一月の5つのお題140

 診断メーカー「5つのお題でやってみましょう」より、一月にTwitter上で掲載した140字小説です。

 お題は「喫茶店で/祈祷/幼少時代/血を嘗めて/迷宮」。



●喫茶店で

 店内の曲が切り換わり、思わず口の端が持ち上がる。彼と付き合うきっかけになった、冬が終わるこの時期にピッタリの曲。外はまだ寒いけれど、手元の紅茶と想い出が私を温める。

 店のドアのベルが鳴る。遅刻してきた待ち合わせ相手。

 雰囲気を壊す不躾な騒々しさが相変わらずで、思わず笑ってしまった。



●祈祷

「大丈夫。あなたの願いはきっと神様に届いています」

聖女になり半年ほど。毎日のように、誰かが私に縋りに来る。その度に言うのが、この文句。

「ありがとうございます」

仲介しただけの私に向けられた、涙混じりの言葉。それだけで私も願わずにはいられない。この祈りがあなたに届いていることを。



●幼少時代

 君の隣に立つのは当たり前のことだった。今も昔も変わらない。なのに、いつの間にかその手を握ることだけは躊躇われるようになった。

「どうかした?」

 俺の心境など知らず、君が見上げる。無垢な眼差しは垣根など感じていないようで。

 君はまだそこにいるのか。

 俺だけが変わってしまったのだろうか。



●血を嘗めて

 僕の唇に白い指先が触れる。生温かい液体の感触と、鉄の匂い。

「嘗めて」

 笑みを含んだ声に、僕は唇を噛みしめるやはりささやかな抵抗。けれど、唇に触れる液体の気配に喉は無意識に鳴った。

 血を嘗めた者は嘗めさせた者の服従を誓う。それは子供の戯れ。だが、僕は抗いがたい誘惑を覚えた。



●迷宮

 人生は迷宮のよう。道中に壁が立ち塞がり、右も左も分からない。

「大げさな。道案内は居るじゃないか」

 確かに手を差し伸べられることもあるが、壁に行き当たらないことはなくて。

「順風満帆とは行かないさ。周囲をどう利用するかだ」

 そう言ってのける彼は、要領よく人生を通り抜けていくのだろう。

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