50 戦いの終わり

 空から轟音が響き、魔物たちが逃げていった。俺はとっさに空を見上げると、何かが爆散しているのが見えた。地球外生命体ダークハンターが健在だったので、大いなる闇が敗れたのだと確信した。


 俺は息が詰まり、周りの生徒たちもどよめいている。すると、ダークハンターが降りてきた。


「か、勝ったのか……?」

 俺が呟くと、ダークハンターのバトルスーツのあちこちから銃口がせり出し、俺たちにレーザーサイトが向けられた。ダークハンター自身の戦力分析の結果なのか、それはアマンダやメルビンにも向けられている。


「皆、武器を捨てろ!」

 俺は叫び、マシンガンを投げ捨てた。そう、ダークハンターは決して味方などではない。万が一、俺たちを敵と認定されたら殲滅されてしまう。戦意を見せない方が良いのだ。アマンダやメルビンも理解してくれたようで、ホーリーブリンガーや魔法の杖を地面に捨てて手を上げた。エリザベートや、他のレーザーサイトを向けられている者たちも同じようにした。


「……」

 ダークハンターはしばし沈黙した後、レーザーサイトを取り下げた。


「いつか、我々と戦う日が来ることを期待している」

 通信魔導具ごしにその声が聞こえ、ダークハンターの隣で空間が引き裂かれ、そこから緑のオーラに覆われたケビンが姿を現した。どうやら本物のようで拘束されていたらしい。そして、代わりにダークハンターが引き裂かれた空間に入っていき、消えてしまった。


「お、終わったの……?」

「多分……」

 呆然とした声を発した美樹みきに俺が答えた。


「……状況確認!」

 ふと、エリザベートが叫んだ。各戦線は無事なのか、それも重要だ。生徒たちも、ダークハンターの存在感に圧倒されたようで、勝利にはしゃぐわけでもなく、淡々と状況確認に移行した。



 シャネットやリオノーラたちは町の建物に立てこもり、魔物の襲撃を抑えていた。魔物たちが逃げ去ったことで、無事に俺たちのところに合流してきた。また、かけるやメアリーたちも無事だった。マッドプラントたちに追い詰められていたが、スマホのバッテリーが切れなかったため攻撃を受けることは無かったようだ。


 最後に大いなる闇に破壊された魔導ロボットに搭乗していたウォルトは、衝撃で気を失っていたが命に別状は無かった。レスリーも、破壊されて変形された操縦席から抜け出し、合流してきた。


「状況確認終了。全戦線で、魔物たちの逃走を確認……」

「こちらレスリー。我々の部隊も状況確認完了。戦闘終了です」

 エリザベートとレスリーの声が通信魔導具に響いた。


 少しずつ、辺りに拍手が起こる。それは次第に歓声に変化し、周囲は大騒ぎになった。


 シャネットとリオノーラの取り巻きはリオノーラの胴上げを始め、ベラは女子生徒と抱き合ったり男子生徒とハイタッチをしたりしており、翔はメアリーを持ち上げて大騒ぎしている。


 レスリーはエリザベートやクェンティンと握手し、メルビンはアマンダとグータッチをしているし、ロベルトとカレンはおでこをぶつけ合っている。


「やったね、山和くん」

「……うん」

 美樹の言葉に俺は返答し、握手をした。さっきどさくさに紛れて抱きついてしまっていたが、今度は冷静だった。少し、疑いもあったのだ。本当にこれで終わったのかどうかという事に。


 俺がそんなことを思っていると、俺たちの前に二つの光が浮かび上がった。それらは次第に半透明の人間の姿となる。


「な、何だこれ……!?」

「え、ま、まさか……伝説の勇者と魔王……!?」

 生徒たちが口々に叫んだ。どうやら彼らのよく知る、大いなる闇の時代の勇者と魔王らしい。勇者は女性、魔王は男性のようだ。


「皆さん、大いなる闇を倒してくれてありがとう」

「これで、我々の時代の汚点も払拭された」

 勇者と魔王が言った。


 勇者と魔王はお互いの戦争の中心にはいたが、戦乱を終わらせようと通じ合っていたらしい。しかし、人間の軍と魔族の軍の全てをコントロールすることはできず、心に闇を抱えた人間が大いなる闇を創ってしまったとのことだ。その後、大いなる闇を封印するため、勇者と魔王は共闘すらしたそうだ。


「もう、我々の時代ではない。どうやら、人間と魔族は未だいがみ合っているようだが」

 魔王が言った。確かに、俺はこの世界で一度も魔族と出会わなかったし、交流は進んでいないのだろう。ただし、魔族も魔物との戦いで消耗しており、人間と争う暇は無かったようだ。


「異世界の皆さん、本当にありがとう。大いなる闇が滅びた以上、大発生していた魔物も収まっていくはずです。最後に、この世界を楽しんでいってくださいね。見たところ、明日の昼ぐらいまでの余裕はあります。その後、異世界の方は全員元の世界に戻り、全ては元通りになることでしょう」

 勇者が言った。もう少し、滞在できるのか……。なら、挨拶できる人には挨拶しないとな……。


 勇者と魔王は俺たちに手を振り、背を向けて歩き出し、そして消えてしまった。


「さあ、帰ろう」

「うん。そうね」

「ああ、行こう」

 ロベルト、アマンダ、俺が順に言った。思えばこの三人が始まりだった。俺たちはいつもしてきたように拳をぶつけ合った。

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