帰宅
偶然だったのか必然だったのか、僕らが地球に降り立ったのは真夜中で、元々人通りが少ない道だったこともあり人は全くいなかった。もし偶然だっならそれはとても幸運なことだろう。今の僕は自分で言うのも何だがかなりの美少女だし、リリーもとても美人だ。それに僕は白髪だし、リリーはエメラルドグリーンの髪色をしているので目立つことこの上ない。もしこれで真っ昼間に帰ってこようものなら騒ぎになるとかいうレベルではなかっただろう。
「「隠形」を使うから手を繋ぐよ」
僕が手を差し出すとリリーは嬉しそうにその手をとった。
「「隠形」」
これで他の人から僕らの姿は見えないはずだ。ここは人通りが少ないからいいけど、僕の里親の家である高梨家は、大通りに面しているためこんな深夜でも酔ったおじさんたちが放浪している可能性がある。
なんのトラブルもなく高梨家にたどり着くことができたが問題はここから、この体でちゃんと和希として認識されるかどうかである。元の体は完治するまでまだ時間がかかるので戻るわけにはいかない。
「リリーは少し隠れててくれ。落ち着いたら紹介するから」
リリーは僕の言葉に素直に従って近くにあったコンクリート塀の陰に姿を隠した。僕は意を決して高梨家のインターホンをならした。誰も出てくれなかったら庭で野宿するしかないなと思いつつ待っていると、インターホンから高梨家の四女、高梨絵美の声が聞こえてきた。
『えーと、どちら様?』
いつの間にかフレリアさんから返されていたスマホを見てみれば時刻は午前1時。普通なら起きていない時間帯だ。絵美はVtuberをやっておりその配信でこんな時間まで起きていたのだろう。このまま野宿になることを考えれば絵美が起きていたのは非常に幸運だった。しかし覚悟を決めたとはいえどう説明すればよいのやら。
『もしかして……和希?』
「えーと、まあそう」
『ちょっと待ってて』
絵美が玄関を開けに来てくれるのかと思いきや、明らかに近所迷惑な声量で中から「みんな起きてー!和希が美少女になって帰ってきた~!」と聞こえてきた。つーか絵美、頼むから余計なことは言わないで!
その大声がした直後、複数の足音がドタバタとしたかと思うと玄関の扉が勢いよく開いてお母さんが飛び出てきた。
「おかえり!無事で、無事で本当によかった!」
「心配させてごめんねお母さん。ただいま」
「とりあえずなかに入りなさい。外は暑いでしょ」
「うん」
僕はお母さんに促されるまま家の中に入った。家の中はクーラーで冷やされており、外とは大違いだった。リビングに行くと配信中であろう絵美以外の全員が夜中だというのに勢揃いしていた。
「何でそんな美少女になってるのか、説明してもらうわよ」
お母さんの第一声がそれだった。そりゃそうか。いきなり行方不明になったかと思えば急に女の子になって帰ってきたのだ。逆に説明を求めない方が不自然と言えるだろう。
「異世界に召喚されたって言ったら信じる?」
『当たり前じゃん』
めっちゃ即答された。少しも躊躇わないなこの人たち。
「異世界に召喚されて魔王と戦ってました」
『魔王!』
「体が女の子になってるのはスキルの影響で」
『スキル!』
僕の家族はみんな揃って小学生のようなキラキラさせすぎでしょ。
「スキルの影響って恒久的なの?もしかしてもう元の体には戻れないとか?」
「そんなことはないんだけど……魔王との戦いで元の体が大怪我を負っちゃって、当分は女の子の体で生活するしかなくなったの」
「そういうことね……大変だったわね」
お母さんが僕の頭をよしよしと撫でてくれる。
「で、怪我はどのくらいひどいの?」
そう聞いてきたのは長女の遥お姉ちゃん。高校を卒業して今はお父さんの会社でイラストレーターをやってる。
「内臓がいくつかなくなってるくらいかな」
「重傷じゃない!それ大丈夫なの!?」
「大丈夫大丈夫。一ヶ月もすれば治るから」
「嘘でしょ!?」
うーん、これ以上僕の怪我の話をしても心配させるだけだし話を変えようかな。
「そうだ、紹介したい人がいるんだけどいいかな?」
「あらあら、もしかして彼女かしら?」
彼女じゃなくて聖女なんだわ。
僕はコンクリート塀の陰に隠れているはずのリリーを迎えに玄関から外に出た。変なやつに絡まれてなければいいんだけど。外に出るとリリーは綺麗な体育座りで隠れていた。
「リリー、待たせてごめんね?」
「もういいんですか?私ここで野宿するつもりだったんですけど」
肝が太いなこの聖女。
僕がリリーを連れて戻ると、家族全員目を丸くしたまま固まってしまった。とにかく紹介するか。
「この人はリリー・スケランツァ。異世界では聖女って呼ばれてて僕の魔王討伐をサポートしてくれた人たちの一人だよ」
「あとカズキの将来の伴侶です」
「ちゃっかり何を付け加えてるのかなあ!?」
そんなの爆弾に着火するようなもんだよ!?
案の定僕の家族は深夜だというのに燃え上がり近所のおばさんに怒鳴りこまれた。というか、こんなに騒いでるけど絵美の配信は大丈夫かな?僕らの声のってないよね?
「あの、お母さん、里子の分際であれなんだけど、リリーをこの家においてあげられないかな?」
「もちろんOKよ!こんな逸材逃さない手はないわ」
デュフフとお母さんはオタクっぽく笑った。オタクっぽくていうかオタクだわ。遥お姉ちゃんなんかリリーに抱きついてペロペロしそうである。実際抱きついてるし。僕はリリーが家族に受け入れられているようでとてもホッとするのだった。
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