47 勝ったのか
「み、皆!?」
アマンダは叫んだ。大いなる闇がこの戦場に対して無差別攻撃をした。あんな攻撃もできるとは、とアマンダは眼前の魔物を睨んだ。
今の一手でアマンダたちの戦力はガタガタにされてしまった。魔物も巻き添えにしていたようだが、きっと補充が効いてしまう。この状況でボスを復活させるだけの力が大いなる闇に残っているのなら、ゼーデルガイナーが囲まれてピンチとなってしまうのだ。
「戦線維持不能、退避だ!」
「魔導ロボット、大破!」
「おい、手を貸してくれ!」
通信魔導具からは各戦線の悲惨な状況を示す言葉が飛び交う。
それが、アマンダの怒りに火を灯した。ゼーデルガイナーはそれに反応したようで、言葉をかけてくる。
『警告。操縦者アマンダからの魔力供与の増大を確認。そのままでは5分と持たない』
「構わない! 一気にぶっ倒すわよ!」
一度冷静になれて体勢を建て直したアマンダは、今度は怒りに身を任せてゼーデルガイナーを駆った。赤い魔法攻撃や大剣による攻撃が連発される。
冷静さを欠いてはいけない状況だったが、どうやら大いなる闇も追い詰められての無差別攻撃だったようで、前ほどゼーデルガイナーの攻撃に対処することができていなかった。
「その攻撃を、やめなさい!」
ゼーデルガイナーの攻撃を受け、無差別攻撃を行っていた大いなる闇の背中上の渦が霧散した。ようやく無差別攻撃が止まる。
大いなる闇はさらに後ろに後退した。明らかにゼーデルガイナーの攻撃を嫌がっている様子だ。
「今!」
アマンダは叫び、猛攻を仕掛け、大いなる闇が滅多打ちになる。大いなる闇が悲鳴のような咆哮を上げた。そして、口に大量の魔力を集め出した。
『敵の必殺攻撃を感知。回避か、あの部分への攻撃を提言する』
「この状況でその選択肢なら、攻撃よ!」
ゼーデルガイナーは大剣に赤い光を送り込み、突き出した。その部分から極太の赤いオーラが照射される。ゼーデルガイナーの必殺の攻撃だった。
大いなる闇は口から青紫のオーラを放ってきた。二つの光が交錯し、押し合いになる。
「ぐぅぅぅぅうううう……!!」
アマンダは歯を食いしばりながらゼーデルガイナーの操縦
アマンダは自分の魔力がどんどんと失われていくのを感じていた。これに打ち負けたら後が無いのだ。
「ぬ……あああああ!!」
叫んで己を鼓舞し、魔力を供給する。しかし、オーラの押し合いは硬直したままだった。
「アマンダ、負けるな!」
「アマンダ、あと少しよ!」
通信魔導具ごしに
そして、さらに声が聞こえた。
「アマンダ、聞こえるか!?」
「ロベルト!?」
通信魔導具ごしに聞こえたロベルトの声に、アマンダが答える。
「どうやら、今がその時みたいだね」
ロベルトのその言葉に、アマンダは笑みを浮かべた。
「魔力増幅、まだ使えるの?」
「ああ。今日は多分、あと一回……」
「オッケー。練習しといて良かったね」
「全く、その通り!」
アマンダは魔力でロベルトの異能の方角を感知し、左手を向けた。恐らく、ロベルトはこちらに右手を向けているはずだ。
ロベルトの魔力増幅の遠隔使用。二人同時使用に加えて、ずっと特訓してきたやり方だ。たちまち、アマンダに魔力がみなぎり、ゼーデルガイナーに伝わっていく。そして、ゼーデルガイナーの赤いオーラが、大いなる闇の青紫のオーラを押し込んでいく。
「きっと、このゼーデルガイナーの力が無ければ、ヤマトたちが異世界を繋げてくれなかったら、勝てなかった……。大いなる闇、ここまでよ。世界を滅ぼす悪い夢なんて忘れて、眠りなさい!」
アマンダの声に合わせて、ゼーデルガイナーの赤いオーラは、大いなる闇の青紫のオーラの出どころまで押し込み、そこで二つの必殺技が爆裂した。周囲に強風が巻き起こる。
大いなる闇の身体全体を覆っていた黒紫の闇の瘴気が吹き飛び、身体本体が真っ白に変色し、大いなる闇は崩れ落ちた。
◇◇(山和視点)
ロベルトの遠隔魔力増幅が効いたようで、ゼーデルガイナーの必殺技が大いなる闇を捉え、大いなる闇が倒れたのを俺は見届けた。
「っしゃああああ……!!」
「や、やったぁぁぁぁああ……!!」
俺と美樹が叫んだ。美樹は興奮したのか俺に抱きついてきて、俺は目を白黒させてしまう。しかし、もうこの際だ! どさくさ紛れとか言いたい奴は言えばいい! 俺は美樹を抱き締め返してしまった。
「ああ、もうダメ……動けないわ……」
通信魔導具ごしにアマンダの声が聞こえると、ゼーデルガイナーが膝をついた。無理もないだろう。しかし、やっぱりアマンダは凄い! 見事にやり切ったのだから!
「まだだ! ボスは一緒に消えたようだが、魔物は残っているぞ!」
「被害状況確認だ!」
通信魔導具から声が飛んだ。そうだ、大いなる闇の無差別攻撃で、各戦線は大ダメージを受けたはずで、皆の安否も心配だ。
「そうだ、
「地上に降りようか」
美樹の言葉に合わせてラザードが言った。ヘリコプターは、異能研究グループがいた辺りに着陸し、俺と美樹が降りた。
グループは無差別攻撃で分断されてしまったようで、翔はいなかった。シャネットやリオノーラ、メアリーや数人の生徒も分断されてしまったらしい。しかし、通信魔導具ごしに声は拾えているので、無事ではいるようだった。
魔導ロボットは、レスリー機とウォルト機を除いて戦闘不能になっているようだった。クェンティン機は、無差別攻撃から歩兵をかばった時に大破したとのことだった。
いくつかの戦線でまだ魔物との小競り合いが続いている。ここも狙われる可能性はあるから、体勢を整えなければならない。それが分かっているようで、ラザードがヘリコプターからいくつかの銃火器を下ろしていた。
「でも、これできっと大丈夫だよな。大いなる闇自体は倒せたんだから」
「ええ、そうね……!」
メルビンとカレンが言った。二人は、手袋ごしに手を合わせている。
「ヤマト! あれが何か分かる!?」
「えっ!?」
不意に通信魔導具からアマンダの声が聞こえ、俺が答えた。見れば、真っ白に変色した大いなる闇の背中辺りから何か白い煙が上がっている。
「使いたまえ!」
ラザードが俺に双眼鏡を押し付けてきた。俺は慌ててそれを使って、大いなる闇の背中を見た。
「ご、ごめんアマンダ! 俺も、あれは分からない!」
それは本当だ。ゲームではこんな現象は起こらなかった。そもそも、ゲームでは大いなる闇は形一つ残らずに消滅してはいなかったか……?
俺がその部分を見続けていると、白い煙が止まり、その部分にひび割れが起こり、中から白い色をした二足歩行の生物が這い出てきた。
「な、何だあれ!? 新手の魔物か!?」
俺が叫んだ。
「いや、違う……!」
「この魔力……。さっきまで感じてた大いなる闇の魔力が、全てあいつに凝縮しているぞ……!!」
「ってことは……!?」
魔力を感知できる異能研究グループの生徒たちが口々に言った。
まさか……、あれは大いなる闇の本体だとでも言うのか……!?
白い二足歩行の魔物は咆哮を上げた。戦場全てに轟くボリュームで、魔力の無い俺にも危険な存在だと感じさせる。
その大いなる闇の本体は、白い手をゼーデルガイナーに向けると、青い光が放たれてゼーデルガイナーを吹っ飛ばした。そして、吹っ飛ばされた先にはヘリコプターがあった。ゼーデルガイナーの下敷きになったヘリコプターが、爆発、炎上する。
「な……!?」
「ケビン……!?」
俺と美樹が叫んだ。ラザードは外にいたが、ケビンはヘリコプターのコクピットにいたはずだ。俺と美樹が慌てて駆け寄ろうとすると、ラザードに止められた。
「行くな! ケビンはもうダメだ!」
「そ、そんな……」
「そんな事って……!?」
ラザード、俺、美樹が順に言った。
「くそ……。まだ生きてたって事なの……?」
ゼーデルガイナーからはアマンダの声が聞こえた。アマンダは無事なようだった。
しかし、アマンダの魔力は限界のはずだ。ロベルトもカレンに肩を担がられてやっと歩いている状況。もう大いなる闇を倒せる手段があるとは思えない。目の前でケビンが死んだ事にも動揺し、俺は思考が停止しそうだった。
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