ちょうどいいヤツいるわ。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 次の日。


「マナ、元気そうで何より」

「グレイル殿下、ありがとうございます」


 さて、フランクな物言いであたしに微笑みかけてる銀髪のこいつ。

 名前はグレイル。オウタイシくんの弟で、だいさんいおういけいしょうしゃ。

 すっごくエラいってことよね。よく知らないけど。


 そんでもって、あたし自慢のイケメンハーレムの一員。

 乙女ゲーム〈七つの月のエトランゼ〉の攻略対象とかいうのの一人なのだー。

 そう、あたしはすでに、オウタイシくん含めて全員攻略済みなのよ。


 ちなみに彼、オウタイシくんに比べて背が高く、肉付きもガッシリしてる。

 しかし、男臭いガチマッチョとまではいかない絶妙な細マッチョ。

 キレイ系な見た目のオウタイシくんに対し、こっちは顔つきもややワイルドだ。


 ま、つまりイケメンってことよ。


「俺に話があるってことだったけど、どうかしたのか?」

「ええ、それが……」


 あたしはそこで表情を沈ませ、思わせぶりに言葉を切った。


「何だよ、その顔。まさか、兄貴と何かあったのか、マナ!?」


 ハハン、見事に釣れたわー。

 性格が前のめりっていうか、考えなしのちょとつもぉしんなのよね、こいつ。

 今だって、ちょっと餌投げただけで、この食いつきだモン。


「いえ、そんなことはありません。王太子殿下は、私によくしてくれています」

「だったら、何でそんな顔してるんだよ。何かあったんだろ?」


 は~い、こっちの思い通りの反応、ありがとうございまーす。

 こいつの使い方は簡単で、オウタイシくんについて軽く匂わせればいいだけ。

 オウタイシくんに対抗心バリバリだモンねー、こいつ。


 今だって心の中で思ってるはずだ。

 オウタイシくんよりも、自分の方が、あたしを幸せにできるはずだ、って。

 ハナから見え見えなんだよ。単純だよなー、オトコって。


「実は、アンジャスティナ様のことが……」

「アンジャスティナ? 兄貴の元婚約者が、どうしたんだ?」


 食ってかかるような勢いで、グレイルくんがあたしに尋ねてくる。

 それに対して、あたしは声の調子と表情を重く沈ませたまま、語っていく。

 オウタイシくんの無能っぷりをオブラートに包んで存分に織り交ぜながら、ね。


「そうか、アンジャスティナ。あの女が生きて――」

「はい。私は、あの方には生きて罪を償っていただきたいのです。だから……」

「いや、もういい。マナの考えももっともだ。話してくれて、ありがとな」


 言って、グレイルくんはあたしに背を向ける。

 このあとのこいつの行動は手に取るようにわかるけど、あたしは尋ねた。


「グレイル様、どちらに……?」

「どちら、って、決まってるだろ」


 そしてグレイルくん、肩越しにこっちを向いて、ニッ、と大きな笑みを見せる。


「おまえを笑顔にしてやるために、行くんだよ」


 うわ。キッツ。

 答えになってないし。何それ、キメたつもり? ウケる。


「グレイル様……」


 でも、そこで感激のリアクションを忘れないのが、このあたし。

 やっぱさー、オトコの自己肯定感を高めてやった方が、色々やりやすいワケよ。


「俺に任せておけ、マナ」


 そんな捨てゼリフを残して、彼はあたしの部屋を出ていった。

 直後、あたしは閉じたドアに耳を当てて、外に出たグレイルくんの呟きを聞く。


「……こんな体たらくじゃ、やっぱマナは任せられねぇわ、兄貴」


 そして、あとには遠ざかる靴音。

 マジでさ、何から何まであたしが思ってた通りのムーブでやんの。


 あ~、たまんないな~。

 この、手のひらの上でイケメンが思い通り踊ってくれてる実感。サイコーだわ。

 あとはあのクソアマが死んでくれたら、ホントに言うことなしだよねー。


 そして、グレイルくんは即日動きだす。

 アレスティア王国第三王子にして、国内最強の鎧聖機甲騎士団の団長として。


 あー、アンジャスティナが死ぬの、楽しみだなー。

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