5つのお題

八月の5つのお題140

 診断メーカー「5つのお題でやってみましょう」より、八月にTwitter上で掲載した140字小説です。

 お題は「袴姿/十六夜月/狂気/加虐心/遠距離電話」。



●袴姿(「花守奇譚」より)

 普段は着流しの燈架だが、勤めの際は袴を履く。すると道楽者から勇ましい狩人に印象が変化する。

「お前も履くか?」

 羨ましそうな颯季に燈架は言う。しかし颯季は首を横に振った。

「前に履いたんですが」

 颯季は落ち込んだ。

「女の子に見られて」

 燈架は押し黙る。彼が詰襟姿なのはそういうことか。



●十六夜月

 夜の帳が下りた通りは静まり返り、緊迫した空気に包まれる。草履が砂利を踏む音がやけに大きく聴こえた。

 街を抜け、丘を登り、目的地へ急ぐ。背後から十六夜月が道を照らしてくれた。

「遅れたけれど、今行くよ」

 手を差し伸べてくれた彼ほど強くはないが、自分もまた同じく標になろうと決めたから。



●狂気

 畳に這いつくばる女の姿に愉悦を覚えた。豪奢な着物が切り裂かれ愕然とした顔に喉が鳴る。

「お前、親になんてことを!」

 耳障りな声で詰る母親にもう一度刃を突きつけた。ここに来る前に放った火が二人に迫る。

「狂ってる!」

 狂乱状態で叫ぶけど。

 でも母様、そもそも貴女がはじめたことでしょう?



●加虐心(「花守奇譚」より)

 その方の大事なものを手に入れたとき、背筋が震えた。

 腕の中の子が怯えた表情を見せたとき、体が火照って仕方なかった。

 ずっとずっと欲しかったもの。手にした私は幸せでいっぱい。

「ああ、とってもおいしそう」

 白が血に染まって涙する少年に胸が高鳴って仕方がない。

 これからどうしようかしら。



●遠距離電話

「元気かい、妹よ」

 電話口で問えば、そっけない返事。良い時代だと思う。幾日もかかる場所の妹の近況を、数分で尋ねられるから。

「あの子が湖に落ちて、もう二年だよ」

 帰郷を促すと承諾の声。妹に会える嬉しさと弟に会えない寂しさが押し寄せる。

 いつか湖の底にも電話が繋がる日が来ればいいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る