35 大防衛戦

 俺たちがお世話になっていた宿に、町長たちがやってきて、教師やエリザベートから状況説明をした。実地研修の戦力だけで立ち向かえる相手ではなく、避難を進言する。


 魔物たちの進行を遅らせるため、牽制の攻撃は加えることになり、異能研究グループで引き受けた。しかし、敵の数を考えると、そう長くは持たないはずだ。


「くそっ、こんなことになるなんて……」

「無力ね、私たち……」

 生徒たちがぼやいた。



    ◇◇(視点変更)



 街は大騒ぎになり、家から少しでも荷物を持ち出そうとする人々が行ったり来たりしていた。大量の馬車や移動手段がかき集められ、次々と人々が乗り込んでいる。


 アマンダは最前線の防衛を引き受けたため、その光景を見ながら街の端にまで移動した。異能研究グループのメンバーも避難誘導を手伝っており、最前線にはシャネットやエリザベート、教師といった精鋭が来ている。魔力増幅のためロベルトもいるし、戦況を見極めたいということで、山和やまとたち異世界人の面々もいた。


 あの魔物たちは未来の可能性の物語では同時に戦う相手では無かったと、山和が言っていたのをアマンダも聞いている。本当に運命のいたずらというべきか、事態は厳しい方に進むのだなと、アマンダは思った。


「攻撃開始だ」

 エリザベートがそう言うと、アマンダたちは遠距離魔法で、走ってくる小型の魔物たちを攻撃した。倒れた魔物が爆散して闇の瘴気に戻っていく。巨大な魔物4体は足が遅いので、放置ということになった。


 しばらく攻撃が続くと、迎撃チームにも疲れが出てきていた。


「う……。すいません、魔力切れです……」

「俺もです……」

「下がりたまえ。後は私たちが引き受ける!」

 エリザベートは魔力切れを起こした生徒たちを下がらせる。


 横目にそれを見ながら、アマンダは迎撃を続けた。魔力の消費を最低限にし、まだ持ってはいるものの、自分も力尽きるのは時間の問題だとアマンダは思った。


「う……」

「シャネット、大丈夫?」

「へ、平気です、まだ、行けます!」

 シャネットの顔色が悪い。虚勢を張っているが、もう限界だろう。エリザベートと教師もメンバーの様子を気にし始めている。自分たちも撤退に移るタイミングを測っている様子だ。


 しかし、街からはまだ子供の泣き声が聞こえてきたりしている。今、この場を放り出して大丈夫だろうかと、アマンダは思った。山和と美樹みきかけるも、何やら深刻そうに話している。


「くっ、もっと力があれば……」

 アマンダは嘆いた。それは無理な話だと、アマンダ自身も分かっている。この規模の魔物相手だったら、迎撃側も大規模で迎え撃つべきであって、一人の力などで覆せるわけなどないのだから。


『力なら、そなたはもう持っている』

「えっ……!?」

 突然聞こえたその声に、アマンダは驚きの声を上げた。


「アマンダ、どうした?」

「い、いえ……」

 エリザベートが怪訝な顔をしている。すなわち、彼女には聞こえていないということだ。


『我が剣は、いつでもそなたと共にある』

「ま、まさか、その声……? でも、あなたはここにはいないはず」

『それは問題にならない。使え、我が力を。そなたになら、分かるはずだ』

「あなたの力……?」


 その声が聞こえてくると共に、アマンダの中に情報が流れてくるのが分かった。その力がどういうもので、どう使うのか。こんなことができるなんて、本当に凄いだと、アマンダは思った。


「撤退だ! これ以上の戦闘は許可できない!」

 エリザベートが叫んだ。シャネットや他の生徒が持ち場を離れ、街の方に走り出したのをアマンダは認識した。


 しかし、アマンダは同じようにしない。それどころか、一歩前に出る。


「アマンダ! どうしたんだ!?」

 ロベルトの声だ。アマンダが動こうとしないのに山和たちも気づいて声を上げる。


(大丈夫、皆。まだ、戦いは終わっていない……!)


 どうすれば良いのか、アマンダには分かっていた。教えてくれたから。その情報に従い、アマンダは右手を天高く掲げた。


「いでよ、はじまりの巨兵、ゼーデルガイナー!!」


 アマンダの右手が赤く発光し、それに合わせるようにアマンダの前の空間に巨大な赤い歪みが生じる。そして、その中から、カレンの世界の古代兵器ゼーデルガイナーが姿を現した。



    ◇◇(山和視点)



「な……、ゼーデルガイナー!?」

「まさか!?」

 俺とロベルトが叫んだ。撤退を始めていた他の生徒たちもだった。こんなの、驚くなというのは無理だ。


 ゼーデルガイナーはアマンダにひざまずき、手を差し出した。アマンダはその手に乗り、コクピットへと移動する。そして、起動した事を示すようにゼーデルガイナーの目が一瞬大きく光り、立ち上がった。


「ア、アマンダ、まさか、呼び寄せたのか……?」

「ゼーデルガイナー、世界を転移できるの!?」

 俺と美樹が言った。見れば、美樹は啞然とした顔をしている。きっと俺もなのだろう。


 ふと、俺たちの前にホログラムのような空間ディスプレイが浮かび上がった。そこにはアマンダの姿が映っている。


「うぉっ! こんなことまで……!?」

「ヤマト、皆! あのデカブツ4体を引き受ける。引き続き、小型の魔物を撃退して」

 ホログラムの中のアマンダが言った。


「アマンダ、勝てるのかね……?」

「ゼーデルガイナーは、あの程度の相手には負けないと言っています」

 エリザベートの言葉にアマンダが返答した。エリザベートは少し考えた後、決断を下した。


「撤退中止、迎撃に移行する」

「「「は、はい!!」」」

 生徒たちが再び持ち場につく。


「エリザベート、大丈夫なのか?」

「このグループは、あの異世界の兵器を使って大いなる闇を倒そうとしていたのですよ? その前座で手こずっている場合では無いではありませんか」

 教師とエリザベートが言った。


 ゼーデルガイナーは俺たちに背を向け、魔物たちの方を向いた。そして、背中のブースターが点火し、ボス4体に向けて大ジャンプをする。


「す……凄ぇ……!!」

 俺は思わず興奮してしまった。ピンチに颯爽と登場したいにしえの巨大ロボット! 絶望を振りまいていたボス4体を大きく上回る圧倒的な威圧感! まさに反撃開始という状況だ! これで燃えないわけがない!


 ゼーデルガイナーは巨大ゾンビの前に着地すると、空間を切り裂き、中から巨大な剣を取り出した。そして、巨大ゾンビを一刀両断にした。巨大ゾンビは爆散して闇の瘴気に返っていく。


「い、一撃……!?」

「おいおいおい!!」

 ロベルトと翔が呟いた。ゼーデルガイナーはなおも他の3体のボスに向き合う。それは異能研究グループの士気を大きく向上させた。皆、口々に『勝てる』『行ける』と叫んでいる。小型の魔物の迎撃が熱を帯びていった。


「うわぁ……。やっちゃえ、アマンダっ!!」

 美樹が興奮した様子で叫んだ。ゼーデルガイナーの力を乙女ゲーム『混沌のホーリーナイト』を介してよく知っている美樹だ。ラスボス機が味方になっている状況にも心が動かされているのだろう。


「アマンダ、頑張れ!!」

 カレンも声を上げる。


 ゼーデルガイナーが剣から左手を離し、巨大霊体レイスに向ける。そして赤い光線がほとばしり、レイスを倒した。これも一撃だった。


「ベラ、シャネット、行ける?」

 ベラとシャネットとロベルトの前にホログラムが生じ、アマンダが語りかける。三人はその言葉を理解したようで、魔力増幅を始めた。


 ゼーデルガイナーは、飛びかかってきた巨大ウェアウルフを思い切り蹴り上げた。その巨体が空高く舞い、そこにベラとシャネットの特大魔法が炸裂する。撃破には至らなかったが、大ダメージは与えることができたようだ。


 地面に落ちた巨大ウェアウルフは動くことができず、ゼーデルガイナーはそこを斬りつけ、ウェアウルフも撃退した。


 最後のドラゴンとの戦いは長期戦となった。流石に、大いなる闇復活前の最強の敵なだけはある。ドラゴンの吐く炎を、ゼーデルガイナーは魔法のシールドで防ぐ。ゼーデルガイナーは剣戟や魔法でドラゴンを攻撃する。


 しかし、最後にはゼーデルガイナーの斬撃がドラゴンを屠り、爆散して闇の瘴気に返っていった。

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