「即興小説トレーニング」挑戦作

芸術家

 暗闇にナイフが鈍い光を放つ。

 雑居ビルの中の小さな部屋。暗い色の絨毯の上に、女が一人転がっていた。夏色のラフなワンピース。その胸の上が赤く染められている。

 彼女の死を前にして、ナイフを持った男はにたりと笑う。


「うん。なかなかの出来だ」


 天井を睨む虚ろな瞳。床に広がった長い髪と、力なく放り出された手足。息絶えた彼女の顔に浮かぶのは、恐怖とも絶望とも違う、虚無。緩んだ口の端から流れた涎が、外から入り込む光を弾いていた。


「苦悶も恐怖も絶望も、ずいぶんと見飽きたからね。こういう表情は目新しくて、だいぶ唆るなぁ」


 女の脇にしゃがみ込み、ナイフを床に置いて、男は愛おしそうに女の虚ろな顔を撫でた。


「タイトルは……そうだな」


 涙さえ流す暇のなかった瞼の下を親指で撫で擦りながら、男は思案する。




「〝恍惚〟なんて、どうだろう?」



―・―・―・―・―・―

即興小説トレーニング

お題:彼が愛した殺人

制限時間:15分

挑戦時完成度:未完

※投稿に際し、ラスト一文の追加と空白行挿入を実施。

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