もう何がしたいかわからん

「とりあえず審査会は通したから」


あれから数日後、文化祭の話し合いで聡太はまるで何事もなかったかのように言った。普通は自分の手柄だと自慢しそうなものなんだけど、本当に聡太はこの程度はどうってことないって思ってそうだ。


「なんでそんなに淡々としてるんだよ!審査会って確か全学年で15クラスくらいあったよな!?よくその中そんなにコンセプトもないうちのクラスのメイド喫茶を通したな!?」

「相変わらずすごいですねえ、阿南君は」


広町先生は前回同様聡太に饅頭をもらっておとなしくしている。……あとで上の人から怒られはしないのだろうか?


「ま、うちのメイドは内面はともかく外面だけは優秀なメイドだからな。そこら辺のコスプレした程度のやつには負けはしないさ」


聡太の言葉に本職メイド二人は嬉しそうにはにかむが、内面はともかくというところを聞いていないのだろうか?都合のいいところだけ切り抜くファンタジーな耳のようだ。


「ひとまずざっくりだけど内装、出す料理とかドリンクのメニュー、あとメイドの衣装だな。二人が使ってるのは愛の手作りだからそこは愛主導の元やってもらおうかな」

「了解です!」


とりあえず僕は内装担当にしてもらおう。料理も裁縫も苦手だから役に立たないと思うし、それに異世界で鍛えた筋力があるから力仕事の方が向いてる気がする。


「ねえねえ阿南君、BGMとかかけないの?」

「BGMか、それは考えてなかったな。採用しよう。何か使いたい曲とかがあるなら言ってくれ」

「それなんだけどさ、有志で歌ったやつを収録して流すのはどう?」

「それはいいかもな、ただうちのクラスには無断で歌ったら怒られそうなやつらがいるだろ?絵美とか楓とか」

「一応事務所に聞いてみるわ、たぶん許可されると思うけど。販売するわけじゃないんでしょ?」

「そうだな」


欅楓さんは今大人気の歌手で、絵美は登録者百万人越えのvtuberだ。二人とも事務所に所属しているため勝手なことをして揉めるのを避けたいんだろう。そもそも絵美の所属しているトルゥ―ダウトは阿南財閥の傘下だったはずなので聡太が圧力をかければどうにかなりそうなものなんだけど。


「歌の話はまた後日にしよう。楓と絵美の許可が取れるのもまだ時間がかかるだろうからな。欅さん、君はひとまず内装係になってもらえるかい?」

「えー、私料理とかしたいのに」


欅さんの言葉に流川さんをはじめとした家事できる系の人たちが顔を青ざめさせて首を全力で横に振っている。欅さんは勉強も運動もできてなおかつ美人というファンの人たちからは完璧超人だと思われているらしいが、神は四物を与えなかった。……神様って言うとフレリアさんのことを思い出しちゃうから天はって言いなおしとこ。


僕の知る限りでも調理実習の際にコンロの火を化け茹で消そうとするなど、そのポンコツエピソードはとどまるところを知らない。正直僕は彼女がない層をするということすら割と恐怖に感じている。


「私は何をすればいいですか?」

「よし、相馬さんは何もしないでくれ。頼むから」


そう言われた相馬さんはシュンと肩を落とした。相馬直さんはこのクラスの破壊神である。と言っても本当に神様なわけではなく単純に力が強すぎるだけであるが。彼女は病気というわけではないが、生まれつき筋力が異常なほど強く、容姿は普通の女の子と何ら変わりはないのに、その身に秘めた筋力は成人男性の平均のおよそ十倍もあるらしい。


一日一本はシャーペンを握りつぶし、一週間に一回はほうきを折り、調理実習ではカボチャを爆裂四散させる。なお、これでも力をセーブできるようになっているらしく、赤ん坊のころは両親の手を何度も複雑骨折させてしまったらしい。そのせいで罪悪感にさいなまれており、成長した今でもあまり自信が無さげだ。


「相馬さんは果物握りつぶしてジュースを作ったら?」

「ええ……、私が握りつぶすと果物が爆発したみたいになっちゃうんでジュースなんて作れないと思いますよ?」

「ものは試しじゃん!やってみようよ!」

「何かほかにやりたいことがあれば言ってくれ。できそうでよさそうなら採用する」


僕たちの文化祭は聡太主導のもと動き始めた。

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