42 それぞれの恋慕1
生徒会長の声が魔導具のスピーカーから響き渡り、学園祭の終了が宣言された。あちこちから拍手が上がる。もっとも、後夜祭があるので生徒たちの喧騒はまだまだ終わらない。
「後夜祭だなんて、日本と似てるところあるよね」
「そうだよな」
やたら大きい敷地内の中心部にやぐらが設置されて火が灯される。それを中心に生徒たちが集まって思い思いの時間を過ごした。生徒会主催のイベント等も行われ、街の住人が屋台を出したりもしている。
街の住人が屋台を出すようになったのは近年始まった事らしい。学徒動員が始まってしまい、生徒たちへの感謝を示す意味もあったようだ。
ゲームではこの後夜祭の最中に、ロベルトが好感度が
俺はふと、隣に佇む美樹を見た。ロベルトはカレンと一緒にいるだろうし、アマンダもメルビンもどこかに繰り出していっているし、今は知人が他にはいない。俺にとってもチャンス、なのだろうか……。
◇◇(視点変更)
演劇でスタッフを一緒にやったわけだし、何とか理由をつけて、翔はこの学園祭で初めてメアリーと二人きりの状況を作り出すことに成功していた。
「おー、かぐらがよく見えますね!」
「穴場スポットだと思ってさ」
翔とメアリーがいるのは、取り壊される予定の廃校舎だ。少し怖い雰囲気があるだけに、人はあまり寄り付かない。そこはゲームではロベルトがヒロインと共に来る場所なのだという事を、翔は山和から聞いており、利用させてもらったのだ。
「メアリー、スタッフ大変じゃなかったか?」
「そりゃ走り回って準備も含めて忙しかったですけど、楽しかったですよ! カケルさんは?」
「楽しかった」
メアリーと一緒にやることができたからより一層楽しかった、それが翔の本音だった。もう想いは伝えるべきだと翔は思っていたし、こんな場所に連れ出したのもその一環だ。翔が切り出すために心の準備をしていると、メアリーが話し始めた。
「カケルさんは……優しいですよね……?」
「そうか? 体格が良い方だと自分でも思ってるけど、そのせいで怖がられてばっかりだったぜ」
「きっと、内面を見せる機会が無かったからですよ」
「そういうもんかねぇ」
「でも……」
メアリーはそう言うとしばし沈黙した。そして、翔の方を向いた。
「私に優しくしてくれるのは、あの時の罪滅ぼしのためですか……?」
「えっ……?」
「もしそうなら……もう、やめてください。これ以上……勘違いしていたくはないです……」
メアリーは下を向き、拳が握られている。
翔がメアリーを気にかけていた理由が何なのか、メアリーは不安だったようだと翔は思った。そう思わせてしまっていたなら、一刻も早く本心を伝えるべきだと考え、翔は言葉を口にする。
「罪滅ぼしなんかじゃない。俺が、あんたに惚れてたからだよ、メアリー……」
「…………」
メアリーは翔の目を見た。そして、沈黙したままおずおずと翔に近づき、その体躯に抱きついた。
「っ……!?」
いきなり抱きつかれて翔が一瞬ビクつき、そして、すぐに翔もメアリーの背中に腕を回した。
(あ、相変わらず、なんつー身体してやがる……!?)
華奢な体格の割に存在感のある胸を持つその身体が、翔の身体に押し付けられるのは二度目。
一度目は呪術で操られて力任せのベアハッグをやらされるという、酷い状況だった。不謹慎だと翔自身が思いつつも、忘れられなくなってしまっていたその感触と再び出会い、翔の中に劣情の嵐が吹き荒れる。このまま押し倒してしまいたい衝動と必死に戦った。流石にそこまでやる場所ではないのだから。
「カケルさん、全部終わったら、帰っちゃうんでしょ……?」
「そうなるな。俺は、それまでの期間だけでも、メアリーと一緒にいたい」
「私も……です……」
二人は、口づけを交わした後、寄り添いながら廃校舎を出て、外に消えていった。
◇◇(山和視点)
俺は美樹と二人で歩いていると、魔法学校の生徒の男女の告白現場を見てしまった。
「えっ、あれって!?」
「こら!」
美樹に口を塞がれ、現場から引きずられるように立ち去る。
「ビックリした……。でもダメよ、邪魔しちゃ!」
「う、うん、そうだね、ごめん」
俺は頭を掻いた。正直、二人きりになれる場所に誘導しようとした俺のせいでもある。同じような事を考えていた生徒が先にいたということなのだから。
ゲームでロベルトとヒロインが使った廃校舎は、翔がメアリーと一緒に入っていくのを見てしまったから使えない。まったく、翔にゲームの話なんてするんじゃなかった。
しかし、ふと街側を一望できる場所に人がいないのに気づき、ひと休みと称して美樹と共にその場所に移動した。
「ふぅ、熱気が凄い」
「まあ、こういうイベントだもんね。山和くんの高校の文化祭とかはどうなの?」
「なるなる。去年も随分とはしゃいでる生徒、多かったもん」
「そっか。今年は行ってみるかなぁ」
「それまでに転移が終わってたら、ぜひ来てよ」
そのままお互いの高校の話をした。美樹は、自分の高校では演劇の活動は一切していないらしい。少し勿体ない気もするが、外で活動しているから
「美樹ちゃん、演劇、楽しかったんじゃない?」
「そうね。ひっさびさだったけど、やっぱ私は好きだよ」
「良かった。俺はまた美樹ちゃんの演技、見たかったから」
「そう? ありがとう」
美樹はキョトンと俺の顔を見る。何て綺麗な顔なんだろう。美人揃いのこの世界を経験してもなお、美樹は美しかった。
ちょうど学校内のかぐらの炎の色が魔法で変えられ、それが美樹を別の色に染め上げる。その綺麗さにあてられ、俺はついに自分の本心を口にしてしまった。
「美樹ちゃん……」
「ん……?」
「好きです、付き合ってください」
自然とお辞儀をしてしまった。俺に、美樹の顔を見続ける勇気は無かった。
「……」
「……」
二人してしばしの無言。耐えきれずに俺が身体を起こそうとしたタイミングで、美樹が言葉を発した。
「山和くん、私と、ヤリたい?」
「えっ……!?」
な、何て事を聞くんだ……! そんなの、NOだったら嘘に決まってる。しかし、YESとも言いづらい……!
俺は必死に自分を抑えた。言葉通りに捉えていい質問ではないはずだ。美樹は、所謂ヤリチンたちの闇を見て男が嫌になってしまったと嘆いていたはずなのだから。
「美樹ちゃん、その質問は……あまり意味が無いと思う」
「うん、そうね、ごめん。今の無し! 聞かなかったことにして!」
美樹が手をわたわたさせながら言った。そんな質問で確認できる事ではないと美樹も思っているようだった。相手がクズ男なら、目的のために嘘だってつくのだろうから。
「聞き方を変えるわ。どうして、私なの……?」
本当に警戒しているのだと思う。しかし、そもそもダメなら最初から何も聞かずに断ってくるはずだ。俺はそう信じて言葉を続けた。
「演劇に夢中になってる美樹ちゃんが、綺麗だと思ってたんだよ。それは昔から」
「うん……」
「物語論の話とかだって通じるしさ。普通、通じる
「そっか、ありがと……」
美樹は自重気味に微笑んだ。やっぱり、ダメなのか……。
「あと、さ。見た目が可愛いと思ってるのも事実。さっきの質問に答えるなら、ヤリたいってのも……」
「あーー、それはいい! 言わなくていいよ、ほんっと、ごめん!」
全部言ってしまおうとした俺を美樹は止めた。そしてしばらく考え、俺に向き合った。
「ごめん、山和くん」
謝罪から入った美樹の言葉に、俺は膝から崩れそうになるのを必死に支える。
「少し、考えさせてくれる、かな?」
「えっ!?」
もうダメだと思っていた俺の心に希望が灯った。喜怒哀楽の『哀』と『喜』への行ったり来たりに頭がおかしくなりそうだ。
「やっぱり、嫌気が指しているのは今でも変わらないの。山和くんがダメ男かもしれないとか、そんなことは思ってない。でも、さ……」
「いいよ、美樹ちゃんの状況は分かってるから」
気が滅入っている中、考えるとまで言ってくれたのだ。俺にはそれで
「ありがとう、山和くん。そう想ってもらえるのは、嬉しい」
「こっちこそ、聞いてくれてありがとう」
答えを聞けるまではしんどいかもしれない。しかし、ようやく自分の気持ちを伝えることができた。とても思い出に残る日になったと、俺は思った。
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