51 異世界とお別れの日
俺たちは魔法学校のある街に帰還した。異能研究グループは拠点の教室に集まっている。レスリー、メルビン、ウォルト、クェンティンも一緒で、勿論カレンもいた。
それは、最後に大いなる闇を倒した
「あれも異世界の戦士です。結局、絡み合っていた世界は4つだったんです。多分、俺があのダークハンターの世界と繋がっていたんだと思います。そして、それが大いなる闇を倒し得る力として、俺から見て3つの異世界を結びつけることになったのではないでしょうか」
俺が状況を説明した。
「あのダークハンターは、いつか戦う日が来ることを期待していると言っていました。その辺の事情は?」
レスリーが言った。
「ダークハンターは戦闘狂の宇宙人です。彼らが戦うに値すると判断した相手に挑戦するようです。でも、手を出してこなかったということは、現時点で俺たちもこの世界もレスリー様の世界も大丈夫だと思います」
「あの超兵器の数々を見たでしょう? どの世界もあの領域に達するのは相当に先ですよ。それこそ、私たちが死んだ後に何百年と時間が経って到達できるかどうか」
俺と
「ふむ。しかし、歴史の裏部分ということで、情報を残しておくべきかもしれんね」
「我々もそうするつもりです」
エリザベートとレスリーが言った。
「だけど、あんなに強いんなら、最初からあのダークハンターとやらが戦ってくれれば良かったんではないですの?」
「でも、世界の意志はヤマトとミキを中心に4つの世界を合わせることを選んだ。もしかすると、ダークハンターが戦ってくれない可能性を見越してのことだったんじゃないかな」
「世界の滅亡がかかっていても楽しめる相手じゃなければ戦わないと、そういう事か。なるほど、それは妙な種族だ。念には念をという事だったのかもしれないな」
リオノーラ、アマンダ、メルビンが順に言った。
そこで情報共有会は終了となり、俺たちは後処理に入った。
アマンダは学生なので、個人情報保護の観点があるらしく、異世界の兵器ゼーデルガイナーのパイロットだった事は伏せられ、異世界からの救援者の力で大いなる闇を撃退したことになった。
そのため、レスリーは、彼の部下たちと共に取材に追われて大変な騒ぎになってしまった。実際、魔導ロボットだけでなく、レスリーの部下の歩兵団は獅子奮迅の活躍をしたそうだ。
「やれやれ、お偉いさんは大変だねぇ」
ウォルトはそう言いながら、テーブルに座って大量の料理を楽しんでいる。この世界の食を少しでも味わって帰りたいらしい。そのイケメンぶりに釣られてウォルトに絡みに行っている女子生徒も多かった。
俺と美樹と
勇者と魔王からもたらされた、異世界組に残された時間は翌日の昼頃までという情報もあったため、その日のうちに街を上げての大宴会に発展した。翔はメアリーと共にどこかに消えた。ったく、
その後、俺と美樹は、ロベルト、アマンダ、カレン、メルビンと共に行動した。お世話になった人たちに挨拶も交わしていく。
「やあ、シャネット」
「あ、皆さん」
俺たちはシャネットとリオノーラ一行に出くわした。
「明日で皆さんとは最後ですから、寂しくなりますね」
「本当にな。シャネット、君が異能研究グループにいて本当に良かったよ」
「今までありがとう、シャネット」
シャネット、俺、美樹が順に言った。そのままリオノーラたちとも挨拶し、その場を離れた。
次に出会ったのは、エリザベートとクェンティンだった。ギャルゲーの第四ヒロインと、乙女ゲームの第四ヒーローが一緒に酒盛りをしている……。
「やれやれ、私もクェンティン殿の世界の酒を飲んでみたかったところだよ」
「たとえ今回の転移が終わっても、どの世界もそこにある。いずれ交流する術が確立されるかもしれない。その時にはぜひ飲み歩きに付き合ってくれ」
エリザベートとクェンティンが言った。
「お酒かぁ。私たちにはまだ早いもんねぇ」
「そうね。あー、カレンとお酒飲んでみたかったなぁ……」
カレンと美樹が言った。その後、エリザベートとクェンティンに挨拶をし、ノンアルコール飲料を勧められたので、全員で乾杯した。
エリザベートたちと別れ、道を歩いていると、ベラが異能研究グループのメンバー数人と歩いていた。
「ヤマト~、皆~」
ベラが俺たちに話しかけてきた。ベラは持ち前の明るさもあって、生徒たちにも慕われている。一緒に歩いているメンバーたちも男女を問わず、という状態だ。
「挨拶回りしてるの?」
「うん。もう最後だからね」
「そっか、寂しいなぁ。できれば、もう一回私の実家にも泊まってほしかったよ」
「それは、楽しかっただろうな……」
海に行ったあの頃は、まだロベルトを誰かとくっつけようと画策していた時だ。ロベルトはもうカレンが気になっていた時期なので、今思えば滑稽だった。でも、皆と騒いだのは本当に楽しかった。
そのまま握手をし合い、ベラたち一行と別れた。
その後、他の異能研究グループのメンバーや教師、魔法学校の校長や寮長にも挨拶をした後、6人でテーブルを囲んで食事を楽しんだ。
「短い間だけど、色々あったね」
「ああ。俺は、楽しかったよ」
「ロベルトは別の意味でも楽しかった、よな?」
アマンダ、ロベルト、俺が順に言った。ロベルトはカレンと一緒に頭を掻いている。
「そう言うヤマトも、頑張りなよ」
アマンダが俺に耳打ちしてきた。赤くなる俺を見て、アマンダはくすくすと笑った。
夜になると、街の宿屋が大部屋を提供してくれ、異能研究グループは寮生と通い組と関係なく集まって騒いだ。寝る用の部屋も大量に用意してくれる大盤振る舞いだった。
ようやく解放されたレスリーが部下たちを連れて合流してきた。
「レスリー様、お疲れ様でした」
「ありがとう」
俺はレスリーに飲み物を渡した。結局、ゼーデルガイナーのパイロットが誰だったのかは謎のままにしたらしい。下手に嘘を混ぜてしまうと矛盾が出てしまうだろうからそれで良いのかもしれない。
レスリー、メルビン、ウォルト、クェンティンは相変わらず女子生徒から大人気だったが、メルビンはあまり積極的に応対していないように感じる。何か心境の変化でもあったのだろうか。
大部屋をこっそり出ていく男女カップルがいたりもした。ぶっちゃけ、ロベルトとカレンもいない時間帯があった。残念ながら俺と美樹にそんなスーパータイムが訪れることはなく、大部屋で騒いでいるだけだった。上手くいった奴らが羨ましいぜ!
俺は騒いだまま寝てしまったようで、目が覚めると、同じ様に寝落ちした者たちがいびきを掻いていた。
◇
街を上げての大騒ぎだった昨日に比べると、だいぶ落ち着いた雰囲気の中、カレンの世界の面々は帰る準備を始めた。回収された魔導ロボットやゼーデルガイナーと共に、全員で同じ場所に集まっている。
俺と美樹と翔は、ラザードとケビンと共に回収した銃火器と同じ場所にいた。見送りのため、異能研究グループのメンバーも全員来てくれている。
変化が訪れたのはカレンの世界の人たちが先だった。転移の兆候と思われる稲妻状の光が見え始めた。
「ヤマト」
「レスリー様?」
「きっと、今回の転移事件の中心は君だった。共に戦えて光栄だった」
「そんな……、俺は何も……。俺の方こそ、お会いできて嬉しかったです」
俺はレスリーと握手を交わした。ウォルトやクェンティン、レスリーの部下たちも名残惜しそうに声を上げている。
ロベルトとカレンは、最後に両手を掴み合った。
「カレン、さよならだ……」
「うん……」
「君を、愛している」
「私もよ、ロベルト……」
「ありがとう。元の世界でも、どうか元気で」
そのままロベルトとカレンはしばしの抱擁を交わし、離れた。
一方、アマンダとメルビンが神妙な顔で握手をしていた。
「ここでお別れだな、アマンダ……」
「ええ。楽しかったよ、メルビン」
「僕もだ。僕たち、きっとこれで良かったんだよな」
「二人で決めたでしょ。良かったよ、きっと」
「そうか……」
アマンダとメルビンがそのまま握手をする。
「えっ、あの二人って……!?」
「
俺と美樹が言った。そうだったのか……。ギャルゲーと乙女ゲームの主人公同士だけでなく、ギャルゲーの第一ヒロインと乙女ゲームの第二ヒーローがねぇ……。
「ミキ!」
カレンが美樹に声をかけてきた。美樹はいたたまれなくなったという様子でカレンに駆け寄り、抱きつく。
「カレン、会えて良かった。もっと一緒にいたかったよ……」
「うん。ミキ、本当にありがとう。いつまでも忘れないよ」
その後、身体を離した二人は涙をこぼしていた。
やがて、カレンの世界の人たちの周囲の光が強くなる。もう転移の時間なのだと誰もが確信し、声を掛け合った。
「さよなら皆さん! お元気で!」
俺も最後に大声を上げ、手を振った。光が一層眩しくなり、目を閉じ、目を開いた時には、もうカレンたちも魔導ロボットもゼーデルガイナーの姿もなくなっていた。
ロベルトとアマンダは思うところが強いのか、呆然と立ち尽くしている。また、美樹は隣で泣きっぱなしだった。
「ロベルト」
「……何、アマンダ?」
「今日は、やけ食いに付き合ってよ……」
「……ああ、それは良いな」
ロベルトとアマンダのやけ食い、そこに俺はもういられないのだ。それが寂しかった。
「あっ! ヤマトさんたちも!」
シャネットの声が響いた。俺たちの周囲にも転移の光が発生し始めていた。
「カケルさん、行っちゃやだよ……」
見ると、翔とメアリーが抱き合っていた。
「ごめんメアリー……。でも、ずっと忘れない」
翔もメアリーに言葉をかけた。美樹がそっと近づき、翔の肩に手をやり、涙を流しているメアリーと握手した。
ラザードとケビンも、この世界の人たちと何やら言葉を交わしている。
美樹が翔たちから離れ、アマンダと抱き合いながら言葉を掛け合った。
「ヤマト」
そして、アマンダが俺の方に近付いてきた。ロベルトもだ。
「楽しかったよ、ヤマトがこっちに来てからの日々」
「俺もだ、アマンダ」
「ヤマト、世話になった。一生忘れないよ」
アマンダ、俺、ロベルトが順に言った。いつものように三人で拳をぶつけ合う。
大いなる闇を巡る異世界転移事件の最初に絡んだ三人組。何かの運命に導かれていたような気がする。この友情をいつまでも覚えていたいと、俺は心からそう思った。
光が強くなると、俺たちは回収した銃火器の前に集まった。再び生徒たちから声が上がる。口々にさようならを言ってくれた。
「さようなら皆! 絶対忘れないぞ!」
俺も手を振りながら叫んだ。
光が大きくほとばしり、目を閉じてから再び目を開けると、そこはラザード精神クリニックの地下施設だった。
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