第3話 改造計画
翌日の朝、教室はちょっとした騒ぎになっていた。
「どうしたの?何の騒ぎ?」
少し遅れて教室に来たかおりが、騒ぎから離れて座っている私に聞いてきた。
「なんか昨日、先生が女の人と腕組んで歩いてるところをクラスの女子が見たんだって。」
私は興味のなさそうなふりをして応えた。内心は、すごいショックで呆然としていた。
私の返答では手応えを感じない様子だったので、噂の中心に、かおりは駆け寄っていった。
「で?どんな人だったの?」
「小柄で髪の長い人だった。でも後ろ姿しか見てないから、なんとも言えないんだけどー。」
「なんじゃーそれー。じゃあ、髪が長い以外の収穫なし?」
「そうなの。私もどんな人か見たかったのに、車に乗って行っちゃったから〜。絶対彼女だよね〜?!悲しいんだけど〜。」
そう言って先生の取り巻きたちが騒いでいた。
「ふ〜ん。」
かおりはそれ以上の情報がないとわかると、私のところへ戻ってきた。
「ただ腕組んで歩いてるだけで、彼女とは言えないよね。」
かおりが私に話しかけてきた。
「そ…そうかな?腕を組むなんて、私には相当難易度高いと思うけど…」
「真琴!放課後ちょっと付き合わない?」
「いいけど…」
2人でファーストフード店に入り、小腹を満たしながら、かおりが話を切り出してきた。
友達と放課後寄り道するなんて、私には初めてだ!
「真琴ってさぁ、中学まではコミ障だって言ってたけど、そうじゃなくて暗くて友達いなかっただけでしょ?」
ドスッ!
喜びも束の間、かおりの言葉が胸を刺した。
「そう言われれば、そうかもしれないかな…」
私は胸を押さえながら答えた。
「それって、単に見た目だけの問題じゃない?」
「え?そうなの?」
「そうよ。私だってこの見た目だけで、派手なメイクしてるから、遊び人だー男好きだーとか言われてるけど、真琴は逆でその引くほどダサい見た目で誰も寄り付いてこなかっただけでしょ?」
ドスッ!ドスッ!
「かおり〜、何気に刺された胸が痛いんだけど…」
「あー、ごめんごめん。でもほら、ちゃんと自分の思ったこと言えてるじゃん。」
「ほんとだ。」
「イメチェンしない?私、協力してあげるよ。コンプリートするのよ。先生を振り向かせたいんでしょ?」
かおりが身を乗り出してきた。
私はのけぞるように椅子にもたれかかりながら、
「私がかおりのメイクなんて、似合うわけないじゃん。それに、外見を変えただけで好きになってもらえるわけないし、万一好きになってもらっても嬉しくない。」
体全身で全否定した。
「なんだそんなふうに思ってんの?まあ、無理もないか。外見はきっかけよ。どよ〜んと暗く俯いてる人に魅力感じる?」
そう言うとかおりは立ち上がって、
「トイレ行ってくる。」そう言うと、サッサと行ってしまった。
数分後、テーブルをトントンと叩かれ、顔を上げてみると、
「え?かおり?」
そこに立ってたのは、すっぴんのかおりだった。
私は絶句した。
向かいの席に座ったかおりを私は両手で口元を押さえたまま、見つめた。
いや、見惚れた。
凄い美人!
ゆるい天然ウェーブのかかった長い髪を後ろに掻き上げると、富士額の綺麗なおでこに、化粧を落としたのに大きなパッチリ二重、鼻筋の通った小さめの鼻に、さくらんぼ色の理想的な唇の形をした小さな口に、抜けるような白い肌。
「なんで?なんで?化粧しなくても、凄い美人じゃん。」
「だからよ。化粧しなくても目立つからよ。逆に、化粧してると化粧のせいだって思われるでしょ?」
うらやましい〜。涙が出るほどうらましい〜。それに引き換え、私は何事にも凡人だ〜。
「私は逆にこの顔のせいで、嫌な思いをたくさんしてきたのよ。」
「え?美人で嫌な思いなんてするの?得するんじゃなくて?うらやましいけどなぁ。」
かおりは肘をついて、深い息を吐くと、ポツポツと話し始めた。
「可愛いから、美人だから先生や先輩にえこひいきされるんだとか。男たちには、連れて歩くには良いお飾り女だとか。女の子たちからは、嫉妬、妬み、嫉みが入り混じって、有る事無い事言いふらされて、意地悪されてきたの。佐野が言ってたことも、女子たちの噂を鵜呑みにした話よ。噂って真実をひっくり返してしまうこともあるのよ。」
「そんな…。美人でも意地悪されるなんて…。」
私は絶句した。こんな思いをしてるのは、私だけって勘違いしてた。
「高校になったら、みんな化粧デビューするじゃない?そしたら、みんな整形並みに綺麗にしてくるわけよ。だから、私もその人たちと同じように化粧で誤魔化してるのよ。」
「逆パターンか…。」
かおりは一呼吸おくと、
「噂って、本当に怖くて、信じたくないのに、自分の弱さから、信じたい人の言葉じゃなくて、ちょっとした誤解やすれ違いから噂を鵜呑みにしてしまう時ってあるのよね。でも、ダメよ。本当に信じたい人の言葉を何があっても信じるのよ。」
そう言って、かおりは私の両手を目の前で握りしめた。
「う、うん。わかった。」
かおりの真剣な顔に妙な迫力を感じた。
「だから…先生の事も…まだ彼女かどうかはわからないってことよ。自分の目で見たことだけを信じて。」
そう言ってニッコリと笑った。
「初めての恋なんでしょ?真琴が真剣に私に告白してくれたように、私も真剣に真琴に応えたいんだよ。応援する。」
「ありがとう!」
「やっと素直になったね。」
今まで、友達すらいなかった私が、こんなに大事に思ってくれるなんて。私は溢れそうになった涙を拭った。
そして、2人で顔を見合わせて笑った。
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