二月の5つのお題140

 診断メーカー「5つのお題でやってみましょう」より、二月にTwitter上で掲載した140字小説です。

 お題は「隣の新人/赤い唇/棺桶の中/迷い走る/犠牲にしてあげる」。


●隣の新人

 我が部署に三年ぶりに新人がやってきた。フレッシュな姿に、同僚たちの口元は緩んでいる。

 彼女の席は私の隣。私が彼女を指導することになった。

「何かあったら、何でも聞いて」

 先輩風を吹かせてそう言うが、内心では冷や汗が止まらない。

 三年前は私が新人だった。彼女は私のはじめての後輩なのだ。



●赤い唇

 その娘の唇は、白い肌によく映えていた。まるで瑞々しいリンゴ。齧り付けば薄い皮が破れて果汁が滴った。舐め取れば鉄の味。塗り込めれば唇はさらに赤く瑞々しくなる。

 忘我の娘の口元をなぶり尽くすと、ほう、と溜め息が漏れた。舌先が泳ぐのが見える。吸い寄せられるまま、もう一度果実に口付けた。



●棺桶の中

 夜分密かに墓を掘り返した。埋葬された死人が持たされる冥土への渡し賃を目的として。

 掘り出された棺桶を開けると、少女が眠っていた。心の中で詫びつつ手の中のものを失敬しようとする。

 が、そこには何もなかった。

 驚愕しているとその目が見開かれた。

「あんたが渡し賃になってよ」

 そして私は。



●迷い走る

 間違えた、と気づいたときには、もう遅い。一度この道を選んだ責任と矜持が、後戻りを阻害する。霧がかり先の見えぬ道を強引に突き進む。押し寄せる焦りと不安が足を速めた。

「頼ればいいのに」

 どこからか呆れ声。歯を食いしばり正論を振り払う。足を止めないことが出口に至る唯一の術と信じて。



●犠牲にしてあげる

 その笑みを見た瞬間、戦慄が走った。黒曜石の眼差しはひたと自分を見つめ、真っ赤な唇は三日月のような弧を描いている。

 それよりも怖いのが、彼女の手にあるナイフ。銀の光を弾くそれは、先端が赤く濡れていて。

「貴方も犠牲にしてあげる」

 意味も分からず後退りする僕の腹に、銀光が吸い込まれ――。

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