38 元黒幕を止めろ

 魔導ロボットと魔物の融合体となったマティアスを止める。ゼーデルガイナーの能力について、レスリーを含む騎士団上層部と情報交換をし、マティアスが逃げ込んだ山への追跡は、騎士団の歩兵団と異能研究グループとで行う事になった。この作戦については、魔導ロボットを必要は無いという判断だ。


 馬車が用意されて各々が乗り込む。そこには、『混沌のホーリーナイト』のヒーロー4人も来ていた。すなわち、レスリー、メルビン、ウォルト、クェンティンだ。


 俺はロベルトやアマンダ、美樹みきといったいつもの面子と同じ馬車に乗り込み、そこにはレスリーとメルビンもいた。この馬車には黄色い歓声を上げる者はいなかったが、ウォルトやクェンティンと同乗になった女子生徒などは、戦いの前という事もあって自重はしているものの、何かと理由を付けて彼らと話そうとしているようだった。


「大人気ね、ウォルトもクェンティンも」

「美樹ちゃんも、気になったりするの……?」

 美樹の言葉に、俺は恐る恐る質問する。


「いやぁ、あの人たちは乙女ゲームの攻略対象だもの。憧れは憧れのままの方が良いのよ!」

「でも、ここにいる皆は本物だよ?」

「それでも、よ」

「そ、そういうものなのか……!」

 俺は少し安心の気持ちを含んだ声を上げた。


 俺がふと、他の馬車の様子を見ると、クェンティンはニコニコと流していたが、ウォルトは下手すると誰かに手を出しそうな雰囲気だった。



    ◇



 山に辿り着き、そのまま入っていく。木々は少ない、所謂岩山だった。この世界の魔物は、『時空の果てに響く旋律』の世界の魔物とは種族も違うため、異能研究グループには対処法のノウハウが無かったが、マティアスに吸収されてしまったのか、魔物とはほとんど遭遇しなかった。


「魔力を追うにしても、この山は至る所から魔力が吹き出していて、探知できないわね」

「だから、ここを隠れ家に選んだのでしょう」

 アマンダとレスリーが言った。


「うーん、嫌な雰囲気の所だな」

「全くね……」

 ロベルトの呟きにカレンが反応した。俺もロベルトに同感だったし、他の皆も同じだろう。


『ゼーデルガイナー……』

「なに!?」

「今の声は!?」

 突如、山に響いた声に、全員が身構える。


『今更ゼーデルガイナーは必要ない……。私の、今のこの力だけで足りる……』

「マティアスか!」

「どこ、出てきなさい!」

「ダメです、こちらの言葉は通じません」

 レスリーが言った。


『生まれ変わった私の力を見よ……。この世界を支配するのは、この、私だ!』

 マティアスの声が響くと、俺たちの前方の岸壁が崩れた。いや、それは岸壁では無かったのだろう。そこに魔導ロボットが姿を現した。しかし、関節や顔の部分に筋肉のような部分がくっついて脈打っている。魔物との融合体、すなわちマティアスという事で間違いない。


「アマンダ、頼みます!」

 レスリーがアマンダに向けて叫ぶ。アマンダは頷き、右手を掲げた。


「いでよ、ゼーデルガイナー!」

 アマンダの声に答えるように、アマンダの前方に赤い光が生じ、ゼーデルガイナーが姿を現した。アマンダは手際よくゼーデルガイナーに乗り込む。


『ゼーデルガイナー……? 何故、ここに? いや、私は既にゼーデルガイナーを超えた! 証明してヤルゾ』

 マティアスは両手から禍々しいオーラを放った。しかし、ゼーデルガイナーはいとも容易くそれらを弾き飛ばす。


『ならば、総力戦だ!』

 マティアスから生えている尻尾が地面に突き刺さり、山のあちこちからドス黒い光が漏れ出した。その周辺の岩が集まりだし、岩が人型になったような魔物へと変化する。中には、魔導ロボットでないと対処できないような大きさの個体もいた。


「それは、前回の戦いの報告書で把握済みだぜ。アマンダ!」

「任せて!」

 メルビンの言葉にアマンダが答えた。ゼーデルガイナーが左手を掲げると、ゼーデルガイナーの後方に8個ほど、赤い光が生じて中から魔導ロボットが出現した。


 これはゼーデルガイナーの能力の一つだった。城塞都市の騎士団の拠点から転移させたのだ。レスリー、メルビン、ウォルト、クェンティンを含むパイロットたちが次々と搭乗していく。


 なお、新人であるメルビンが搭乗しているのは、才能を見込まれての事らしい。短期間で、あり得ないほど上達したのだそうだ。


 パイロットたちは魔導ロボットを駆り、大型の魔物を殲滅していく。一方、わらわらと湧いてくる小型の魔物は、騎士団の歩兵団と異能研究グループのメンバーが撃退していった。


『小賢しいハエどもめ!』

 マティアスは岩の魔物が撃退されていく様を見て動揺したようで、周囲に攻撃を加えようとした。


「スキあり!」

 アマンダの声が響き、ゼーデルガイナーが前進して大剣でマティアスを斬りつけた。


『グアッ!?』

 マティアスは叫び、後退する。


『まだダ! まだ、私は負けてイナイ!!』

 思考力が無くなっている様子のマティアスが叫び、なおも周囲にドス黒い魔力を撒き散らし、岩の魔物を生成する。しかし、魔導ロボットはそれを難なく撃退するし、地上でも歩兵団と異能研究グループが息を合わせて小型の魔物を次々と撃退していく。


『オノレ……。これが、ゼーデルガイナーの力なのか……』

 魔導ロボット8機を退けたというマティアスの力も、アマンダの駆るゼーデルガイナーに手も足も出ず、追い詰められていった。


うちに帰って、人生考え直しなさい!」

 アマンダが叫び、ゼーデルガイナーはマティアスの胸部を切り裂く。そして、ゼーデルガイナーは左手をその胸部に突き立て、赤く発光した後に、マティアスの人間の身体を無理やり分離させて引きずり出した。


 コアを失った魔導ロボットと魔物の融合体は倒れ込み、魔物の部分の動きが徐々に止まって完全に沈黙した。

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