41 響く旋律

 アマンダを見送った後、俺と美樹みきとメルビンは少しだけ喫茶店に残り、そして教会に移動した。教会では音楽の出し物が順番に行われている。アマンダの出し物は、教会での弦楽器演奏だった。


「あ、姉さん」

「ロベルトも」

 メルビンと俺が言った。ロベルトとカレンも来ており、俺たちに手を振っている。近くの席が3つ空いていたため、そこに合流した。


 アマンダの番は、次のブロックのさらに次だったが、他の人の演奏を聞くのも悪くないと思って早めに訪れたのだ。ロベルトとカレンも同じだったようだ。休憩時間が終わり、次のブロックが始まった。


 アマンダと同じく弦楽器を奏でる者や、複数人での管楽器のショー等、様々な形態の演奏が行われる。俺たちはその都度心を打たれ、拍手した。


 そのブロックが終わり、再び休憩時間となる。次のブロックにはアマンダも登場するため、異能研究グループのメンバーも続々と教会を訪れてきた。


「あ、かける

 美樹が翔に気づき、手を振る。翔も手を振り返してきた。翔はその後、メアリーの隣の席を確保していた。頑張っているじゃないか。


 アマンダの演奏順は、ブロックの最後だった。アマンダは綺麗な正装で登場した。ゲームでもこのイベント自体はあるが、楽曲は違っていた。しかし、本当に時空の果てにでもいるのではないかと思ってしまうような、美しい旋律だ。


 演奏が終わると、割れんばかりの拍手喝采となった。アマンダは堂々とした様子でお辞儀をし、退場していった。


「……」

 俺は無言で拍手しながらアマンダの退場を見送った。


 再び休憩時間となり、異能研究グループのメンバーはふらふらと集まった。これから皆でアマンダを労おうという話になっている。


「良い演奏だったね」

「ああ……」

 ふと美樹が口にした感想に俺が答えた。そして、俺は言葉を続けた。


「ゲームのアマンダルートってさ……」

「えっ?」

「大いなる闇を倒せるルートなんだけど、アマンダは、使った魔法の威力が強すぎた影響で手足が動かなくなるんだよ……」


 その状態でもロベルトと共に必死に生き、リハビリを繰り返して最後に行われるイベントが演奏会なのだ。だから、『時空の果てに響く旋律』というタイトルはそのラストにかかっている。


「アマンダはさ、今みたいに元気に生きててほしい。だから、きっとゲーム通りにならなくて良かったんだと思う」

「そうね……。そのラストは、物語としては良いかもしれないけど、私も山和やまとくんと同意見よ」

 俺の言葉に美樹が返した。


 ロベルト✕アマンダを画策していた時は、そこまで考えていなかった。今思うと、彼らに試練を与える大変な事を強いようとしていたな……。


 やがて、制服に着替えたアマンダが出てきて、俺たちと合流した。真っ先にメルビンが声をかけた。


「美しい音色だった。流石だな、アマンダ」

「あら、ありがとう。レスリー様の演奏を聞いたことがあるメルビンには聞き苦しかったかもしれないけど」

「ん、知ってたのか、レスリー様が音楽をたしなむこと。それなら心配するな、遜色ない。むしろ、二人での演奏とかも聞いてみたいぐらいだよ」


 それは、さぞかし美しい演奏会になるだろうな。


 しかし、きっとその日は来ない。恐らく、次に転移が起こるのは全てが終わった後だ。皆、いるべき世界に戻ってしまい、行き来することはできなくなるのだから。アマンダもメルビンも、それが分かっているようで、神妙な顔をしていた。


 俺はロベルトと共に、アマンダと拳をぶつけ合った。いつからかやるようになった、この3人組の挨拶だ。そのまましばし言葉も交わした。その後、アマンダは他の異能研究グループのメンバーとも挨拶した。


 ロベルトとカレンは再び二人行動に移り、俺たちはアマンダを加えて少し学園祭を回った。学園祭一日目が終了すると、俺たちは4人でレストランに向かい、夕食を取った。



    ◇



 翌日。

 寮で起きて支度を済ませると、美樹や翔、ロベルト、カレン、メルビンと合流して魔法学校内の演劇会場に向かう。アマンダや、他の参加者も続々と集まってきた。


「緊張するなぁ……」

「楽しみたまえ、若人わこうどたちよ」

 ベラとエリザベートが言った。エリザベートは他人事の様に言っているが、彼女にも役がある。ゲームでのヒロイン4人を使わない手など無いというのが、俺と美樹とで一致した意見だった。


「よーし、せっかくの出し物だ!」

「皆、楽しもー!!」

 リーダーでもある俺と美樹がそう声をかけると、皆からは『おー!』というノリノリの返答が返ってきた。照明などのスタッフをやってくれるメンバーが、配置についていく。


 なお、翔はスタッフだ。ここはメアリーにもスタッフをお願いして、二人で同じ作業をしてもらったりする予定でいる。正直、メアリーはキャストに入れたかったのだが。


 シャネットとリオノーラには、上下関係にあるキャラを演じてもらった。悪役令嬢づらのリオノーラは当然、上の立場の役だ。ゲームにあったいじめ描写を入れたりなどはしなかったが、シャネットが下の役というのは随分と絵になっていたと思う。


 ベラは王女のお付き、エリザベートは王女の教育係を演じてもらった。ベラの活発な印象は、難しい立場にいる王女の心に寄り添う印象を与えていたし、エリザベートの皮肉たっぷりなセリフは王女を追い詰めている感があって、それも良かった。


 王女役はアマンダ、そして、敵国の王子役をメルビン。俺も美樹も全会一致で合意した配役だ。ギャルゲーの第一ヒロインと乙女ゲームの第二ヒーローだぞ! 絵にならない訳がない!


 二人には、敵国同士で決して結ばれない悲愛を演じてもらった。舞台に立っている俺たちですら感動してしまいそうな絵作りが出来たと思う。


 ちなみに、俺と美樹は王女の親、ロベルトとカレンは王子の親を演じた。俺はあまり演技経験は無いので、演技レベルの高すぎる美樹に合わせるのは苦労した。いや多分、合わせられてなどいなかっただろう。それは、積み重ねてきた研鑽けんさんの差だ。簡単に埋まるわけもない。


 そういう意味では美樹を主役にすべきなのかもしれないが、残念ながら演劇は絵になる容姿も重要だ。美樹も勿論美人なのだが、アマンダとメルビンがセットで醸し出すビジュアルは、あの二人にしか出せないのだ。


 それでも美樹は彼女の精一杯の演技をしていた。俺はそれが嬉しかった。


 俺と美樹は舞台の裏から、アマンダとメルビンが演っている最後の悲愛の場面を眺めた。その感動的な場面に、客席からすすり泣く声が聞こえた。俺は美樹と目を見合わせ、ハイタッチをした。


 最後の場面が終わると、アマンダとメルビンが立ち上がり、客席に向かってお辞儀をした。俺たちも舞台に上がり、整列して同じ様にお辞儀をする。会場から大きな拍手を貰うことができた。


 全員で舞台の袖にはけ、お互いを労い合う。


「お疲れ~!!」

「上手くいったな!!」

「楽しかった~!!」

 参加者たちから次々と声が飛んだ。

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