第8話 ファイナルステージ?

私はモヤモヤした気持ちを抱えたまま、週末を迎え、佐野くんとのデートの日を迎えた。


今までなら、私が男の子とデートなんて、全く考えられなかった。

ついこの前までは、幽霊だ〜ホラーだと騒がれていたのが嘘みたい。

それだけ、私変われたのかな?

見た目は、高校生らしい髪型にメイク。そして、清潔感のある服装。姿勢や立ち居振る舞い。今の私は颯爽と街を闊歩できるようになった。

一つずつステージをクリア出来たかな?

魅力的に変われたかな?


待ち合わせ場所に近づくと、さすがに私も、男の子との初デートに緊張してきた。

「よっ。」

20分前なのに、佐野くんはもう待っていた。

「おはよう。早いね。」

「ああ、俺から誘ったのに、遅れるのはマナー違反だろう?」

「そんなことは…」

私は緊張からか、いつものように喋ることができなかった。

少し気まずい沈黙が流れた。

それにもめげず、佐野くんは照れながら、

「高杉。めっちゃ可愛い。」

と突然言うので、私は聞き慣れないセリフに驚いて、真っ赤になった。


「あ、ありがとう!どこ行くの?」

私は、照れ臭くて話を逸らした。

「理想のデート!」

そう言うと、私に手を差し伸べた。

「今日だけ恋人ごっこだ!」

差し伸べられた手を、私は躊躇いながら、そっと握った。

うわぁ。男の子の手って、こんなに骨張ってて、あったかいんだと思ったら、何だかドキドキした。


まさに、理想のデートコースだった。

映画を見て、人気のカフェで、ランチとお茶をして、夕方は、海辺を散歩した。


綺麗な夕日が海を照らし、眩しいくらいキラキラしていた。吹く風も心地よくて、私のモヤモヤしていた気持ちも、すっかり晴れ渡って穏やかだった。


犬と散歩する人やカップル、学校帰りの高校生たちも、綺麗な夕日を楽しんでいた。


初めてのデートは、佐野くんのあったかい人柄もあって、とても楽しかった。


2人でたわいもないおしゃべりしながら、笑った。ゆっくり私の歩調に合わせて歩いてくれているのがわかる。

すると、佐野くんが誰かを見つけたようで、

「偶然だな。」と言って、少し前を歩くカップルに声をかけた。

振り返って、とても親しげに話をしている男の人は、佐野くんより大人の雰囲気だった。


そして、隣にいる女性に目をやると、どこかで見覚えが…

「この前の!正門前の!」と私は声に出してしまった。


女性が振り返ると、まさに水野先生に会いにきた、あのカッコいい系オトナの女!ラスボスだった。

「水野先生の彼女ですよね?!」と私が混乱していると、

「高杉!コレが俺のにいちゃん。」

そう言って声をかけた男性を指差した。

すると、そのお兄さんが、

「そして、コレは俺の彼女!」

そう言って彼女の肩に手をかけた。

すると、その彼女が、

「誠の彼女?勘弁して欲しいわ。姉よ姉!誠の。この前の正門の事を言ってるのね。誠、勤務中は携帯繋がらないから、会いに行っただけよ。」

それでも私は先生のその後が気になった。

「急に車で出て行って、翌日も欠席だったんですが、何かあったんですか?」

いつもなら空気を読んで、そんな事突っ込んで聞いたりしないのに、どうしても気になる気持ちを抑えられなかった。側にいる佐野くんの苦笑いにも気づかずにいた。


「あー、実はね。母が仕事中に倒れたって連絡があったから、車を持ってる誠と一緒に病院に駆けつけただけよ。でも、母も体調不良だっただけで、そんな緊急を要する病気とかじゃなかったのよ。でも、誠が心配してね。検査入院に付き添ってたの。」

「そうだったんですね。よかったぁ。」と胸を撫で下ろした。

3人の視線が私に集中しているのに気づいて、

「ああ、お母様大病とかじゃなくて良かったですね。」と、慌てて付け足した。


はあー。今日は、なんか疲れた。帰宅した私はベットにうつ伏せにダイブした。

1日で、いろんなことありすぎて。

でも、よかったぁ。ラスボスじゃなかったんだ。枕に突っ伏したまんま、自然と顔がニヤけてしまった。

と言うことは、ミッションコンプリート?!

ベットの上で思いっきり両手を伸ばした。


きっと先生は、生徒と先生の立場じゃ、断るに決まってる、だから卒業を待って告白するのよ。それまでに先生に好きになってもらわなきゃ。


夢見て浮かれていた私は、まさかそんな思いがけない事件が起こるとは思っていなかった。


******


いつも遅くに帰宅する父が顔に怪我をして帰ってきた。

「どうしたの?何があったの?」

私は驚いて大きな声を上げた。

父の体を支えるように、付き添っていた母が黙ったまま私に目配せをしながら、横に首を振った。

私は手で口を押さえた。


「ちょっと横になるよ。」そう言うと父はゆっくりと寝室に入って行った。いつも姿勢のいい父の背中が項垂れていた。

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