男に戻りました

僕が地球に帰ってきてから一か月が経過した十月の中旬。僕の本体が全快したのを僕はなんとなく悟った。女の子の生活も悪くはなかったけど、やっぱり本来の体で生活する方がいい。とはいえ本当に元の体が全快しているかどうかは戻ってみないとわからないのでリリーに頼んでみていてもらうことにした。お母さんも僕の変身シーンが見たいとか言い出したのだが、さすがに恥ずかしいのでやめさせた。


「もし完治して無かったら死ぬ気で十分間もたせればいいんですね?」

「うん、リリー頼んだよ」

「もちろんです!これでカズキも私とデートできますね!楽しみです!」


最近見ることが少なくなってきたけど、やっぱりリリーは越して目をキラキラ輝かせているときが一番かわいいと思う。


「じゃあいくよ。《フォルムチェンジ》モードM!」


女の子になるときを逆再生するかのように僕の体が男子のそれに戻っていく。僕の心配は杞憂だったみたいで体は何の異常もない。


「どうですか?」

「うん。心配ないよ。大丈夫」

「よかったです!」


リリーは感極まったのか僕にとびついてきた。僕はリリーにベッドに押し倒される。僕はリリーを落ち着かせようと頭をポンポンと撫でてあげる。


「魔王と戦う前、私、カズキに「大好きです」って言いましたよね?その返事、今貰ってもいいですか?」

「もちろんだよ」


ううん、こういう時にどんな表情をすればいいのか困るな。


「僕も同じ気持ちだよ。リリー、好きだ」


僕にとって、いや、誰にとっても初めて口にするそれは恥ずかしく勇気がいるであろうその言葉は意外なほどに僕の口からすんなりと出てきた。僕はリリーと口づけを交わすと衝動的にリリーの胸に手を這わす。


「んっ……カズキ」


リリーのうるんだ眼を見て僕の理性が外れそうになったその時、僕の電話に水を差すかのように着信が入った。電話の相手は千鳥さん、……また魔法少女関係の電話か。パスしたいところだけど、命がかかってるし出ない訳にはいかない。


「ごめんリリー」


僕はリリーを離すと電話をとる。


「もしm……」

『カズキ!手伝ってほしいの!場所は図書館の近くだから!』


それだけ言うと千鳥さんは電話をプツッと切った。……戦闘中で余裕がないのはわかるんだけど、もう少し説明をしてくれてもいいのではないだろうか。それにこっちは実質男に戻ったばっかりで病み上がりなんだけど。


「行くの?」


リリーが心配そうに聞いてくる。正直言えばこのまま家でリリーといちゃついていたいのだが、行かずに後悔するのもなんだしな。


「不本意だけど行ってくるよ。心配しなくていいよ。僕はあの魔王も倒したんだから」


とはいえ高火力の出せるモードFはあと十分間は使えないからなあ。相手が魔法による火力で勝負してくる相手なら非常に分が悪い。


「来たよ」

「え!?男の和希!?女の子じゃないの!?」

「さっき戻れるようになったんだよ」

「え!?この人が和希さんなんですか!?男じゃないですか!」

「だから僕最初あった時そう言ったよね!?てか、好きに性別変更できるけど事情があって女の子で生活してたんだよ!で、敵はあいつ?」

「そそ、悪魔っぽいでしょ?」


っぽいもなにも悪魔そのものじゃん。とりあえず「解析」かけるか。


ベルフ=シュタイン

悪魔/年齢不詳/レベル39

筋力:6000

敏捷:4000

耐久:3200

HP:90000

MP:2000

物攻:1500

物防:2000

魔攻:4600

魔防:3000


うん。そこまで強くないし物理攻撃の方が入りそうで良かった。


『勇者?魔王様の敵は排除する』


!?僕のことを知っているのか!?いや、この際この悪魔が僕のことを知っているかどうかなどどうでもいい。今はこいつを仕留めることだけを考えよう!


「こい聖剣!」


一か月ぶりだが聖剣は僕の命令に従って僕の元へ召喚される。久々に聖剣を握るけど驚くほど手になじむ。とはいえそんな感傷に浸っている場合ではない。さっさと片づけないと警察に銃刀法違反で捕まりかねない。


「稲妻流壱ノ型 紫電一閃!」


僕は神速の居合切りを繰り出し一撃で悪魔を仕留めると数秒たってから残心を解いてため息をついた。魔法少女三人は呆然としているけど放っておくか。今僕が放ったのは剣技と言うもので、「剣術」スキルを持つ者が習得した剣技をイメージすることで体が勝手にその剣技に沿って動いてくれるのだ。稲妻流はフレリアさんに教えてもらったいくつかの剣技の中で唯一習得することができたものだ。習得できたと言ってもまだ参ノ型までしか使えないのだけれど。


「うっそ、今まで私たちが苦戦してきた時間はなんだったの?」

「ほら~、だから言ったじゃないですか。最初からカズキさんを呼んでおけばよかったんですよ」

「う~だって最近呼ぶ頻度多いし、なんか最初から呼んでたら負けた感じがするもん」

「え~と、千鳥先輩?その男の人は?」

「紹介しなかったっけ?こいつが強力助っ人の和希」

「え?女の子って言ってませんでした?」

「知らない。詳しい事情は本人に聞いてちょうだい。和希、この人は隣町に住んでる高校生で東鈴里さん!あ、そういえばこの人男性恐怖症なんだった……女の子に戻ってくれない?」

「戻る言うな!あと、さっき男に戻ったばっかだから五分は無理」


さて、僕の仕事は終わったしもう帰ろうかな。


「それじゃ、お疲れ様」

「はーい。急に呼び出してごめんね~」


本当にな。せっかくいいところだったのにさ。僕は屋根の上を軽やかに舞い家を目指す。その途中で怪我を負ったおばあさんや迷子の女の子を助けていたりしたら結局帰れたのは夕食前だった。今日は本当についてないな。

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