52 元の世界、元の生活

 ラザード精神クリニックの地下施設に、俺たちは銃火器ともども転移した。終わったんだ、これで全て……。


山和やまとくん、美樹みきくん、かけるくん、ご苦労だったね」

 ラザードは俺たちを労い、ケビンと共に銃火器やヘリの残骸の後始末を始めた。


 すると、翔がペタンと座り込んだ。


「翔、お疲れ」

「おう……」

 美樹が翔に寄り添い、肩を抱きながら慰めている。異世界人との恋愛、か……。せめて綺麗な思い出として残ると良いな、翔……。


 美樹は翔の側にいるということで、この日は別々に帰宅した。


 早速スマホに入ってくる様々な情報に俺は目を通した。最後に異世界転移をした時から随分と時間が経っている。クラスの文化祭の準備も始まっていて、情報を無視してしまう形になっていた。何か、埋め合わせをしないとな……。



    ◇



 翌日。

 俺は登校し、クラスの教室に向かった。まだ夏休みだというのに、多くのクラスメイトが来ていた。俺は返信できなかったことをクラスメイトたちに謝り、文化祭の準備を手伝い始めた。


 ふと、俺はクラスメイトの茶介さすけのところに行った。俺にギャルゲー『時空の果てに響く旋律』を貸してきた張本人。一言、言ってやりたいことがあったのだ。


「おお、山和、久しぶりだな」

「よぉ、茶介」

 俺は作業をする茶介の隣に腰を下ろした。


「茶介、『時空の果てに響く旋律』のことだけどな」

「ん、どうした、急に?」

「カレンルートだ、真のエンドは」

「……?? えっ、誰だって……?」

「二度は言わんぞ!」

 俺は笑いながら文化祭の準備の作業に戻った。



    ◇



 夕方。

 俺は一人で街に出ていた。約束があったからだ。


「山和くん、お待たせ」

「美樹ちゃん」

 駅から美樹が歩いてきた。昨日、共に異世界から帰ってきたばかりだというのに、久々に会うような錯覚に陥る。場所が日本だからだろうか。


「何か、ここにいるのが嘘みたいだ」

「本当ね……。昨日までいたのはじゃなかったのに……」

 二人で公園に向かい、ベンチに座って、俺は向こうで撮った写真をスマホごしに見せた。


「写真、結構、撮ってたんだね」

「ま、一応ね。充電できなかった時期のは無いけど」

 写真の中ではロベルトやアマンダ、異能研究グループのメンバー、カレンやメルビン、レスリーの世界の面々が笑っていたり、ピースをしたりしている。


「私と翔にも、送ってくれると嬉しい」

「送る送る!」

 俺は美樹と翔のいるグループを作り、写真を共有した。翔はすぐに気づいたようで、涙のスタンプを押してきた。


「色々あったねぇ」

「バッドエンド回避の責任を負わされたのは、たまったもんじゃなかったけどね」

「でも、山和くん、楽しそうだったよ」

「うん。振り返れば、すげー楽しかった」

 本当に、こんな経験ができたことに文句などない。一生物の思い出だ。


「そういえば、実は昨日、翔と一緒の時にクリストファーさんと会ったのよ」

「えっ? あの人は帰らなかったの?」

「そうなのよ。今回の転移とは別口なのかしらねぇ」

「……ズルい」

「確かに! でね、『混沌のホーリーナイト』の追加要素として、友情エンドを実装するんだって」

「へええ。誰とも結ばれないけど、バッドエンドでもないって感じなのかな?」

「うん、そう言ってた。まあ、ロベルトエンドを作るわけにもいかないしねぇ」

「そりゃそうだ!」


 俺は美樹と笑い合った。乙女ゲームの主人公カレンの本当の想い人が別のゲーム、それもギャルゲーの主人公などとは、どうやっても持っていけるシナリオではないだろう。何か事実に則した物語を実装するのなら、友情エンドというのは妥協点なのではないだろうか。


「さて、ラザードさんとの約束の時間まで、まだちょっとあるよね」

「うん。ブラブラしようよ」

 美樹と俺が言った。事後調査ということでラザードに呼ばれていたのだが、それまではデートに持ち込んでやるという思いだ。


 きっと、美樹はすぐにはあの時の返事をくれないだろうが、引くわけにもいかないのだから。


 俺はふと空を見上げた。ロベルトとアマンダが『頑張れ』と言っている気がした。

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