46 軍用ヘリ登場

 俺は美樹みきと共にラザードに駆け寄った。


「ど、どうしてラザードさんが!?」

「ケビンと共にあの軍用ヘリで待機していたのだよ。そうしたら、本当に転移が起こってね……」

 操縦席を見ると、ケビンが手を振っていた。


 異能研究グループのメンバーも、突如転移してきたヘリコプターに驚いているようだ。どよめきが起こっている。


山和やまとくん、美樹くん、乗りたまえ。状況、良くないのだろう?」

「えっ、でも……」

「もうこの際だ。君たちも手伝え」

「は、はい……!」

 俺と美樹がヘリコプターに乗り込むと、ヘリコプターは離陸してボスクラスの魔物の後ろにつけた。


「ケビン!」

「オーケー、弾薬はバッチリだ。こいつを喰らいな!」

 ヘリコプターからミサイルが飛び、ボスに着弾する。ボスはたちまち爆散した。地上では、異能研究グループのメンバーが歓声を上げた。


「で、状況はどうなってる?」

 ケビンに促され、俺は簡単に状況を説明した。戦場の中央でゼーデルガイナーと大いなる闇が戦っており、今倒したボスクラスの魔物は常に補充されて8体、そして対抗できる魔導ロボットは6機残っている。


「ヘリの機動力ならカバーできる範囲だな。情報共有手段は?」

「私がやります!」

 ケビンの言葉に美樹が答えた。美樹は情報通信用の魔導具を手に持ち、戦場の状況を把握する。


「あっちに!」

「よし来た!」

 美樹の言葉にケビンはノリノリで答えた。ヘリコプターは苦戦が報告された別の戦線の方に飛ぶ。


「山和くん、これを」

「え、これは……!?」

 ラザードは俺にマシンガンを渡してきた。


「緊急事態だ、使いたまえ。ただし、狙いたい方向に味方がいる場合は無理するな」

「わ、分かりました……!」

 ヘリコプターは高度を落として魔物の群れに機関銃を照射した。俺とラザードもヘリコプターの上からマシンガンを構え、別方向への援護射撃を行った。銃弾の嵐に襲われ、魔物たちがたちまち爆散していった。


 思わぬ援護だったからか、地上の歩兵チームから歓声が上がったが、魔物たちの数が多いので、彼らもすぐに攻撃に戻った。


「捕まってな! ボスを攻撃するぜ!」

 ケビンがそう言うと、ヘリコプターは若干高度を上げ、ミサイル攻撃でその戦線のボスを爆散させた。


「い、いいぞ、これなら!」

 少なくとも、ヘリコプターの兵装が十分じゅうぶんなうちは、機動力を活かして魔導ロボットが対処できないボスを叩くことができる。そして、通常の魔物に苦戦している歩兵チームがいれば、援護に駆けつけるのも容易だ。


 ただし、ヘリコプターのミサイル攻撃は、大いなる闇には通じなかった。やはり、大いなる闇そのものの打倒はゼーデルガイナーに託すしかないのだ。



    ◇◇(視点変更)



「はぁぁ!!」

 アマンダの気合の叫びと共に、ゼーデルガイナーが大剣を振るう。大いなる闇の巨体に直撃し、その手応えも確かにアマンダに伝わってきた。しかし、大いなる闇がどれだけのダメージを受けているのか、見ただけでは分からなかった。


「く……、流石に歴史に悪名を残す魔物ね!」

 アマンダがそうボヤいている間にも、大いなる闇は口を大きく開けて紫色の光線を放ってきた。何度か見た攻撃だったので、ゼーデルガイナーにサイドステップをさせてそれを避ける。


 レスリー機がボスとの戦いの援護に行ってしまったので、戦いは一対一だ。その後も、次々と戦闘不能に陥る魔導ロボットの報告をアマンダも聞いていたため、勝負を焦った時間もあったが、山和の世界から思わぬ援軍が来たおかげで冷静を取り戻すことができていた。


「ったく、結局転移してきたのね、ラザードも、ケビンも!」

 山和の世界でアマンダも聞かされていた情報として、あの世界からは山和と美樹とかけるしか転移の兆候が無かったという。それでも、たった二人だけでも、強力な武器を持って援軍に来てくれたのはありがたかった。これも、世界の意志なのだろうかと、アマンダは思った。


「これならどう!」

 アマンダの司令で、ゼーデルガイナーの左手から赤い光の攻撃が行われ、さらに右手の大剣で斬りかかった。二種類の攻撃を同時に受け、大いなる闇は、この戦いで初めて後ろに下がった。


(よし、行ける!)

 冷静を取り戻せたおかげで、少しずつ大いなる闇を削ることができているようだと、アマンダは思った。アマンダはチラッと、山和たちが乗るヘリコプターを見た。


 あれがどういう兵器なのか、山和の世界に転移した時に聞かされている。プロペラの力で空を飛ぶ、不思議な乗り物だ。アマンダの世界には空を飛ぶ魔導具など無かったため驚くべきことなのだが、自由自在に空を飛び回り、ボスにはミサイル攻撃、地上の魔物群にもマシンガンで攻撃を加えている様は、本当に頼りになる兵器だとアマンダは思った。


 アマンダは追撃を加えるべく、大いなる闇に向き直った。



    ◇◇(山和視点)



 行ける! アマンダが、ゼーデルガイナーが押している!


 俺は横目にゼーデルガイナーと大いなる闇の戦いを見ながらそう思った。全ての世界を巻き込んだバッドエンドの回避など、どうして俺たちなどに託されてしまったのか呪った時もあったが、もうすぐ勝てそうな状況に、胸を撫で下ろしたい気分だ。


「山和くん、あれは何!?」

「えっ!?」

 美樹に言われるまま別の戦線を見ると、4体のボスが勝手に闇の瘴気と化し、大いなる闇の方へ向かっている。


「ゲームには無かったぞ、あんなの!?」

 俺は叫んだ。見たところ、大いなる闇の指示のようだが、ボスが減れば魔導ロボットにも余裕が生じるし、どういうつもりだ。


「皆、気をつけて! 4体のボスクラスが闇の瘴気になって、大いなる闇の方に向かってる!」

 美樹が通信魔導具に呼びかける。各戦線から次々と応答が入った。


「アマンダ、奴は何かする気です!」

「了解!」

 レスリー機からの言葉にアマンダが返答した。ゼーデルガイナーが大いなる闇から距離を取り、身構えたのが見えた。


 4体のボスの瘴気は大いなる闇の背中の上で渦を巻き始めた。そして、大いなる闇が咆哮を上げると、その渦から大量の光が空に放たれ、戦場の各地に降り注ぎ始めた。


「何!?」

「戦場全体が狙われている!!」

「全員、退避!!」

 魔導具ごしに、各戦線からの声が響いた。光は次々と地面に着弾し、爆発を起こしている。大いなる闇にとっても味方であるはずの魔物たちもお構いなしと言わんばかりの無差別攻撃だ。


「捕まってろ!」

 ケビンの声が響き、ヘリコプターが高度を上げて無差別攻撃から距離を取る。


「翔、皆!?」

「なんてこった!?」

 美樹と俺が叫んだ。


 地上では防御魔法で無差別攻撃に対処しているようだが、爆発で煙が上がってしまって状況を目視確認できなくなっている。


 ゼーデルガイナーからではなく、回りから崩そうとするとは! 俺は大いなる闇を睨んだ。何て事をしやがったんだ!

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