33 活発化する魔物

 転移した先は、『時空の果てに響く旋律』の世界だった。もう慣れたもので、俺たちはそのまま魔法学校の寮に向かった。早速寮長と話をし、カレンのための部屋を準備してもらう。


「あ、かける!」

美樹みき!」

 再会した双子が腕をぶつけ合った。本当に仲の良い兄妹だ。


 午前中はアマンダとロベルトは授業に出た。学校側も転移の事情は知っていたので、臨機応変に対応してくれたらしい。その間、俺と美樹と翔はカレンを連れて街の案内をした。


 午後は異能研究グループに合流し、カレンの紹介を行った。ロベルトとカレンが出来ている事はあっという間に伝わり、グループ員に囃し立てられる場面もあった。


「それで、私たちが異世界に行ってる間、何かあった?」

 アマンダがグループに聞いた。


「私から説明しよう」

 エリザベートが黒板の前に立ち、話し始めた。世界の魔物がさらに活発化しているという。生徒たちも、それを不安がっているようだった。恐らく、大いなる闇の復活が近付いているのだ。


「アマンダ、もう皆にも全部説明する時じゃないか?」

「そうね」

 今度はアマンダが教室の前に立ち、予言者クリストファーが作った未来の可能性の物語のことを話した。大いなる闇は近々復活するが、カレンの世界の古代兵器ゼーデルガイナーを中心に打倒することを考えている、と。


「アマンダ先輩、その古代兵器をどうやってこの世界に?」

「ヤマトが武器を持って来てるでしょ? だから同じように、次にカレンの世界に行ったら、私がなるべくゼーデルガイナーの側にいて、一緒に転移できるようにすれば良いかと思ってる」

 シャネットとアマンダが言った。


「大変な事になってきましたわね」

「大いなる闇、復活するの……?」

 リオノーラとベラが不安そうに呟いた。


「でも、過信は良くないと思う。このグループはロベルトの力を明らかにしようともしてたわけだし、引き続き、皆の訓練もしよう」

「そうね。力は多くて損はないもの」

 俺と美樹も異世界人ながら意見した。皆は肯定してくれた。


「さあ、じゃあ、訓練ですかね」

「メアリー、準備手伝うぜ」

「ありがとう、カケルさん」

 翔とメアリーは二人で魔導具の準備を始めた。他の生徒たちも準備に入った。


「翔とメアリー、進展あったかな?」

「うーん、まだかな。あの様子じゃ……」

 俺と美樹は小声でそんなことを話した。美樹は残念そうだった。


「それから、これ」

「何これ? 電池とスマホの充電器?」

「この世界の魔物は、電波を嫌がる事がある。前から通じる魔物をリストアップしようという話にはなっていたんだよ」

 ようやくスマホとイヤホンの充電手段を確保できたので、できる範囲で電波が有効な魔物を調査する活動も行われることになった。


 数日、訓練と調査をしたタイミングで、エリザベートと教師が次の実地研修の案件を持ってきた。今度の魔物は危険度も低くなく、事実上、学徒動員の範囲が広がっているという事でもあった。


「ヤマト、これも未来の可能性にあった事か?」

「ああ。油断はできないが、きっと何とかなるさ」

 ロベルトの言葉に俺が答えた。ゲームだと、この頃から実地研修が連続することになる。


 ちなみに、シナリオ的には一番微妙な時期だ。主人公ロベルトが最後に誰を選んでも良いように、ヒロインたちのセリフが当たり障りの無いものばかりになってしまうからだ。もっとも、現実のアマンダたちは生の言葉を話すので、全く関係ないわけだが。



    ◇



 実地研修の初日。

 例によって、俺たちは馬車で現場に移動した。滞在先の宿で、最初のミーティングが行われる。


「まあ、固くなることもあるまい。今回の魔物はクラーケンより強力とはいえ、皆の実力で何とかなる範囲だ」

「今日は自由行動。明日、討伐に出る」

 エリザベートと教師が言った。


 ミーティングの後、生徒たちがバラバラと街に出ていった。ロベルトとカレンは二人でデートのようだ。


「あー、彼女持ちは良いねぇ」

「妬むなよ、山和やまと

 俺に翔が突っ込みを入れてきた。美樹との事情が明らかになってからというもの、俺は翔とかなり話せるようになった気がする。自分の事ながら調子の良いことだと思う。


「さて、知らない土地に来たら観光よ!」

「美味しいものでもあるかな!」

 アマンダと美樹が言った。メアリーとベラも同行している。メアリーを連れてきているのは、美樹の差し金だろうな……。


 そう思っていると、美樹が早速メアリーと翔を二人になるように仕向けた。そうなると、俺以外はアマンダ、美樹、ベラの女子チームなので、流石に男子一人だとバランスが悪い。ロベルトはまあ、カレンと一緒にいたいだろうから仕方ないが、他の男子生徒も誘うべきだったか。


 そんなことを思っていると、アマンダがベラを連れて別行動に行ってしまった。去り際、俺に対してウインクするのが見えたので、これも差し金だろう。やってくれる……。


「皆、せわしないなぁ。とりあえず行こ、美樹ちゃん」

「うん、行こう」

 美樹は嫌な顔をすることなく、ついてきてくれた。


「ひぇぇ、凄い食べ物売ってるな。あれ、蛇じゃん……」

「や、山和くん、ああいうの、好きなの……?」

「好きなわけじゃないけど、チャレンジ、してみたくない?」

「えええ……。私は遠慮しとく」

 俺は屋台でその蛇の串焼きを買ってみた。かじってみると案外美味しい。というか、俺たちの世界で言うところの蛇とは違う生き物なのだろうか。


「あら? あれはちょっと面白そう!」

 骨に肉のついた所謂マンガ肉を発見した美樹が、それをホクホク顔で買って食べ始めた。


「んー! 美味し!!」

「それは俺も興味あるなぁ」

「ちょっと食べてみる?」

「えっ!?」

 美樹が骨を持って肉を差し出してくる。そ、それ、関節キッスになりませんか、美樹さん……。


「むー、いらんこと考えてるならあげない!」

 美樹が肉を引っ込めてしまったので、必死に謝って食べさせてもらった。美樹は笑っていたが、まあ、高校生にもなってそんなことを気にするなということなのだろうか……。


 あー、クソ、でもやっぱ楽しいな! ありがとう、アマンダ!


 俺はアマンダに感謝しながら、美樹との二人の時間を楽しんだ。



 宿に戻ると、俺は自然とアマンダとロベルトと集まった。何だかんだ、俺が異世界転移をしてから、この三人で行動することは多い。


「ロベルト、上手くやってそうじゃないか」

「まあ、おかげさまで……」

「ヤマトはどうだったのよ?」

 アマンダはこの手の話を聞きたがる時のニヤニヤ顔で俺に聞いてくる。


「楽しかったよ、ありがとよ」

「それは良かった!」

「ミキも美人だからねぇ。頑張れよ、ヤマト」


 こんな調子で実地研修初日は過ぎていった。

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