第5話 知らなかった真実

翌日、珍しく姉が姉らしく、せっかく高校デビューしたのだから、服を1着プレゼントしてあげると言い出した。

今までは、そんなことを言う姉ではなかった。

姉は世界が自分中心に回ってると考えているのではないかと思っていた。

なぜなら、いつも人の中心にいて、人気者で、みんなから頼りにもされ、愛されていた。もちろん、両親からも。

でも、私は姉妹なのに、遊んでもらったことも、気にかけてもらったこともなかった。


そんな姉の言動に驚き、

「え?どうしたの?」と言ってしまった。

「そんなに意外?ならいいわよ。」

少し拗ねたように言う姉。

「いやいや、ぜひお願いします。」

慌てて姉の腕を掴んだ。

私も今までのダサい服は嫌だったし、プチプラと言えど、化粧品にコンタクトにと、出費がかさんでいたから、ちょうどよかった。


こうして、2人で街に繰り出した。こんな事は初めてだ。


「これ、似合いそうじゃない?」

鏡の前で嬉しそうに、私に服を当ててみる。

「いやいや、そんな短いのはないでしょ?」

私の顔が引きつった。

「女子高生なら、こんなのみんな着てるわよ。ほら、見て!」

姉とのショッピングは、意外にも楽しかった。

もっと以前から対等にこうして並んでいたかった。そうしたら、今とは違う、もっと仲の良い姉妹になれたのに。


「うん!そのワンピースバッチリ!似合ってる!それにしよう。あ、これにします。このまま着ていくので、タグ取ってもらえますか?」

姉は慣れた口調で、店員さんに声をかけた。


花柄の綺麗な色合いのワンピース。こんなに華やかな服は初めてだ。いつもはモノトーンでまるで制服のようなかっちりとした服装ばかりだった。


服装が変わるだけで、こんなにテンションが上がるとは思わなかった。それだけで、今までの自分と変わった気がする。


「ちょっと歩き疲れたね?パフェでも食べにいこうか?奢るよ」

「…うん…」

少し戸惑いながらも、楽しかった。


   ******


2人でオシャレなカフェに入り、向かい合わせに座った。

妙に照れ臭かった。

「今日はありがとう」

もじもじしながら言った。

「高校デビューのお祝いね。こうやって2人で買い物したり、お茶したり、出来るとは思ってなかった。」

「え?」

「だって真琴、すごい真面目でオシャレとか興味ないのかと思った。」

「そんなことないよ。ただ似合わないと思ってただけで…私はお姉ちゃんみたいに、綺麗でもないし…」

「そんなふうに思ってたの?」

姉は椅子の背もたれにもたれかかり、大きなため息をついた。

「てっきり…私の事が嫌いなのかと思ってた」

「え?いや…そんなことは…」

と言いつつ、確かに私と違って何もかも恵まれた姉を羨むどころか、恨んでいたかもしれない。姉と私の差に。また親の態度の差に。


私は、ポツポツと話し始めた。

「羨ましかっただけだよ。成績優秀で、容姿端麗、親にとって自慢のお姉ちゃんが…私は何事にも不出来で、お母さんには目立つなってずっと言われてたから…」

「それは、不出来だからじゃないわよ。バカだな〜、そんなふうに思ってたんだ。」

姉は髪をかきあげながら、少し怒ったような顔をした。そして、意を決したように話し始めた。


「実は昔、真琴がまだ5歳くらいの頃、絵がすごく上手で、展覧会で立て続けに、入賞したくらいだったのよ。」

「え?」

「そうしたら、マスコミに天才少女現れる!みたいな感じで持ち上げられて、出版社からは絵本の挿絵のオファーとか来ちゃって、一躍注目されるようになったのよ。だけど、幼稚園の父兄の間で妬みややっかみが酷くて、言われもない事で、イジメられるようになったの。それである日、真琴が手に酷い怪我をして帰ってきて…お友達が閉めたドアに手を挟まれたらしくて…それがわざとなのか、偶然なのか、結局わからなくて…それ以来、お母さんはあなたが目立つ事を嫌がったのよ。」

「え?そんなの…全然覚えてないんだけど…」

私は始めて聞く話に呆然とした。

「真琴は小さかったから自分の周りで何が起こってるのか、わかってなかったんだ思う。ただ、友達に怪我させられただけで、その理由もわかってなかったのよ。幸い、手の怪我は大事には至らなかったけど…お母さん悔しくて、毎晩あなたの手当をしては涙を溢してたわ。」

「え?じゃあ、わたし…お母さんに嫌われてたわけじゃないの?」

「逆よ逆!守られてたのよ。」

わたしの頬に一筋の涙が伝った。

今までこれっぽっちもそんな素振りもなかったのに。お姉ちゃんだけを愛して可愛がっているものだと思ってたのに。私も大事にされてた?

私は恥ずかしげもなく、子供のように泣きだした。

私の横に姉は座り直すと、わたしが泣き止むまで、背中をさすってくれた。


私は今まで何をしてたんだろう。

姉に、親に、確かめれば良かったのに…言葉じりだけで、勝手に思い込んで判断して、1人でいじけてただけなんて…。

なんで親にもっと私の気持ちを伝えなかったんだろう。責めてでもどうして?なんで?って聞けばよかったのに。

全部人のせいにして、自分が変わろうとしなかっただけなんだ。


「それでも、気づいて良かったんじゃない?」

まるで姉は私の心の声が聞こえたように、そう言った。

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