掌編
幸福な軸
鞄の底に埋もれていたものを、三年ぶりに拾い上げた。手巻き式の懐中時計。両親が贈ってくれた宝物。そして、私の悲しみの象徴。家族を喪い何もかも奪われたその日から、時を刻むのを止めてしまった。
しかし、今。私は再びこれを手に取る。
「それなぁに?」
一人の娘が私の手の中を覗き込む。続けて、あどけなさの残る青年も。
好奇心に目を輝かせる彼らを、向こうで大人二人が微笑ましそうに見守っているのも目に入り。三年間ずっと凍りついていた幸福が、再び私の胸に湧き上がる。
「これは――」
由来を語れば、目の前の二人は「素敵」だなんて褒めてくれて。だが、そんな彼らこそ素敵な存在だと、私は思う。
暗闇に蹲る私を引っ張り上げてくれた仲間たち。彼らのお陰で私は光の下に出た。再びこの時計を手に取る決心がついた。
彼らとの新しい時を刻まんと、ゼンマイを指先で挟む。
歯車が回る。私の時が動き出す。
今度は君たちを中心に、私の人生は廻るのだろう。
―・―・―・―・―・―
『Dounatsお題企画』参加
お題:まわる
本文400字
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