ただいま、我が故郷

 久しぶりに帰ってきた故郷。青い田んぼと青い山。夏の田園風景を目の当たりにして、オレの口元が綻んだ。

 二年前、お洒落の〝お〟の字もないこんな田舎が嫌になって、大学進学と同時に都会に出た。だが、都会の忙しない空気は合わず、大学でできた友人たちとは見栄の張り合いをするばかり。心をすり減らすばかりの日々に疲れたオレが思い出したのは、一度拒絶したド田舎の光景だった。

 草木の青臭い匂い。ボロボロの駅舎に、煩わしい虫の声。

 だが、熱気で淀んだ都会と違って空気は清々しいし、古いだけだと思っていた建物は、情報量の少なさが居心地の良さを作り出すのだと知った。虫の声なんて、人や自動車の喧騒に比べたら小さなものだ。

 ここには、現在のオレが求めていたもの全てが揃っている。


 白っぽくなっているアスファルトを歩く。目指すは我が家。これもまたオンボロの平屋だ。昔はテレビで有名人が探訪しているような、お洒落な二階建てに憧れた。だが、実際に都会で現物を見てみると意外に窮屈。ガキの頃家中を駆け回っていたオレには合いそうにない。

 結局自分は生まれながらの田舎者なのだと思い知った。昔はそれが嫌だったけれど、今はそうでもない。


 玄関の引き戸が開いて、誰かが出てきた。背の低い、短い髪にパーマがかかったおばちゃん。よれたシャツと、くたびれたズボンに、古びた赤いチェックのエプロンを着けている。

 その姿に、心が浮き立つ。


「ただいま、母ちゃん!」


 手を挙げて声を張れば、縁側前の物干しに向かおうとしていたおばちゃんが振り返る。こちらを向いて怪訝そうに眉を顰めていた。


「オレだよ、オレ!」


 あんたの息子だよ。

 息子を認識した母は、目を剥いていた。それもそうだろう、二年前に出て行ったきり帰ってこなかった息子は、髪を金に染め、耳にピアス。大きなロゴ入りシャツとダメージジーンズを履いている。アクセサリーだってジャラジャラだ。この辺りじゃ到底見かけることのない恰好。場違い。気違い。この場所じゃ、そんな風に言われても仕方がない。

 それでも、生まれ故郷は温かく俺を迎え入れてくれる。

 古びた畳。時代遅れのちゃぶ台。売れないタレントがしゃべくっているだけのローカル番組。

 疎ましかったもの全てが愛おしさに変わる、夏の日の午後のことだった。




―・―・―・―・―・―

即興小説トレーニング

お題:オレだよオレ、故郷

制限時間:15分

挑戦時完成度:未完

※投稿に際し、『〜オンボロの平屋だ』以降を加筆。

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