二四年八月の3つのお題140

 診断メーカー「小説で使いやすいかもしれないフリーお題メーカー」より、二〇二四年八月にTwitter上で掲載した140字の文章です。

 お題は「漂泊の果てに/汝氷を溶かすもの/海へ還る」。


●漂泊の果てに

 根無し草、などと言われていた。だけど、ずっと帰る場所を求めていた。人々に呆れられながら、皆で新天地を探して幾星霜。見つけたのは、森に埋もれた廃村。ここを私たちの故郷にしよう。

 建物を直し、水を引き、畑を耕し。植えたのは、幸福の種。

 これが育つ頃、私たちはどんな生活をしているだろう。



●汝氷を溶かすもの

 贈り物は苦手だ。すぐに別の人の物になってしまうから。

 礼ばかりで心動かさぬ私に、その人は何を思ったのか。次の日もやってきた。花を一つ携えて。

「すぐに枯れてしまうけれど」

 だからこそ貴女だけの物に。

 窓辺に飾られた花は、朽ちるまでそこにあった。

 奪われることに慣れた私の心が氷解する。



●海へ還る

 もういいか。

 執着も嫉妬も怒りも悲しみも、崖にぶつかる波音が洗い流した。残ったのは、砂の塊のように無様でもろい私の本心。

 直視した自分の思いに笑みがこぼれる。価値のない、けれど私の大切な私。せめて一緒に逝こう。

 崖を蹴り、海に飛び込む。私はこれから泡になる。海に溶けて、希釈する。

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