34 実地研修での魔物退治
実地研修2日目。
生徒たちは武器や魔導具の準備をする。依頼の魔物と戦うので、昨日までのお遊びムードは全く無かった。俺と
ミーティングで作戦を確認し、全員で魔物の出没場所に移動する。簡単な拠点を組み立て、そこを中心に魔物退治は始まった。
複数の班を形成し、森に向かって魔物を迎え撃つ準備をした。
「では、始めるぞ」
教師がそう言い、魔物をおびき寄せるための魔導具を発動させた。森の方に光が放たれる。やがて、魔物たちが拠点めがけて森から出てくるのが確認できた。剣を持った人型の魔物ゴブリンや、狼の魔物ウェアウルフ、蛇の魔物ヘルスネーク等が大量にこちらに向かってくる。
「本命はまだ釣れないか」
「迎撃!」
各班から魔法が放たれ、魔物たちを撃退した。
俺たちが転移している間に随分と訓練が進んでいたようで、特に、シャネットとベラの二人が素晴らしいコンビネーションで次々と魔物を撃退していった。アマンダは力を温存しつつ、周りにも気を配いながら戦っている。
「きゃあっ!」
「リオノーラ!?」
ゴブリンに懐まで潜り込まれ、リオノーラが体当たりで転倒させられてしまった。しかし、すぐに男子生徒のマックスがカバーに入り、そのゴブリンを倒した。
時たま防衛戦を破ってくる魔物がいたが、俺や翔もショットガンで応戦した。それで転倒した魔物にカレンが触れて倒す場面もあった。
その時、森から一匹の魔物が凄い速さで飛んできた。
「あっ!?」
接触したメアリーが転倒する。
「本命が近いぞ!」
どうやら、その魔物は、ターゲットの魔物に投擲されたようだった。
「ぐっ……、このぉ……!!」
メアリーに衝突した魔物は蛇の魔物ヘルスネークで、そのままメアリーに巻きつこうとする。
「メアリー!?」
翔と数人の生徒が、それをほどこうとメアリーに駆け寄った。
「カバーだ!」
エリザベートが叫んだ。何人かの手が止まっているため、その分カバーしないといけない。
すると、またヘルスネークが投擲されてきて、メアリーを助けようとしていた生徒たちに衝突し、メアリーから引き剥がされてしまった。そのスキを付かれ、メアリーを襲っていたヘルスネークがメアリーに巻きつく。
「ぅあああ……あああ……!?」
メアリーはヘルスネークに締め上げられているようで、悲鳴を上げた。
「くそっ、放しやがれこの野郎!」
翔がメアリーに巻き付いているヘルスネークを掴み、引き剥がそうとしている。
また、投擲されたもう一体のヘルスネークは、吹っ飛ばした男子生徒と女子生徒を合わせ込むように巻き付いており、さらに別の男子生徒が引き剥がそうと抵抗している。
「ぐあっ……!?」
不意に翔が悲鳴を上げた。どうやらヘルスネークが電撃を放出したようだ。
「ぁあああああああ……!!」
締め上げと電撃の両方を喰らっているメアリーは絶叫した。もう一体のヘルスネークも同じ状態になっており、巻き付かれている男子生徒と女子生徒の悲鳴も響いた。
「う、まずい!」
俺は思わず呟いた。
「カレン、頼めるか!」
「はい!!」
エリザベートの声にカレンが答えた。
「ヤマト、ミキ、一緒に来て!」
「!!」
カレンの声に反応し、俺と美樹はカレンと共にメアリーたちの元に駆けた。男子生徒と女子生徒がヘルスネークに襲われている場所の方が近く、先に辿り着いた。カレンは迷わずヘルスネークを素手で掴んだ。
魔力の吸収が始まり、ヘルスネークは驚いたようで暴れ始めた。男子生徒と女子生徒を解放し、今度はカレンを攻撃しようとする。カレンに触れても大丈夫な俺と美樹が援護に入り、三人でヘルスネークを地面に押さえ付けた。ヘルスネークは魔力を吸われて瞬く間に弱り、爆散して闇の瘴気に変わった。
俺と美樹とカレンはすぐに、尚も悲鳴を上げ続けているメアリーの元に急ぎ、同じようにヘルスネークを倒した。翔がすぐにメアリーを介抱し始める。さらに数人の生徒が集まり、ヘルスネークに攻撃されていた男子生徒と女子生徒の介抱も行う。
しかし、ヘルスネークの投擲も依然続いていた。相性の良いカレンと、カレンを手助けできる俺と美樹と翔で何とかするしかなかった。ロベルトは役目があるからここに呼ぶわけにはいかない。
ゴブリンやウェアウルフが投擲されるケースもあったが、その場合は周りの生徒たちに任せ、俺たちはヘルスネークに集中した。
「ぅぅう……、行けます……」
「メアリー、無理するな!」
「だ、大丈夫です……!」
メアリーは翔の静止を振り切り、武器を取って立ち上がった。介抱されていた男子生徒と女子生徒もだった。
しかし、三人が戻ってくれたことで戦況は持ち直し、投擲される魔物の対処も楽になった。
しばらく、投擲される魔物を撃退していると、森に大きな影が見えた。
「さあ、本命の登場だぞ!」
エリザベートが言った。森から巨大な魔物、イビルゴーレムが姿を現した。戦況が動かないことで痺れを切らしたのかもしれない。
「お、大きい!」
「ゲーム通りの相手だな!」
美樹と俺が言った。
「ロベルト、やるよ!」
「ああ!」
ロベルトがアマンダの元に走った。このグループの最大火力で一気にカタを付けるのだ。シャネットも一緒に魔力増幅を受けている。
増幅が終わるまでは他のメンバーでカバーした。そして、アマンダとシャネットから同時に極大の魔法が放たれ、イビルゴーレムはあっさりと爆散して闇の瘴気に返った。それを見た小型の魔物は逃げ去っていった。
生徒たちから歓声が上がる。
「良かった~」
「訓練の成果だな!」
あちこちで労いの言葉が上がる。
ヘルスネークにやられた三人は流石に精根尽き果てたという様子で座り込んでいた。
「
「美樹ちゃん」
俺は美樹と軽く手をタッチし合った。
「ボスが出てきてからは、あっけなかったね」
「そうだな。アマンダとシャネット、流石だよ」
訓練の中、ベラもかなりの魔力を示していたから、アマンダとシャネットで倒しきれていなかったらベラの出番もあったかもしれない。
「うーむ、しかし、上手く行き過ぎだ。こういう時こそ、落とし穴があったりするものだが……」
エリザベートが言った。不吉な事を言わないでほしいぜ……。
◇
宿に戻ると、依頼を出した街の人々に喝采を浴び、夕食は大宴会と化した。皆、浮かれ、はしゃいでいた。だからこそ、この後に待ち受けていた出来事に、大きなショックを受けることになった。
◇
翌朝。
俺は、街に響いていた警報で目が覚めた。
「な、何だ、一体!?」
「外に出てみよう!」
俺はロベルトと翔と共に部屋を飛び出し、宿の外に出た。
「げっ! 何だあれ!?」
ロベルトが叫んだ。
森から4体、巨大な魔物が街を目指して進んでいた。ドラゴン、巨大ゾンビ、巨大ウェアウルフ、
「何事だ!?」
「えっ、ボスクラスの魔物が4体も!?」
俺たちと同じく飛び出してきた生徒たちが叫んだ。
「山和くん、あれは……?」
「くっ、これはゲームと違うよ。あれ、ゲームだと今後、個別に戦う奴らだ。全部同時に来やがった!」
急遽、食堂でミーティングとなった。敵戦力を測定すると、異能研究グループだけでの殲滅は厳しいという結論だった。
「じゃあ、どうするんですか!?」
「撤退しかあるまい」
「この街の人を置いて……!?」
「いや、避難誘導だ。時間との戦いになる。街の人には、私財を捨てて逃げてもらうしかないだろう」
「そ、そんな……」
教師やエリザベートが冷酷な判断を下す。昨日まで楽しんでいた場所、一緒に騒いだ人たちに、住む場所を捨てさせるのは、心苦しいことだ。
しかし、戦力分析は妥当だと思う。ゲームでも、今後戦う魔物は段階的に強くなっていたし、あのドラゴンは、大いなる闇の前に出てくる最強のボスだった。今戦えば、他の3体がいなかったとしても勝てないかもしれないのだ。
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