四月の5つのお題140
診断メーカー「5つのお題でやってみましょう」より、四月にTwitter上で掲載した140字小説です。
お題は「大切な物を失った/白くて潔き花の束/噛み痕/被虐心/行かないで」。
●大切な物を失った
失ってはじめて気付く、とよく言うが、今の私がそれだった。彼がいなくなってはじめて、その存在の大きさを知った。振り返ることもせず過ごしていた毎日は、彼が後ろにいると知っていたからこそ成り立っていた。
今、私も後ろには誰もいない。
この胸の寂しさはきっと気の所為ではないだろう。
●白くて潔き花の束
花束を贈られると困ってしまう。素直に好意を受け取るべきか、それとも花の意味を酌むべきか。
恋人から白いチューリップを贈られるとなおさらだ。
「どうしたの?」
「実は好きな人ができたんだ」
どきりとしたのを押し隠す。
「でも、振られた」
それで私のところに戻ってきたと。
なるほど、潔い。
●噛み痕
恋人の細い首筋に噛み痕を見つけた。吸血鬼だ。慄きながら問い詰める。
「実はね」
彼女はばつが悪そうに、夜の密会を告白した。聴くと、どうやら相手は女らしい。攫われることはないか、と複雑ながら胸を撫で下ろす。
「それでね」
不意に彼女が抱きついた。
「血が欲しいの」
首筋に舌が這わされる。
●被虐心
圧倒的な力で押さえつけられたとき、不覚にも胸が高鳴った。こちらを睨めつける昏い瞳に身体が火照る。
このままどうなってしまうのでしょう?
蹂躙の予感にときめいた。屈辱なんて感じない。悦びだけがここにある。
ああ、どうか私を暴いて!
私の切なる願いを受け入れて、男はさらに腕に力を込めた。
●行かないで
ふてくされた顔。うるんだ瞳。ひしと足にしがみついた子どもの言うことなど知れている。
参った。今すぐ出掛けなければいけないのに。
説得してみるが、応じない。ただ「いやだ」と言って泣くばかり。
甘えと切り捨てて振り払うのは簡単だ。でも、それは正解なのか。玄関で頭を抱えて途方に暮れる。
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