かき氷
家に帰るとシャリシャリと何かを連続して削る音が聞こえてきた。かき氷でも作ってるのかなと思い、手を洗って部屋着に着替えるとリビングを覗いてみた。そこにはかき氷機を回しかき氷を作っているお母さんと、その様子を間近で目をキラキラさせながら見ているリリーに、スマホで動画を見ながら出来上がるのを待っている遠莉と絵美の姿があった。
「ごめんリリーちゃん。ちょっと疲れちゃったから代わってくれない?」
「喜んで!」
お母さんからバトンタッチされたリリーは、お母さんの2倍速くらいの速度でかき氷機を回しどんどんかき氷を生産していく。
「ただいま~」
僕が声をかけると全力でかき氷機を回していたリリーの顔がバッとこちらを向いた。
「おかえりカズキ!」
「あ!ちょっとリリーちゃん!?削るのは!?」
「あ、そうでした!ごめんなさいお義母様!」
リリーは僕に飛び付く寸前で急停止すると再びかき氷機を回し始めた。リリーがお母さんのことを「お義母様」と言っていたのはもう聞かなかったことにしよう。
「そろそろ出来上がるから、和希、遥を呼んできて」
「はーい」
僕は2階に上がって遥お姉ちゃんを呼びに行く。コンコンとノックをすると数秒おいて「どうぞ~」と声がかかる。遥お姉ちゃんの部屋を開けるとむわっとした熱気が廊下に押し寄せてきた。
「うわ、何この暑さ」
もしかして遥お姉ちゃんエアコン入れてないのか?部屋の中を覗いてみると遥お姉ちゃんは下着姿で一心不乱に絵を描いていた。
「遥お姉ちゃん、かき氷食べない?」
「食べる!」
遥お姉ちゃんは椅子から立ち上がるとそのままの姿で廊下に出ようとする。部屋が暗かったのでそこまで遥お姉ちゃんの下着姿が鮮明に見えずあまり気にしていなかったが、そこまで近づかれたら遥お姉ちゃんの下着姿が、否、正確には深い谷間が否が応でも目に焼き付いてしまう。
「わああっ!?服着て!早く!」
「ええ~?暑いじゃーん。仕方ないなあ」
遥お姉ちゃんは渋々といった風に部屋に引き返すと中央に「果汁100%」とプリントされた謎Tシャツを着て出てくる。なんで遥お姉ちゃんはこんな変なTシャツしか持っていないのだろう。
「まったく。見られたところで減るもんじゃないでしょ」
僕の精神はすり減ってくんだよなあ。
「それに、女の子の裸なんて嫌と言うほど見てるでしょ」
「自分の裸と他人の裸は別物なの!」
遥お姉ちゃんを連れてリビングに戻るとかなりの種類のかき氷シロップが机の上に出されていた。かき氷屋でも開くつもりなのか?それに一つわけのわからない味のシロップが机の上に出されていた。その名も「とうがらし味」。なんなの?辛いのか甘いのかどっちなんだよ。
「ねえ、このとうがらしシロップは何?」
「それ、私が配信の企画で使った余り。使いたかったら使ってもいいよ」
何がどうなったらそんなものを配信で使うんだ?パッケージに「阿南フード」と書かれているあたり聡太が作ったのだろう。
「面白そうだし使ってみよ!」
遥お姉ちゃんはとうがらし味のシロップを自分のかき氷にかけていく。イチゴとはまたちがった色合いの赤色が純白のかき氷を染め上げていく。
「ちょ、そんなにかけるのはやめた方が……」
おそらく家族の中で唯一そのとうがらしシロップを食したであろう絵美は顔を青ざめさせて止めようとするが、そんな忠告はなんのその遥お姉ちゃんはどっぷりとシロップに浸かったかき氷をスプーンですくいあげ口に運ぶ。
「なによ。普通に甘いじゃない」
遥お姉ちゃんは期待はずれといった顔になった。
「それなら私もかけてみます!」
「ちょっ!?リリーちゃん!?」
絵美はもう知らないとばかりに自身のマンゴー味のかき氷を大量に口に入れて頭を押さえた。どうやらやけになって一気に食べたせいで頭がキーンとしたらしい。
しばらくすると僕の隣で食べていた遥お姉ちゃんの手が止まった。机の上にポタポタと水滴が垂れる。その直後、遥お姉ちゃんは机に倒れた。
「遥!?」
「お姉ちゃん!?」
「ねえね!?だから言ったのに……」
「遥お姉ちゃん!?」
「遥さん!?どうしたんですか?」
結局遥お姉ちゃんは命に別状はなかったが、夕食前まで気絶したままだった。
「これ、とても美味しいです!全部もらっちゃってもいいですか?」
「ど、どうぞ」
絵美曰く、最初こそ甘いもののその後口の中を激痛が襲うらしいとうがらし味シロップ。しかしリリーには効かなかったらしく、美味しい美味しいとバクバク食べていた。もしかするとリリーは味覚がおかしいのかもしれない。
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