36 勝利の余韻

「勝ったぁぁーーーー!!」

「やったぁぁぁーーーー!!」

「お疲れーーーー!!」

 ゼーデルガイナーの勝利を見た生徒たちが口々に叫んだ。街一つの避難誘導から一転、アマンダが呼んだ異世界の兵器での完全勝利だ。当事者たちの興奮も無理は無かった。


 美樹みきとカレンは抱き合ってはしゃいでいるし、あちらこちらで生徒たちがハイタッチをしたり握手をしたりしている。俺はロベルトと共にアマンダを迎え入れ、三人で拳をぶつけ合った。アマンダの合図で、ゼーデルガイナーは元の世界に戻っていった。


 やがて逆転勝利に気づいた街の人間も押し寄せ、俺たちはもみくちゃになった。


「やれやれ。まあ、はしゃぐなと言う方が無理というものか……」

「そりゃそうですよ。僕も混じりたいくらいです」

 エリザベートと教師が言った。二人は冷静に後片付けを始めた。


 既に避難を始めてしまった町民は、知らせを聞いて戻るハメになり、小さな混乱はあったものの、皆嬉しそうな顔で街に戻ることになった。


 宿に戻ると、異能研究グループのテンションは未だ振り切れていたが、状況整理も必要だったので、ミーティングが行われた。


「つまり、異世界にいるはずのゼーデルガイナーの声が聞こえた、と」

「そうです。その時に、ゼーデルガイナーの転移方法の情報が私の中に入ってきた。それで、呼んでみたら本当に世界の壁を超えて来てくれました」

 エリザベートにアマンダが答えた。


「ヤマトくんたちが経験している、世界の意志に基づく転移とは別の、ゼーデルガイナーそのものの力という事か」

「だけど、大いなる闇と戦うために、ゼーデルガイナーをどうやってこの世界に連れてくるかも同時に解決しましたね」

 エリザベートの言葉に俺が続いた。それが最大の懸念だったが、今回の戦いでその準備も整ったのでは無いだろうか。


「何が来たって大丈夫だろ、あの兵器の強さ、見ただろ?」

「ええ! 後は、準備するだけね!」

「あの兵器、歴史の教科書に乗るんじゃないの!?」

 生徒たちは収まらないテンションで口々に言った。


 油断は大敵だと思う。ゲームでも、グッドエンドでは世界は半壊するほどに、大いなる闇は強大な存在だったのだから。しかし、俺も皆と同意見で、行けるという感触を持っていた。


「まあでも、アマンダ先輩を援護するためにも、引き続きロベルト先輩の魔力増幅を使った訓練はしますでしょう?」

「そうですね、リオノーラ様。それが良いかと」

 リオノーラとシャネットが言った。


 今後やる事は決まった。そのまとめをし、ミーティングは終了となった。すると、待ち構えていたように街の人たちが差し入れを持って押し寄せてきた。そして、そのまま昨日に続いての大宴会となった。


 夜になり、未だ続いている騒ぎを横目に、俺は外の空気を吸いたくなり、表に出た。


「ふぅ……」

 夏だから夜であっても屋外はあまり涼しくない。それでも、熱気に包まれた宿の中よりは幾分とマシだった。


山和やまとくん」

「美樹ちゃん?」

 ふと、美樹が俺の元にやって来た。美樹も少し外の空気を浴びたくなったとのことだ。


「これから先、どうなるんだろうね?」

「ボス4体がいっぺんに出てきちゃったからね。もう、予測は無理だ」

「そうね……」

 美樹は持ってきた飲み物を口に含んだ。


「中で聞いたけど、魔法学校で学園祭があるらしいじゃん」

「あー、そうだったね。ゲームだと、そこがヒロイン選択のタイミング」

「あ、そうなんだ! でも、もう関係ないよね」

「確かに!」

 そんなことを言いながら美樹と笑い合う。


「私たち異世界組も、何か出し物をやったらどうかってさ」

「マジで……? いやでも、それは確かに楽しいかもね」

「でしょ! 私は、何かやりたいかな、って思ってる」

 そのぐらいは楽しんでも良いんじゃないだろうか。異世界の学園祭だなんて、きっと二度と体験できないのだから。それに、美樹と一緒に何かをやれるなどというチャンスを逃したくはない。


「何をやるのが良いんだろうなぁ」

「美樹ちゃん、演劇はどう?」

「え……?」

 美樹は瞬きをして俺を見た。その提案を熟考しているようだった。


「そうね、それ、良いかも!」

「魔法学校に戻ったら準備をしようよ」

「うん、やろう!」

 俺たちは手を合わせた。美樹の手に触れることができたのが、嬉しかった。



    ◇



 魔法学校に戻り、二日ほどの時間を過ごした。一般生徒たちは授業だし、異能研究グループはこれからに向けて訓練をした。俺と美樹は翔と共に、学園祭でどんな演劇をやろうか相談した。三人では出来ないので、役者もスカウトしなければならない。


「主役は、誰が良いかなぁ」

「美樹がやればいいんじゃねーの?」

「翔、周りを見なよ。ここは超絶美人ヒロインが何人もいる世界だよ!」

 美樹と翔はそんなやり取りをしているが、正直、美樹は全然負けていないと思う……。


「まあ、決めやすいところから決めよう」

「そうね!」

 主役以外の、俺たちがやる役と、サブキャラクター役のスカウト候補を選んでいった。


 そんな日々だったが、異能研究グループで教室に集まっていた時、その時は訪れた。


「やばい、転移だ!」

「皆、訓練は続けててね!」

 俺とアマンダがそう叫んだ直後、転移の光がほとばしった。

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