48 敗北の戦場
「くぉのおおおお……!!」
アマンダは叫び、ゼーデルガイナーを立ち上がらせた。ヘリコプターを下敷きにしてしまい、ケビンが犠牲になった事もアマンダには聞こえていた。しかし、立ち上がらないわけにはいかない。大いなる闇はまだ健在なのだから。
大いなる闇は元いた場所から大ジャンプし、炎上するヘリコプターの前まで跳んできた。何という力だとアマンダは思った。やっとの想いであの巨体を倒したというのに、中から本体が姿を現すとは。
大いなる闇も、ゼーデルガイナーが最大の脅威と分かっているからこそ、ここまで来たはずだ。なら、やはりここは自分が立ち向かわなければと、アマンダは思った。
「皆、下がって! ここは私がやる!」
アマンダの声が響いた。
「だ、駄目だアマンダ! 君はもう限界だ!」
「そうだ、無茶するな!」
ロベルトとメルビンが叫んだ。アマンダはその声を振り切り、ゼーデルガイナーは異能研究グループから少し距離を取った。すると、大いなる闇もそちらに飛びかかった。
劣勢は明らかだった。魔力切れのアマンダはただでさえゼーデルガイナーを上手く扱えなくなっているのに、大いなる闇は2mほどの小型になってしまって捉えるのが難しい。しかも、大いなる闇の力が凄まじく、大きさの違いなど感じさせないほどにゼーデルガイナーを圧倒する。
大いなる闇の本体以外にも、近くに二つの物体が浮いており、それらも青い光の魔法攻撃をゼーデルガイナーに撃って牽制する。さらに、本体の青いオーラをまとったパンチでゼーデルガイナーが吹っ飛ばされた。
「うあっ……!!」
転倒した衝撃でアマンダが悲鳴を上げた。
「ア、アマンダ……!?」
ベラが声を上げた。
「皆、気をつけたまえ! 魔物がこっちに向かってきているぞ!」
エリザベートが叫んだ。
「全員、ヘリコプターの前に来るのだ! 魔力の切れているものは銃を取れ!」
ラザードの声に答え、生徒たちと教師は炎上するヘリコプターの前に集まった。何人かの生徒がラザードから、ヘリコプターから下ろした異世界の武器を渡されている。
それでも、持ちこたえていられるのは時間の問題だった。
◇◇(視点変更)
レスリーは、ゼーデルガイナーの方に魔導ロボットを走らせていた。ゼーデルガイナーが大いなる闇の本体から猛攻を受けているのが目視できる。
「ウォルト! 加勢するぞ!」
「あいよ、王子殿下!」
レスリー機とウォルト機は大いなる闇に剣戟を振り、大いなる闇をゼーデルガイナーから引き離した。
「アマンダ、大丈夫ですか!?」
「わ、私は大丈夫です! でも、ゼーデルガイナーがッ……!!」
レスリーとアマンダが言った。
『戦闘続行不能。パイロットを強制退去』
ゼーデルガイナーがそう言うと、コクピットが開き、アマンダが飛び出した。着地した先にメルビンが駆け寄っているのをレスリーは確認した。
「く……。ゼーデルガイナーが敗れるとは……」
「王子殿下、来るぞ!」
大いなる闇はレスリー機に体当たりをした。青い光が一瞬レスリー機を包み、たちまち警告音が鳴り響く。
「なっ! 一撃で!?」
「そりゃ、ゼーデルガイナーがやられるぐらいだからよ!?」
レスリーは、転倒した魔導ロボットのコクピットからウォルト機の戦いを見た。
ウォルトはパイロットとしては現役最強だ。だから一撃でやられることはなかった。しかし、15mを超える大きさの魔導ロボットに対して、敵は2mほどしかなく、捉えるのが難しい。ウォルト機はまず足をやられ、さらに腕を吹き飛ばされて沈黙した。
◇◇(視点変更)
ウォルト機が破壊された瞬間、大いなる闇は腕を振り抜いて硬直していた。その瞬間を狙って、その背中にカレンが飛びついたのをメルビンは見た。
急速に魔力を吸い取られたのに驚いたのか、大いなる闇が嫌がるような声を上げた。
「ね、姉さん、何やってんだっ……!?」
メルビンが悲鳴のように叫ぶ。カレンを止めようとするメルビンを静止するように、ロベルトが手を伸ばした。
「俺が行く!」
ロベルトはカレンたちに駆け寄り、カレンを引き離さそうとする大いなる闇にさらに飛びついた。それは、カレンの魔力強奪の異能の効果を受けないロベルトだからこそ出来たことだった。
大いなる闇が咆哮を上げる。ゼーデルガイナーを吹っ飛ばせるような魔物なのだ。人間に過ぎないロベルトとカレンを振りほどくことなど造作もないはずだったが、カレンの魔力吸収の異能が凄まじいのか、振りほどけないでいた。ロベルトとカレンは二人で必死に大いなる闇を抑え込んでいる。
そこへ、二つの物体が攻撃を加えようとした。
「させるかよ!」
メルビンがまだ残っている魔力で魔法を撃ち、二つの物体を牽制した。それに気づいたベラやエリザベートも続く。異世界の武器の使い方を覚えた生徒たちも二つの物体を攻撃した。
「メルビン! こちらレスリー! 機体まで来てください!」
「レスリー様!?」
レスリーにメルビンが答え、メルビンはレスリー機に走った。中からレスリーの声が響く。コクピットが開いていた。
「操縦席が変形してしまって出られません。メルビン、君がこれを……!」
「こ、これは……!?」
それは、メルビンの騎士団入団試験で手に入れた、古代の聖剣ホーリーブリンガーだった。
「通じるかは分かりません。でも、君なら」
「わ、分かりました!」
メルビンはホーリーブリンガーを受け取ると、大いなる闇の方を見た。
大いなる闇は咆哮を上げ、ついにロベルトとカレンをふりほどいたところだった。二人は投げ飛ばされて地面に倒れる。
「喰らえぇぇええ!!」
メルビンが叫ぶ。ホーリーブリンガーに渾身の魔力を込め、振り抜いた。大いなる闇の胸元に剣戟が届き、青い血しぶきが上がる。大いなる闇はふらついていた。
「もう一発!」
メルビンが言ったが、魔力がホーリーブリンガーに伝わっていかない。メルビンも魔物相手に奮闘してきていたので、どうやら魔力が限界のようだった。しかし、そこへ手が添えられる。
「行くわよ、メルビン……!」
「アマンダ……どれだけ頑張るんだ、君は……」
「お互い様……よ!」
アマンダがホーリーブリンガーに魔力を込める。アマンダに鼓舞され、メルビンも最後の気合を入れてホーリーブリンガーに魔力を込めた。二人で剣を振り抜き、大いなる闇を攻撃する。大いなる闇は爆散し、闇の瘴気に変わった。
「や、やった……」
「ナイス、メルビン……」
メルビンとアマンダはそう言い、地面に倒れた。メルビンは魔力切れで立っていることもできなかった。どうやらアマンダも同じのようだった。
しかし、大いなる闇本体を援護していた二つの物体の片方から地面に紫の光が降り注ぎ、そこに大いなる闇本体が再度出現した。
「……は?」
「……嘘だろ」
アマンダとメルビンは呆然と呟いた。
◇◇(視点変更)
シャネットはリオノーラと、数人のリオノーラの取り巻きの女子生徒たちと一緒に行動していた。全員で行動していたから、大いなる闇の無差別攻撃の時に固まって分断されてしまったようだ。
リオノーラが怪我をしてしまい、取り巻きの生徒二人が肩を貸して歩いている。無差別攻撃の時の煙のせいで、もう方向が分からない。
「くっ、無念ですわ……。ゼーデルガイナーが負けてしまうなんて……」
リオノーラが苦々しく言った。
「リ、リオノーラ様! 魔物たちが来ます!」
女子生徒が悲鳴のように叫んだ。シャネットがその方向を見ると、ゴブリンやウェアウルフといった魔物たちが走ってくるのが見えた。
「わ、
リオノーラが言った。普段の強気が嘘のような弱々しさだ。生徒たちも意気消沈しているようだった。
「諦めちゃダメです、リオノーラ様!」
「シ、シャネットさん……?」
シャネットとリオノーラが言った。
「ほら、町が見えるでしょ! あっちに逃げましょう! 町の中なら、まだ立てこもる場所はある」
「……今、命を繋いでも、世界ごと滅ぼされては何にもなりませんわよ」
「いいえ、生き残れば、奴を止めるために再び立ち上がることはできる! 行きましょう!」
「ふふっ、言うようになりましたわね。魔法学校に入学したばかりのあなたからは想像もできませんわ!」
リオノーラは納得したようで、取り巻きたちを鼓舞し、町に向かった。
◇◇(視点変更)
ショットガンは撃ち尽くし、メアリーたちも魔力切れになっていた。ただ、スマホとイヤホンのバッテリーがまだ生きているので、その場をもたすことができていた。
「くそっ……! やべーな!」
翔は冷や汗をかきながら言った。しゃがみ込んでメアリーを後ろから抱きかかえる形だ。
「カケルさん……。逃げてよ……」
「何言ってんだ!?」
「私たちは、すぐには殺されない……。でも、カケルさんは魔力が無いからそうはいかない……。その機械がダメになる前にカケルさんだけでも……」
「そんな事できるわけないだろ!」
翔がメアリーに言い返した。結局、触手に締められ、残りの魔力を吸い取られて搾りカスにされるまでの猶予があるだけなのだ。翔には自分だけ逃げる気など起きず、メアリーを抱きかかえる腕に力を込めるだけだった。
一緒に追い詰められている男子生徒と女子生徒も青くなりながら抱き合っている。しかし、翔にこの状況を覆せるわけも無かった。
◇◇(山和視点)
嘘だろ……。何だこれ……。
ヘリコプターが潰されてケビンが命を落とし、ゼーデルガイナーは敗れ、今、目の前に魔物たちも迫っている。通信魔導具ごしに各戦線がボロボロの中で魔物に襲われているのも聞こえてくるし、シャネットたちや翔たちもそれぞれ危機を迎えている。
カレンとロベルトの決死の攻撃と、メルビンとアマンダの最後の攻撃で倒せたかに見えた大いなる闇が、飛んでいた二つの物体に復活させられてしまった。あっちがコアだったという事なのか……。
目の前で怒号を上げながら魔物と戦うエリザベートやベラ、生徒たちの活躍が遠く感じる。ラザードは必死にマシンガンで魔物を撃退しているが、それも遠い。
俺は尻もちをついてしまった。美樹が俺の服を掴み、何かを叫んでいる。しかし、もう内容が頭に入ってこなかった。
敗北。
それを実感してしまったのだ。皆の奮闘も、大いなる闇がターゲットをこちらに向けたら終わりだ。ゼーデルガイナーを失い、魔導ロボットも全滅。各戦線は魔物に追い詰められている。
俺たちはここで死ぬのか……? その後は、大いなる闇がビッグクランチを起こして全ての世界が滅ぶ。元の世界にいる両親や友達も皆だ。
異世界転移を引き起こしたのが、滅びを拒む世界の意志だったというなら、どうして俺だったんだ……。俺のようなただの男子高生に戦局を変える力などない。適任者など、他にいくらでもいたはずだ。
俺が、ギャルゲー『時空の果てに響く旋律』に感銘を受けたから……? いや、勘弁してくれ……。結果はこの大敗北だぞ……。
そもそも、あのゲームを俺に貸してきたクラスメイトの方がよっぽど感銘を受けていたじゃないか。勿論、あいつにもこの状況を覆せたとは思わないが。
……。
…………。
いや、待てよ。そこを、疑ってみても良いんじゃないか……? 俺が最近、本当に感銘を受けた物語は、何だった……?
それに思い至ったことで、俺の頭が急速に回り始める。そうじゃないか、本物のロベルトやアマンダはともかく、俺はギャルゲー『時空の果てに響く旋律』については、どちらかというとネガティブな評価だったはずだ!
そのロベルトやアマンダと一緒に観たじゃないか! 俺が最近本当に面白いと思った物語を!
この予測が正しいなら、奴はきっとこの戦場に来ているはずだ。
俺は通常版と完全版、二回観たその映画のワンシーンを必死に思い出した。思い至ったその言葉を発するために!
「XXXXX」
劇中の古代語で『我々の、負けだ』を意味するその言葉を、俺は真似て口にした。
「えっ……?」
隣で聞いていた美樹が
「っ……!?」
俺はそちらを見た。美樹も見たし、他の皆も見たのだろう。
ヘリコプターがひっくり返されていた。燃え上がる炎の中、ケビンが不敵な笑みを浮かべながら立っている。ヘリコプターはケビンが投げ飛ばしたのだ。
「ケ、ケビン……?」
美樹が声を上げる。心の底から驚いているようだ。
あれはケビンではないのだろう。いつの間にか、なり代わられていたのだ。映画『呼び出されたモノ』と同じように。
ケビンの姿が足元から変化していく。筋骨隆々の宇宙人の姿に。そしてさらに、その体躯をバトルスーツが覆っていく。
きっと、3つの運命を重ね合わせることが、俺が世界に選ばれた理由だった。俺が本当に感銘を受けたのはあのSF映画で、その結果、今、目の前に姿を現した
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