第13話 再確認

「ありがとうございました。」

私と父は深々と頭を下げると、病院を後にした。

「父さん!退院おめでとう!」

そう言って、父の腕を掴んだ。

「ありがとう。真琴。いろいろと助けてくれて…片桐くんからも話を聞いたよ。みんなのおかげで、無実が立証された。助かったよ。」

私はそのまま、父を支えて腕を組んで歩いた。

「みんなにもお礼言わなきゃだね。」

「そうだな。いろいろ心配かけたけど、来週には復帰するよ。」

「えー?もう?せっかくだから、少しゆっくりしてからでもいいって、校長先生も言ってたのに…」

すると、父は間も置かず、

「早くみんなの元気な顔が見たいんだ。」

父は前を向いて、明るい顔を見せた。

「結局、お父さんは教師の仕事が好きなんだね。」

「そうだね。みんなの顔を見てると、私の方が元気をもらうよ…でも、自分の仕事を優先するあまりに、家庭の事や真琴の事、きちんと見てあげてなかった…すまなかった。」

そう言い、父は私に少し頭を下げた。

「そうだね。一緒に過ごす時間は少なかったけど、でも、私を想ってくれてたってわかったから…今は大丈夫。」

「そうか…」

そう言って、父は私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。


結局、この事件は、あのボイスレコーダーを見つけた事で解決に至った。

素人では雑音が多くて聞き取れず、警察で音声解析をした結果、どうやら揉めた時にカバンを落としたはずみで、ボイスレコーダーが転がり、スイッチが入ったようだ。

警察が乗り込んでくる直前に、犯人が叫んだ一言が自供に繋がった。


「覚えてろよ。全部罪をお前たちにふっかけてやる!」


******


私は1週間ぶりに学校に登校した。廊下の向こうから、かおりが歩いてくるのが見えた。

「なんか久しぶりな感じ〜」

そう言い、私は両手を伸ばしてかおりに抱きついた。かおりも私をギュッと抱きしめて、

「お疲れ〜。お父さん元気になってよかったね。」

そう言うと、私の背中をポンポンと叩いた。

私はかおりとの久々の再会を、しみじみと味わっていた。父さん、私もわかるよ!学校に来て水野先生やかおりたちに会うと元気をもらうもん!

すると、教室から佐野くんが飛び出してきて、かおりと私を丸ごとハグした。

「よかったよ〜高杉〜。心配したんだからな!こういう時こそ、俺らをもっと頼れよ。」

「そうよ!私もいつ真琴が言ってくれるか待ってたのよ。」

「ごめん。ごめん。でも、強力な若い助っ人がたくさんいたから、大丈夫だった。」

「若い助っ人?それって、男でしょ?」

かおりが冷やかすように、ちょっといじわるな顔で言うと、

「マジか?男?」

佐野くんが少し慌てた様子で、そう言った。

かおりは、「何どさくさに紛れて、抱きついてんだよ〜」と言いながら、膝で佐野くんを小突いた。小突かれた佐野くんはお腹を抑えながら「何すんだよー」また喧嘩してる。

私は2人の様子を見てると、ホッとして笑い出してしまった。

そんな私を見てかおりと、佐野くんも笑い出した。


すると、かおりの肩越しに水野先生が見えた。

「先生!」

「ほらほら、久々の再会を喜ぶのもいいが、予鈴が鳴ったよ。早く教室へ入りなさい。」

「はーい。」

慌てて教室に入るかおり、佐野くんに続いて、私が教室に足を踏み入れようとすると、先生に腕を掴まれ、引っ張られた。私は反射的に振り返ると、

「いろいろ大変だったな。聞いたよ。よく頑張ったな。さすが俺の尊敬するタカさんだ!」

不意をつかれた。そんなふうに言ってくれるなんて…

友達もいなかった幽霊と言われた私が、今は抱きしめてくれる友達もできた。

そして、先生に掴まれた手から、温もりを感じながら、ふいに涙が溢れて来た。

「本当にすごく頑張ったんだね。」

一段と優しい声で、そう言って私の肩に手を置いた。

私の目からはポロポロと涙が溢れた。

「先生…私、先生が…す……」

「ん?」

先生に顔を覗き込まれ、慌てて口を閉じた。

いかんいかん。何、空気に流されて告白しようとしてんの。まだ、ダメダメ!

「泣いたかと思ったら、今度は真っ赤だぞ!忙しいなぁ、タカさんは!本鈴だ。教室に入ろう。」

背中をゆっくりと押され、私は涙を拭いながら、教室へ入って行った。


******


「なんなの?なんなの?さっきの雰囲気は…」

休み時間になると、待ってましたと言わんばかりに、かおりが私の机まで駆け寄って来た。

「めっちゃいい感じだったじゃん!」

「そ、そうかな?私も雰囲気に流されて告りそうになったよー。」

「それより、佐野には?ちゃんと返事したの?」

「あ!」

思いの外、大きな声が出て私は慌てて口を塞いだ。少し身をかがめながら、コソコソと、

「忘れてたよー。」

「ひどい女だなぁ〜」

「さっきもいつも通りに接してくれたから、すっかり…」

「どっちにしても、やっぱり返事はすべきだと思うよ?そうそう、デートはどうだったのよ?それも聞いてなかったよ。」

「それが…」

「それが?あー、佐野は女に慣れてないからね…」察したようにかおりがそう言った。

「ううん。それが、すごい理想的なデートで、楽しかったの!もちろんデートなんて、わたしも初めてのことで、すごい緊張してたんだけど、楽しくて…」

「へー、じゃあよかったんだ。佐野にしとく?」

私はすぐに首を横に振った。

「そっか…まあ、こればっかりは仕方ないよね。」


私はやっぱり先生が好き。さっきも、俺の尊敬するタカさんって言ってくれた。先生の優しい温もりに蕩けてしまいそうになった。先生の腕に包まれたい…

前よりもっともっと先生の事知りたいし、私のこと知って欲しい。


******


私は久しぶりに、ゲームのコントローラーを手に取った。

「さあ、タカさんの復活よ!」


しばらく離れていたけど、腕に狂いはなかった。

一気にランクアップしたところで、ボイスチャットが入った。

「タカさん復活おめでとう!さすがだね。」

私は突然のチャットに驚きながら、インカムを掴んだ。手から滑り落ちそうになるのを、なんとかキャッチして、応えた。

「勇者様!…ありがとうございます。」

「ゲームと同じで、タカさんは次々とレベルアップしてるね。人としてもどんどん魅力的になっていて、その成長ぶりに驚かされるよ。」

めっちゃ嬉しい〜〜〜!

「ありがとうございます。勇者様こそ、私の憧れです!」

うわぁ、調子に乗って言っちゃったよ〜。

私はバレないように、足をバタバタして悶絶した。

水野先生。大好き!

私の気持ちも加速していた。

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