世の中には知らない方が幸せなこともある

夕食のとき、男の姿に戻った僕の姿を見てお父さんが泣いて抱き着いてきた。


「ど、どうしたの?お父さん」


たぶんこの時の僕の顔は若干引き気味だったことだろう。


「どうしたもこうしたもあるか!父さん寂しかったんだぞ!男が父さんしかいないから!」


……僕を心配していたわけじゃないのね。いや、わかってるよ?失踪中みんなが真剣に探してくれていたことは。でも思っちゃうじゃん、そんな理由で今泣き付かれてるのか?って。


「ほらほらお父さん離れなさい。和希が困っているでしょう?」


お父さんが離れると今度は遠莉がやってきて僕の腕やお腹をツンツンと触ってきた。


「こ、今度は何?」


遠莉はなぜか僕を見て顔をパァッと輝かせた。


「ねえ、この筋肉どうやってつけたの?」


どうやってつけたって、異世界で走り回って剣を振り回してたら自然とついた筋肉なんですけど。そう言えば、遠莉は好きなアニメキャラをまねて毎日筋トレしてたな。


「こら、遠莉も離れなさい」


お母さんが遠莉の首根っこを掴んで僕から引っぺがしてくれた。


「というか、かなり背が伸びたみたいだけど、制服入るかしら」


その言葉を聞いて僕の時が止まった。そういやそうじゃん。異世界で三年も生きてたんだ。成長期なんだし身長は伸びる。確か異世界に召喚される前は160足らずで、今の身長は確か170以上はあったはずだ。


「ど、どうしよう……」

「明日学校から帰ってきたらすぐに採寸に行きましょう?それ以外に方法はないわ。それでも制服が出来上がるまで時間が若干かかるでしょうけど」

「それじゃあ僕、まだ女の子で登校しなきゃいけないの?」

「……一週間くらい機関が延びるくらい誤差でしょう?」

「「全っ然誤差じゃない!」」


僕とお父さんの声がかぶった。いや、家なら制服着なくていいから男でいられるんだけど。結局僕はもうちょっと女の子としての生活を強制させられることとなった。

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