39 決戦への準備
魔導ロボットと魔物の融合体から引きずり出されたマティアスは歩兵団に拘束され、馬車で連行された。城塞都市に戻ってから取り調べや操作が行われるという。
「マティアスの野郎、頭おかしい奴だとは思ってたが、ここまでの事をやっちまうなんてな……」
「君が気に病むことではないよ、ウォルト」
ウォルトの嘆きにクェンティンが答えている。ウォルトはマティアスの部下でもあったから思うところも大きかったようだ。
エリザベートや教師を中心に異能研究グループも集まった。確認したところ、特に大きな怪我人も無かった。騎士団の歩兵団との即席の協力関係が上手くいったようだった。
「さて、帰還しましょう」
レスリーのその言葉に反応するように、即席チームは帰路についた。
◇
マティアスの処遇などの後始末があるということで騎士団本部に戻っていたレスリーが、再び俺たちの使っている拠点に姿を現した。異能研究グループの全員が大広間に集まる。
「皆さん、ありがとうございました。任務は想像以上にスムーズに完了しました」
レスリーが頭を下げる。
「本日、皆さんと行動を共にした歩兵団は私の直属です。ですから、皆さんの世界の大いなる闇と対決する時にもゼーデルガイナー経由で参戦することができるでしょう」
「そういう意味では、予行演習になりましたね」
レスリーの言葉にエリザベートが答える。
「だけど、皆、近々元の世界に戻ってしまうでしょう? 連絡はどう取り合うのです?」
「ゼーデルガイナーが中継してくれるって。何度も転移は出来ないけど、スクリーン投影くらいだったら可能よ」
メルビンがレスリーにした質問にアマンダが答えた。
定期的に連絡を取り合うことが確認された。また、訓練は各々の世界で行い、決戦に備えることになる。
「俺たちの世界からも助っ人を出せれば良いんだけど、ここに来ている3人以外に転移の兆候が無いそうです」
俺が情報を付け加えた。
「本当に、どうして私たちみたいな一般人だけなんだろう……。世界の危機だというのに……」
「恐らく、3つの世界を結びつける事があなたたちの役目だったのだと、私は思いますよ」
「そうだ、気にすることなんて無いぜ、ヤマトもミキもカケルも。大丈夫、僕たちで何とかしてみせるさ」
レスリーとメルビンが言った。異能研究グループのメンバーもそれに乗って次々と言葉をかけてくれた。
「ありがとう……」
「皆、優しい……」
俺と美樹が言った。
メルビンが言った通り、夕食を済ませた後に、異能研究グループは元の世界に転移することになった。俺と美樹と翔が一緒に転移したのはいつも通りだし、今回もカレンがついてきたが、メルビンも一緒に転移してしまった。
「こ、今回は僕もか……」
「ふふっ、色々案内するわ、メルビン」
メルビンとカレンが言った。
それからの日々は、グループ員の訓練と、大いなる闇の復活の兆候を探る調査だった。メルビンも訓練に混じった。魔導ロボットの訓練ができなくなってしまったが、本人曰く、恐らく本番の戦いでも新人である自分に出番は来なかっただろうから、これで良いとのことだった。
ゲームと違い、前回の戦いでボスクラスの魔物を4体同時に撃退したからか、その後、ゼーデルガイナーが必要とされるような大型の魔物は出現しなかった。それでも上級生への学徒動員は何度も要請があるほど、魔物の出没は続いた。
一方、生徒たちは学園祭の準備も並行で進めた。大いなる闇が討伐されれば魔物が減り、次の年に改めて盛り上がることもできただろうが、やはりそこは10代中盤のエネルギーを持て余す少年少女の集まりだ。学園祭にも熱意をつぎ込んでいた。
俺と美樹と翔も、演劇の準備をしていた。
「
「えっ?」
美樹が言い出した主役の男女は、メルビンとアマンダだという。メルビンが転移していなかった時は、主役の男を誰にするかが決まらなかったのだが、俺もメルビンは面白いと思った。アマンダがヒロインを演るならこれはもう、完璧な美男子、美少女のコンビという事になり、文句の付け所が無い。
「それいい! 声かけてみよう!」
俺はそう言い、アマンダとメルビンに会いに行った。そこにはロベルトとカレンもいた。
「え? 演劇の主役?」
「僕とアマンダが、か?」
アマンダとメルビンは顔を見合わせた。その様を想像しているようだ。
「うーん、私は構わないよ」
「む、僕も断る理由は無いな」
アマンダが人差し指の先に炎を灯しながら言い、メルビンも人差し指の先に水球を漂わせながら言った。メルビンのそれはアマンダから教えてもらったらしい。張り合ってばかりだと思われたメルビンも、最近はアマンダと素直に接している。
「へー、面白そうじゃないか!」
「うんうん! 私もメルビンの演技とか、見てみたい!」
ロベルトとカレンが言った。
「おいおい、何言ってるんだ。ロベルトとカレンにも演ってもらいたい役があるんだぜ?」
「「え?」」
俺の言葉に、ロベルトとカレンはしばし停止していた。
「ふっふっふ、見てるだけなんてダメよ、ロベルト!」
「姉さんもだ! 一緒に舞台に立とう!」
アマンダとメルビンはのりのりで言う。ロベルトとカレンは恐縮しているようだったが、オファーを受けてくれた。
こうして、大いなる闇との対決に向けた訓練に加え、ギャルゲーの主人公と第一ヒロイン、乙女ゲームの主人公と第二ヒーローを、演劇の練習に巻き込むことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます