第11話 真実

せっかく努力して積み上げて手に入れた新しい生活。

私も同じだからよくわかる。

おばけだ、幽霊だ〜と言われてた私にはもう戻りたくない。

でも…

「ヒロくんは、どうしたい?今の新しい生活を守りたいんだよね?」

「はっ…はい!」

彼の頬には涙が伝っていた。

「でも…怖いんです。奴らも!先生を巻き添えにしてしまったことも…どうしていいのか…でも、先生に申し訳なくて…」

「きっと父は、そんなふうには思ってないわ。君を見かけたって話したら、嬉しそうにしてたよ。」

「え?」

ヒロくんは目をまん丸にして、とても驚いていた。

「僕…先生のこと騙して置き去りにしてきたのに…」

「詳しく話してくれる?」

私はヒロくんの背中に優しく手を置いた。


ヒロくんの話は、こうだった。

小学生の時のイジメっこの奴らに呼び出されては、お金をせびられるようになり、いじめられてることを悟られたくないヒロくんは、家のお金を黙って持ち出して渡していた。

ヒロくんの様子がおかしいと気づいた私の父が、話を聞いて力になると約束し、奴らとの待ち合わせ場所に父を呼び出したが、ヒロくん自身は影に隠れたまま、出ていけなかったそうだ。

そこへ現れたイジメっこ達は、父の事をヒロくんの父親と誤解したらしい。

お金を巻き上げるだけで足りず、なんとドラッグを売りつけようとした。

「これ買ってくれたらさー俺も小遣いが出来るんだよねー、しかも、俺らと関わってたと世間に知れて、息子の人生に汚点残したくないよなー」とか脅迫まがいな事を言ってきた。

もちろん父はそんなことを見過ごす事ができず、根掘り葉掘り誰から入手したのかなど追求し始めたその時、

ウーーーウーーーッと遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえた。

「もしかして、お前!サツか?」

そう言うとバラバラに逃げ惑う奴ら。父はその1人を捕まえた。しかし、揉み合いになり暴れて殴られてしまった。しかし、必死でそいつの胸ぐらを掴み返したところ、

「止まりなさい!」

とその場に駆けつけた警察官に捕まったそうだ。

警察はヒロくんが事前に呼んだらしいが、そのタイミングが良くなかった。

父が高校生の胸ぐらを掴んでいたところ、そして、父のポケットにドラッグが入っていたことだ。

「あちゃー。」

私は天を仰いだ。それは誤解されるわ。

「しかも、あいつら自分たちの方が脅されたとか嘘ばっかりで…」

「つまり、父の無実を証明するしかないってことね。」

「もちろん警察も奴らの嘘を鵜呑みにはしてないんだけど、先生の無罪を証明する証拠も見つからなくて…」

「ヒロくん!その場所に案内してくれる?」

「はっ…はい!」


こんな事をしても、警察でもまだ捜査中なのに、私に何か出来るかなんて思ってないけど、じっとしてるわけにはいかなかった。


奴らとヒロくんとの待ち合わせは、必ず口頭。メールなどのやり取りは残ってない!ヒロくんの下校に合わせて、奴らがやってくる。

そして、いつもこの高架下に連れてこられていたと。高架下は資材が置いてあったり、物置小屋があったりして、通りからは死角になっていて見えない。もちろん監視カメラもない。

結構ズル賢い奴らだなぁ。本当に中学生なの?信じられない!


「どうしよう。道すがらの監視カメラは警察がチェックしてるだろうし、私たちは他の目撃情報を入手しなきゃ。」


私たちは現場から学校への道を歩きながら、店先の人や歩いている人に、目撃情報を聞いて回った。

すると、とあるパン屋の奥さんが、

「あ!君なら何回か見た事あるよ。悪そうな連中に囲われて、引きずられるように連れてかれてるから、心配してたんだよ。なんかあったの?大丈夫かい?」

「その目撃情報、録音させてもらっていいですか?」

そう言うと、奥さんはきょとんとした顔をしながら、

「いいよ。いいよ。そんな事で役に立つなら。」

と、快諾してくれた。


そうこうしてるうちに、数件の目撃情報を得られた。

そして、だんだん学校へ近づいてきた。

「ここまでにしようか…」

私はそう言った。

「え?どうしてですか?」

ヒロくんは驚いた顔をした。

「だってここから先は圧倒的に学校の生徒達が多いでしょ?聞いて回ると、ヒロくんの事がバレてしまう。」

「あー。」

ヒロくんの声のトーンが下がった。

「とりあえず、今日は帰ろう。」

その場を立ち去ろうとした私の腕をヒロくんが掴んだ。

「いたっ…」

思いの外、力強く掴まれ、痛みが走った。

「俺…結局いつも逃げてばっかりだ。これじゃ見た目が変わっても、いつまでも中身は同じ腑抜けのままだ。」

そう言うと、ヒロくんの手の力が抜けて、私の腕から手が離れた。それに反して、とても力強い声でヒロくんがこう言った。

「真琴さん!付き合ってくれますか?」  

「え?この流れで?いや…私、すきなひとが…」

「聞き込み続けます!」 

2人同時にセリフが被った

「え?」

私たちは顔を見合わせた。 

私の勘違いだ!恥ずかしい!今までそんなこと言われたことなかったから、なんかそのセリフにときめいちゃったよ。恥ずかしい!!

「あー、聞き込みね。うんうん。最後まで付き合うよ。」

顔が熱い!自分でも顔が真っ赤なのがわかった。

何やってんだ!私のバカ!

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