44 バッドエンド回避のため

 大いなる闇の復活の情報が報道され、街は大騒ぎになった。通常の教育機関は休校になったが、魔法学校は逆に生徒を呼び寄せることになった。休日の予定だった学園祭翌日の校舎は、生徒たちで溢れかえった。


 上級生への出動命令などは出ていないが、いつでも出られるよう準備が言い渡された。


 一方、異能研究グループはいつもの教室に集まっている。元々、戦う準備をしてきたグループなのだから。


「ついに、この時が来ましたね」

「ああ。状況を整理するぞ」

 俺とエリザベートが言った。


 大いなる闇が復活したのはこの大陸の中心部。かつて魔王の居城があった湖の孤島を目指している。そこは闇の魔力の吹き出す所で、その魔力を利用して大魔法を発動し、ビッグクランチを起こそうとしているのが、大いなる闇の目的だ。すなわち、到達させてはならない。


 大いなる闇は、全方位にボスクラスの魔物を8体展開しており、それぞれのボスの動きに合わせるかのように通常の魔物が大勢つらなっている。ゲームで言うならタワーディフェンスさながらだ。拠点が動いているのは違う点だが。


「ボスクラスの魔物を倒すには、ロベルトの魔力増幅が有効となるが、連発はできない」

「そこで、ボスクラスの魔物は、我々が対応するという事ですね」

 エリザベートの言葉に、レスリーがゼーデルガイナーの通信ウィンドウ越しに答えた。ゼーデルガイナーの力でカレンの世界の魔導ロボットを召喚し、それらがボスと対峙する計画だ。


 通常の魔物には、この世界の正規の魔法師部隊や、異能研究グループのメンバー、そして同じくゼーデルガイナーの力で転移予定のレスリー配下の歩兵部隊があたる。


「ではまず移動だ。行こう、皆」

 メルビンが声をかけ、全員で答えた。



 拠点とする町は、大いなる闇の進行経路上にあり、既に住民の避難が始まっている。町に入るのは、戦う部隊だけだ。到着すると、重苦しい雰囲気の中、準備が進められた。


「やるだけはやったよな……」

「うん。後は皆を信じるしかないよ」

 美樹みきと俺が会話する。


 結局、電波の通用する魔物はマッドプラントしか見つからなかったし、背中に担いできたショットガンも、所詮ゴム弾では戦局に貢献できるような力は無い。美樹の言う通り、『時空の果てに響く旋律』と『混沌のホーリーナイト』の世界の皆を信じるしかなかった。



    ◇



 二日ほどその町に滞在し、大いなる闇が接近してきたタイミングで作戦は決行となった。


「いでよ、ゼーデルガイナー!」

 アマンダの声に合わせ、ゼーデルガイナーが時空を超えて出現する。さらにゼーデルガイナーの力で、魔導ロボット8機と、歩兵部隊が転移してきた。


「レスリー様!」

「お元気で!」

「カレン、メルビン、久しぶりですね。ですが、積もる話は後で。すぐに行動に移ります」

 カレン、メルビン、レスリーが順に言った。


 大いなる闇を囲むため、8つの部隊が町から出発した。魔導ロボットは、ボスクラスと対峙するため、各部隊に1機がつく。


 異能研究グループはゼーデルガイナーと共に固まって行動した。結局、この部隊は切り札なのだ。ボスクラスの魔物を突破し、ゼーデルガイナーを大いなる闇の元まで進ませるため、レスリーの駆る魔導ロボットも同行している。


 グループで大いなる闇の進行方向の斜め前に移動した。


「あ、あれが……」

「大いなる闇……」

 生徒たちが声を上がる。彼らも歴史でしか知らなかったはずの厄災だ。怯えた様子だった。


 四本脚で進む巨大な何か。そういう形容しかできなかった。身体は紫のオーラで覆われており、禍々しい。俺はゲームで見たことはあったものの、実際の大きさを見ると、畏怖を抱かざるを得なかった。


「さあ、では行きます」

 レスリーが魔導ロボットを進ませ、ボスクラスの魔物に迫る。あれを倒さなければ、ゼーデルガイナーを大いなる闇の本体まで進めさせることができないのだ。


 ロベルトの異能は温存し、メンバーはボスクラス周囲の通常の魔物の討伐にあたる。


「では、我々も行くぞ!」

 エリザベートが言い、俺たちはそれに続いた。


 魔物たちがこちらに向きを変え、襲ってくる。生徒たちが魔法で迎撃を始めた。俺やかけるはショットガンを持って後方待機している。美樹みきとカレンはスマホとBluetooth機器を持ち、マッドプラントが出現した場合に備えた。


 そして、ボスクラスとレスリー機の対決も始まった。大きさはほぼ同じだった。レスリー機の剣戟に合わせ、魔物はサイドステップをかける。巨体に似合わぬ俊敏さだ。


「頑張って、レスリー様……」

 アマンダが呟いた。参戦したいのだろうが、ゼーデルガイナーの力は温存する手筈になっている。


 他のボスクラスの魔物との戦いの情報も入ってきていた。無理してボスの撃破は目指さず、あくまでボスが大いなる闇の援護に向かうのを阻止する。魔導ロボットたちは善戦しており、特にウォルトとクェンティンの乗っている機体が大活躍しているようだった。


 やがて、レスリー機の攻撃が決まり、ボスクラスの魔物は爆散して闇の瘴気に変わった。


「アマンダ! 行きますよ!」

「はい!」

 レスリーとアマンダが言った。ボスクラスの魔物が消えたところが道となり、ゼーデルガイナーとレスリー機は、そこを走り抜けた。


「いよいよ、対決だ」

「アマンダ……どうか無事で……」

 ロベルトとカレンが言った。

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