パシられたら殺人鬼にあった
とある日の夜、夕食を食べ終わってリビングのテレビでバラエティー番組を見ていると、冷蔵庫を開けた遥お姉ちゃんが「あーっ!」と大声で叫んだ。
「午後ティー買い忘れたーっ!」
「そんなことで叫ばないでよはるねえ!近所迷惑で怒鳴り込まれるわよ!?」
「じゃ、わたし配信あるから」
「私宿題やってくるー」
面倒事の気配を感じ取ったか、夕食を食べ終わった絵美と遠莉が戦線離脱する。お父さんは仕事で会社に泊まり込むらしいし、お母さんはお風呂に入ってる。となると、必然的にこの場には僕と遥お姉ちゃんしかいないわけで……
「私明日朝練あるから寝るね。おやすみ~」
ふわわとわざとらしい欠伸をしながら絵七お姉ちゃんが逃げていく。よし、ここは僕もなにか理由をつけて逃げなければ!が、もう遅かった。逃げようとした僕の肩を遥お姉ちゃんがガッシリと掴んだ。
「な、なに?」
「お金あげるから、スーパーで午後ティー買ってきて」
「ぼ、僕も宿題が……」
「この時間なら絶対終わってるでしょ?だいたい和希、宿題終わってないのにテレビ観ないでしょ」
「うぐ……車で行った方が速いと思うよ?」
「和希が走った方が明らかに速いでしょ」
「ぬぐぐ……わかったよ、買ってくる」
「お願いね」
僕は遥お姉ちゃんからお金を受け取ると外に出る。夏のような蒸し暑さはなく夜特有のひんやりとした風が僕の髪を揺らす。僕は3キロほど離れたスーパーまで全力で走る。ものの2分くらいで走破すると僕は少し荒れた息を整えてスーパーに入った。最近気がついたんだけど、僕が「アイテムボックス」使えることをいいことに家族やクラスメイトにパシられてないか?買い物を終えてさあ帰ろうとスーパーから出た時、スーパーの裏路地の辺りから女性の悲鳴が聞こえた。急いで駆けつけると何処かの高校の制服を身に纏った女性に怪しい男がナイフを振り下ろそうとしていた。
「何をしているんだ!」
僕はちょうど足元に落ちていた空き缶を蹴り飛ばし男の手に持っているナイフを弾き飛ばす。別にサッカーが得意というわけでもないのだけれど、僕の蹴った空き缶は正確無比に男の手首を捉えていた。
「いってーな、クソガキ。中坊か?いい度胸だな。お前から殺してやるよ」
近寄ってきた男に僕は思わずルシファーを召喚して突きつけようかと考えたけど、狭い路地じゃ使いにくいし何より一般人相手にあれを抜くのはいささかまずいきがする。
「そこまでよ」
「今度はだれだ!ああん?」
「法の網を掻い潜る不届きものが。調べは着いているわ。あなた、なかなかの数の人を殺してるようじゃない。だというのに親の権力を使って逃げ延びて、恥ずかしいとは思わないの?」
「だまれ!このクソガキが!親の権力使って何がわりいんだよ!」
「いい根性してるじゃない。いいわ。わたしがあなたの体をめちゃくちゃに切り裂いて、あなたが泣いてごめんなさいって言う迄苛めてあげるわ」
「ま、まさか、お前、犯罪者キラー……」
「そんな物騒な呼び名で呼ばないで欲しいわ。わたしはジャパニーズジャックよ」
性別わかんねー
「麻生浩一郎、覚悟!」
黒装束の人が麻生って人に飛びかかったのを見て、僕は反射的に男の背後をとって首をトンとして気絶させると黒装束のナイフを取り上げて腹に回し蹴りを叩き込もうとしたのだけれど、わずかにそらされて胸の辺りを蹴ることになった。威力を受け流されはしたものの黒装束は路地裏を転がっていく。うん、蹴った感触からして女の人か。さらしでも巻いて潰してるんだろう。
「なぜ邪魔をする?そいつは犯罪者だぞ」
「犯罪者なら警察につき出せばいい。ここで殺すなんてただの私刑でしょ。それとも、なにか殺さないといけない理由が?」
「どうせつきだしたところで親の権力に握りつぶされるだけ。それならここで始末した方がいいわ」
「悪いけど、僕は君のやり方には賛同できないな」
「なら、邪魔なあなたを排除してそいつを殺すわ」
黒装束の女はなかなかの速度で踏み込んできて僕の顎にアッパーカットを決めに来る。僕はそれを最低限の動きだけで回避するとアッパーカットを決めに来た腕をつかんでねじる。黒装束の女は狭い路地裏の壁を利用して宙に浮くと僕の頭に踵落としをしてくる。僕はそれも避けると地面に着地したタイミングを狙って足を払う。そして体勢が崩れたところを一本背負いで投げ飛ばす。
「くっ」
受け身は取りきったみたいだけどさすがに衝撃の全てを殺すのは無理だったみたいだね。黒装束の女は背中を押さえて小さくうめく。
「なかなか、やるじゃない」
今度はこっちからしかけるぞ!
「なっ!?」
僕は黒装束の女の鼻と口を覆うスカーフを奪いに行ったのだけれど、残念ながら間一髪のところで黒装束の女が僕の手を払いのけ、僕のみぞおちにパンチしてくる。僕はそれをみぞおちでからわずかにずらして腹で受け左手で掌底打ちする。黒装束の女がのけぞったので股の内側から足をかけて払う。そのまま背後に倒れるかなと思ったのだけれど、黒装束の女もただでは転んでくれなかった。黒装束の女は目一杯足を伸ばして僕の顎を狙って蹴りを繰り出してきた。僕はそれを右腕でガードしたのだけれど、不安定な体勢から放ったにしてはなかなかの威力で、ガードした右腕がかなりしびれた。しょうがない、スキル使うか。
「『タイプチェンジ』スピードモード!」
スピードモードは僕の移動能力を二倍に引き上げてくれる。ここまで互角だったのならこれで負けることはないはず。
「はっ!」
「うそ!?ぐっ!?」
今度は確実にみぞおちを捉えた。黒装束の女は大きく吹き飛びゴミ箱にぶつかって止まった。幸いゴミ箱がクッションがわりになったようで大きな怪我はなさそうだけど、ゴミ箱の中に入っていた生ゴミを大量に被っていてめちゃくちゃ臭い。ヨロヨロと黒装束の女は立ち上がるけどその姿に今までの力はない。互いに睨みあっていると周囲が騒がしくなってきてパトカーのサイレンの音も近づいてくる。
「覚えてなさい」
黒装束の女はそう捨て台詞を吐くと何処かへと逃げていった。
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