十月の5つのお題140

 診断メーカー「5つのお題でやってみましょう」より、十月にTwitter上で掲載した140字小説です。

 お題は「懐かしき香り/ガラスの破片/血飛沫/儚い思い出/ともだち」。



●懐かしき香り

 金の花の匂いが満ちたあの場で、私たちは出逢った。

 貴女は白で、私は黒。私は貴女に惹かれたというのに、貴女のいろはどうしても私のいろを受け付けない。

 ならば、排除してしまいましょう。

 槍を手に取る。貴女は鎌。剣戟を奏でて幾星霜。

 貴女は出逢いを覚えてる?

 私は今でもこの香りに酔っている。



●ガラスの破片

 私と相対する貴女は、いつも鋭い刃のよう。

 だけど、ある日見かけた独りの貴女は脆く儚い壊れ物のようで。

 槍を躱す。当たらずとも斬れそうなほど鋭利なそれは、魅惑的な貴女の顔に浮かぶ獰猛な微笑に等しくて。

 どちらが本当の貴女なの?

 そんなことは決まっている。どちらも貴女の一欠片。



●血飛沫

 迫るきらめきに胸が高鳴る。死の気配を前に唇は笑みを象る。

 戦いは私を高揚させる。

 生の証。貴女が真剣に私に向き合っている証。

 この感情が歪んでいることは知っている。それでもこの刹那に心躍らせずにはいられない。

 視界に入る血飛沫。胸元に走る痛み。

 唇を噛み締めた貴女に笑んで私は崩折れた。



●儚い思い出

 血塗れた身体で倒れる貴女の姿に、霞んだ過去を幻視する。草原に寝そべり、空を見上げた貴女。その隣に座りこむ私。

 金木犀の香りに包まれて交わした言葉はどんなものだっただろう。

 今はもう遠い過去。小さな金の花は雨に打たれて散った。噎せ返るような芳香のあっけなさに、血溜まりの上に膝をつく。


●ともだち

 貴女が知りたいだけだった。私を知ってほしいだけだった。

 当時の私はその情動の名を思い浮かべることができず、もどかしさのあまり武器を選んだ。

 薄れゆく意識の中で、ようやくその言葉が浮かぶ。

「私はただ、貴女とともだちになりたかっただけだった」

 私の右手を包み込む貴女の答えは聴こえない。

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