第6話 自信

今朝までの私とは、全然違う。

まるで長い長いトンネルを抜けたようだ。

私、家族から、ちゃんと愛されてた。

私が勝手に壁を作ってただけで、今は、姉の事も素直に受け入れられる。

今すぐ、人が変わったみたいに、仲良くおしゃべりしたりとはいかないけど、少しずつそうなっていけばいいな。

そんなことを考えながら、駅に向かって2人で並んで歩いていると、すれ違った男の人が、振り返って姉の名前を呼んだ。

「真央!」

なんとそこには先生が立っていた。

「誠先輩!」

2人はただならぬ雰囲気で見つめ合っていた。

私のことなど視界にも入ってない様子だった。

「ちょっと話せるか?」

先生は、姉の腕を掴んだ。

「…先生…」

私はか細い声で呟いた。

その声でハッと我に返ったのか、先生はやっと私に視線を移した。

「え?タカさん?」

先生がそう言うと、今度は姉が私と先生の顔を交互に見た。

「え?どういうこと?」


結局、2人きりで話がしたいと言うことで、私だけのこのこと家に帰って来た。


めっちゃ気になる。どういう関係なの?先輩ってことは、大学の?

でも、先生のただなるぬ様子。

私はもう何も手につかなかった。

かと言って、何もしないでいると、頭の中を2人が駆け巡って、あらぬ妄想までしてしまう。

そう!こんな時は、ゲームよ!ゲーム!

みんなをバッタバッタと倒してやる!


しかし、その日、私の戦い方は無茶苦茶だった。ただのストレスの捌け口となった試合は、ただ闇雲に技を出しただけで、ボロ負け。いつもの戦い方が出来なかった。


「ただいまー」

遅くになって姉が帰って来た。

待ち切れず、ドタバタと階段を降りると、

「なんの話だったの?先生と知り合いだったの?…もしかして、先生の彼女とかじゃないよね?」

怖いけれど、モヤモヤするのも嫌で、真髄を突いた。

すると、姉は躊躇いながら、

「担任の先生なんだよね?あんまりプライベートの話はしてほしくないと思うから、私の口からは言えないわ」

何それー!!!私は何も言えず固まってしまった。

かえってめちゃくちゃ気になるじゃん!


そして、私はゲーマーとして長い間君臨し続けたトップの座を、雪崩が起きたように転げ落ちた。


「タカさんついにトップの座を明け渡す」

「なにがあったタカさん?」

「タカさんの時代は終わったのか?」

そんなコメントがたくさん並んだ。


ストレス発散になってたのに、立ち向かっていく元気も、もう興味も湧かなくなってしまった。


よく考えてみれば、クラスの子が見かけた小柄でストレートの長い黒髪が綺麗って、姉にピッタリじゃん!しかも名前呼び!灯台下暗し?!

お姉ちゃんがライバルじゃ、どんなに努力したって勝てるわけない。


どこまで行っても自信がない。外見が変わったからと言って、急に自信がつくものじゃない。

もう何だか気力まで無くなってしまった。


私はショックのあまり、翌日は体調不良と言って、初めて学校をサボった。

いやだ。いやだ。他の誰かなんて嫌だ。しかも、姉が彼女なんて。絶対やだ。幸せそうな2人の姿を間近で見るなんて私には耐えられない。

せっかく姉ともこれから仲良くできるかもって思ったのに。

いつもいつも選ばれるのはお姉ちゃん!

結局は、私はいつも姉の影。誰の目にも映らない。

私は涙が止まらなかった。

頭から布団をかぶって1人泣き続けた。

そして、いつのまにか泣き疲れて眠ってしまっていた。


「タカさん!」

深い眠りに落ちていた私は、体を揺さぶられ目を覚ました。でもまだ、頭はぼーっとしていた。泣きすぎて頭が痛い。

「なぁに?まだ眠たいの!」

布団を剥ぎ取ろうとするのを私は取り替えした。

「なにじゃないよ。どうして今日休んだんだ?」

「だって、ショックだったんだもん。」

「何が?」

「何がって…あれ?…」

夢?じゃない?この声、先生?やだ!

私、すっぴんで、パジャマだ!

先生に見られるのが嫌で、布団に潜り込んだ。

「な…な、なんで先生が私の部屋にいるの?」

あまりに突然のことで、心臓がバクバクした。

「なんでって?!お前が学校休んだからだろ?」

「なんで部屋にいるの?って聞いてるんですよ。」

「ああ、さっきまで真央が居たから入れてもらった。でも、もうバイトに行ったから。」

「うち…知ってたんですか?」

「何度か真央を送ってきたからね。しかし、昨日会うまでは、まさか姉妹だとは気づかなかったなぁ。あんまり似てないもんな。」

そう言われて、胸がズキンと痛くなった。

「先生…」

「ん?」

「姉の事…どう思ってますか?」

「え?どう?可愛い後輩だよ?」

可愛い?そりゃそうだよね…

「彼女にしたい?」

布団に潜り込んだまま聞いた。先生の顔を直接見たくなかった。どんな返事が返ってくるか怖くもあった。

「彼女?それはないよ。どうして、そんな事聞くんだ?」


え?そうなの?じゃあ、私のことは、どう思ってる?心の中で問いかけた。

私が黙ったままなので、

「昨日は元気そうだったのに、今日は休みだったから、心配したんだぞ。ほら、ちょっと顔を見せろよ。せっかく顔を見に来たのに。」

そう言い、先生が布団を引っ張った。

「いやですよー。すっぴんだし、パジャマだし」

「すっぴんでも、タカさんは十分可愛いよ。」

「うそ!うそよ!」

「うそなんかつかないよ…普段無表情なのに、たまに笑うと、ドキッとするんだよな。昨日会った時もいつもと雰囲気が違って、一瞬見違えたよ。」

「え?」

そうなの?私はおそるおそる布団から顔を覗かせた。

「良かった。思ったより、顔色いいな。」

そう言うと、私の頭に手をやり、くしゃくしゃっとした。

「子供扱いはやめてください。」

突然の事で、ドキドキしながら、顔が赤くなるのを布団で隠した。

「寝癖ついてるよ。」

「え?ほんとですか?」

慌てて、机の上の手鏡に手を伸ばすと、手首を掴まれて、

「冗談だよ。冗談。元気そうでよかった。」

そう言って先生が笑った。

私はますます真っ赤になった。

そして、2人の視線が合うと、タイミングが分からず目が離せなくなった。先生に見つめられその目に吸い込まれるように、

「先生…私、先生が…先生の事が…」そう言いかけた時、

ピンポーンと家のドアホンが鳴った。

「俺、見てくるよ。タカさんは寝てなさい。」

先生は立ち上がって部屋を出て行った。

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