十二月の5つのお題140
診断メーカー「5つのお題でやってみましょう」より、十二月にTwitter上で掲載した140字小説です。
お題は「二人マフラー/血液入り注射器/恋い焦がれた容貌/懺悔しろ/子供心」。
●二人マフラー
初めて編んだマフラーは、長さを誤って、二重に巻いてもなお先端が彼の膝に届くものだった。編み目の不揃いな緑のニットを抱えて立ちすくむ。
「だったらさ」
彼はその長い先端を、私の首に巻きつける。私のほうが少し短いが、手を繋げばちょうどいい。
「首締めるなよ?」
笑って言う彼の掌も温かい。
●血液入り注射器
朝起きて、慌ただしく家事をして、それなのにご飯を食べることはできなくて、そうして臨んだ健康診断。
針を刺された腕。アンプルの中に血液が満ちていくに連れて、私の身体は冷えていく。
「頭を伏せて」
指示に従う中で暗転していく意識。
低血圧では健康診断さえ危ういのかと思うと、やりきれない。
●恋い焦がれた容貌
鏡を覗いてうっとりする。ずっと憧れていた貌がそこにあった。涼し気な目元。ぷっくりとした唇。高い鼻梁。凡庸な私の面影などない。
「化けたな〜」
鏡の中の私に見惚れる私に、彼は呆れ声。私は顔に似合うよう艶やかに笑う。
「オタクの本気を思い知ったか」
長年磨いてきた化粧技術が今開花した。
●懺悔しろ
「懺悔しろ」
玄関に膝をついた俺を彼女は睨み下ろす。
「あれだけ言ったのに」
噛み締められた唇が歪んだ。
「できないなら私がやるって言ったよね?」
詰る声に涙まで混じった。
「もう知らない」
チキンの予約を忘れた食卓。クリスマスケーキと一緒に並べられたカップ麺を前に、俺は許しを請うた。
●子供心
感情的に怒りをぶつけ、耐えきれなくなって一人部屋に逃げ込んだ。親としての不甲斐なさに膝を抱えていると、もたれた扉の向こうに気配があった。
あれだけ怒られたのに。眉を顰める。
声はなかった。扉に寄り添う気配だけがあった。
この現実をどう受け止めたら良いだろう。分からず私は涙した。
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