37 往生際が悪い元黒幕
転移の光が収まり、俺が目を開けると、城塞都市が見えた。つまり、カレンの世界に転移してきたのだ。しかし、いつもと比べて周囲が騒がしい。
「あ、あれ……、何か人数が……??」
「ま、まさか、グループ全員が転移!?」
ロベルトとアマンダが言った。どうやら教室にいたグループの全員が転移してしまったらしい。これは、レスリーや調整役が嘆きそうだ。
仕方なく、俺、ロベルト、アマンダ、
拠点に到着し、しばらく待っていると、情報を聞きつけたレスリーとメルビンがやってきた。
「姉さん!」
「メルビン!」
メルビンがカレンに駆け寄り、手を取り合う。仕方のないことだが、こういう時に姉弟であっても手袋が必要なのは本当に大変なことだ。
俺たちは順に握手をし、レスリーたちに異能研究グループ全員が転移してしまったことを説明した。
「20名超えでの転移ですか……、それはまた大規模な……。ですが、この屋敷ならば収容可能でしょう」
レスリーは管理人を呼び、部屋を用意する旨を伝えた。流石に一気に人数が増えるとなると、調整することも多いだろう。管理人は頭を抱えて準備に入った。
「他の皆さんは、騎士団に出迎えさせましょう」
「ありがとうございます」
「ひとまずは、お互いに報告としましょうか。こちらの世界でも、あの後、色々ありまして……」
レスリーは少し疲れた顔をして言った。
俺たちは、アマンダがゼーデルガイナーを転移させ、強力な魔物を撃退したことを報告した。
「こちらの世界でもゼーデルガイナーが一時消えたという報告を受けています。恐らくアマンダ絡みだとは思いましたが、その通りだったようですね」
レスリーがこめかみを押さえながら言った。
「けど、それなら、そっちの世界で大いなる闇ってのと戦う方法は確立したな」
「そうね。ゼーデルガイナー自身の力で転移できる事は分かったから」
メルビンとアマンダが言った。
「それで、この世界で一体何があったのです、レスリー様?」
カレンがレスリーに尋ねた。
「実は、マティアスが暴走してしまいまして」
「えっ!?」
レスリーの言葉に美樹が反応した。それは良くない響きだった。アマンダがゼーデルガイナーを掌握したから、もう諦めて何もしない訳ではなかったのか。
レスリーが言うには、マティアスの研究所を調査して色々判明したそうだ。ゼーデルガイナーを悪用しようとしていた事も発覚した。しかし、それが失敗したので、力を求めて魔導ロボットと魔物の融合を試みたそうだ。
マティアス自身が核として使われ、マティアスの理性が失われていて交渉も不可能になっている。マティアスはその身体ごと逃走し、城塞都市近くの魔物の住む山で魔物たちを吸収し、力を蓄えているという。
魔導ロボット8機編成の部隊が討伐に向かったが、2機が大破し、4機が中破の、惨敗で逃げ帰ってきたそうだ。
「山の魔物を吸収し続けているということで、どんどん強くなっているはずです。ですから、早いうちに対処しなければならない」
「だったら、ゼーデルガイナーの出番でしょう!」
「それをお願いしたいと思っています。申し訳ありません、本来、この世界も大いなる闇打倒のため、一丸となって協力しなければならない時に」
レスリーが頭を下げた。
やがて、異能研究グループのメンバーも屋敷に到着した。挨拶を済ませた後、女子生徒たちはレスリーとメルビンに黄色い歓声を上げた。
「そりゃそうだよな、あんなイケメンが二人もいたら……」
「だな……」
俺と翔が言った。翔はメアリーまでもがその輪に加わっているのにむくれているようで、美樹に慰められている。
「そういや、アマンダはこういうの、キャーキャーしないよね?」
「んー、人は中身も合わせて、じゃない?」
「か、格好いいな……!」
超絶美人の上、こういう、考え方が現実的なところもアマンダは凄い。ただ、そのせいで、高嶺の花ってレベルではない領域にいる気もするが……。
レスリーは上手に女子生徒たちとやり取りしているし、メルビンも無難な対応をしている。メルビンと付き合いも深くなってきた俺からすると、そんなにメルビンの表情が動いていないのも分かった。ここで赤くなってキョドったりしないのは、流石は乙女ゲームのヒーローというところか。
しかし、メルビンが感情的になる瞬間は、別の方向から訪れた。
「おい、ロベルト!」
メルビンがずかずかとロベルトの元に向かい、胸ぐらを掴む。どうやら、ロベルトとカレンの交際を知ったところらしい。
「お前、どういうつもりだ! 全部終わったらお前と姉さんは引き離されてしまうんだろ! そんな間柄でよく……!」
「メルビン……」
ロベルトはそう言い、メルビンを見た。カレンもその場に向かう。
「二人で決めた事だ」
「たとえ今だけの関係だったとしても、想いには素直に。私たちはそうありたい」
「っ……!?」
そのままロベルトとカレンはメルビンと話をした。そして、メルビンはその場を去ってしまった。
「ロベルト、大丈夫。メルビンもすぐ分かってくれる……」
「ああ……」
カレンとロベルトが言った。
「少年」
不意にアマンダがメルビンを呼び止めた。
「アマンダ、何だ!?」
「少し、付き合おうか?」
「何……?」
アマンダはそのままメルビンを屋外に連れていった。一体何事かと思い、俺も二人についていった。
すると、二人は表で魔法の練習を始めた。対戦形式ではないが、同じ事をやって張り合ったりしている。
「ったく、こんなことで僕の気を晴らそうってか?」
「でも、メルビン、ついてきたじゃん」
「まあ、そうだな……!」
メルビンは満更でもないようで、アマンダと一緒に水魔法を使って、どちらが大きな水球を作れるか、などと張り合いを見せていた。俺もゆっくりとそこに近付いていった。
「メルビン」
「ヤマトか」
「ロベルトはいいヤツだよ。俺もビックリしたけど、あいつが君の姉さんを好きになったのは、きっと凄い事だ」
「……」
そう、凄い事のはずなんだ。超絶美人揃いのギャルゲーヒロインたちを差し置いて、カレンを好きになったのだから。
「……ロベルトのことを嫌な奴だなんて、思わないさ。姉さんの目に迷いがなかった。あんな姉さん、初めて見たよ」
「そっか」
メルビンはそのまま、しばらくアマンダと魔法の撃ち合いをしていた。
「あー、やっぱ勝てないな。ゼーデルガイナーに認められるだけある。アマンダ、本当に凄いんだな」
「メルビンだって凄いよ。その土魔法の操り方、教えてよ」
「だったら、僕にも君の技術を教えろよ?」
「いいよ?」
アマンダとメルビンは笑いながら魔法の練習を続けた。メルビンは楽しそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます