30 久しぶりの日本
転移の光が収まり、俺が目を開けると、そこは俺の実家の近所だった。
「俺たちの世界か」
「そのようね」
俺と
「あれ、カレンも一緒ね」
アマンダが言った。カレンもついてきてしまったのだ。
「ふえー、ひとまず俺ん家に移動しよう」
ロベルトとアマンダだけではない。カレンも、ゲームを知っている者に見られるのは得策ではないのだ。
「ミキ?」
ロベルトが呟いた。見れば、美樹が少し躊躇しているように見える。
「ミキ、私もカレンもいるんだから、特別な意味なんて無いって。大丈夫よ」
「う、うん……」
どうやら、俺の家に上がる事を警戒してしまったようだ。それは結構切ない。そうだ、彼女がフリーだと言っても、俺と美樹は恋人でも何でもないのだから……。
道中、アマンダは俺の肩を叩いてきた。
「めげるなヤマト。これから、これから!」
「うっさい……」
アマンダの言葉に俺は悪態で返した。
家には両親共にいなかった。全員を居間に上げ、冷蔵庫にあった飲み物を振る舞った。
「ここがミキとヤマトの世界……」
「そう。カレンにはどう映るかな?」
「違い過ぎて、何とも言えないよ」
「魔法の世界ではないからね」
少しだけ雑談すると、俺はラザードに電話した。すぐにラザード精神クリニックに行く事になった。
「タクシー使おう。金は出してくれるってさ」
タクシーでラザード精神クリニックに移動すると、ラザードは俺たちを地下施設に案内した。
「三つの世界が相互に絡んだのか」
ラザードがホワイトボードに状況を書きながら言った。
「アマンダが、カレンの世界の古代兵器のパイロットになりました」
「それが、大いなる闇を倒す切り札になると思っています」
俺と美樹が言った。
「ふむ。そうだな、話を聞く限り、それが一番の策だろう」
「この世界からも、出せる軍とかないんですか?」
「可能性はある。軍とまではいかないが我々の組織も武器は所持しているからな。例えば、あそこにいるケビンのような者が転移者に選ばれる事があれば、だね」
ケビンはサムズアップをしながらこちらを見ている。
「しかし、その可能性は低い。誰が転移するのか、それを観測する
ラザードは俺と美樹を示しながら言った。
「君たちが転移している間に、重要人物を探し出した。先ほど連絡したら、今夜会ってくれるとのことだ」
「重要人物?」
「お客人たちの物語を作ったスタッフだよ」
「え?」
「名前を変えていたようだが、両作品のスタッフの中に同一人物がいた。話を聞きに行こう」
「そ、そんなことが……!?」
そうか、未来の可能性を二つの物語に仕込んだ張本人! きっと何かを知っているに違いない!
「今日は訓練はしないで良い。
ラザードが言った。
俺はそのまま美樹と話した。
「と、言われても、どうしよう」
「皆を連れてこの世界の案内でもしてみようか」
「とはいえ、目立つのもなぁ。俺たちが向こうの世界に行くのと違って、ここには彼らの事を知ってる人もいるから」
「じゃあ、映画なんてどう?」
映画か、良いのではないだろうか。俺たちはロベルト、アマンダ、カレンにその提案をしてみた。
「あら、面白そうじゃない!」
「要は演劇みたいなものか」
「ぜひ行きたい!」
アマンダ、ロベルト、カレンが順に言った。皆、興味があるようだ。
「私、『呼び出されたモノ』を観たかったんだよね。評判良いから」
「あー、それ、俺がこないだ観た奴だ」
美樹と俺が言った。そのタイトルは、異世界転移が始まった日に俺がクラスメイトたちと観た映画だったのだ。
「え? じゃあ、ダメかぁ」
「その映画だったら、昨日から完全版が公開されているよ。どうせならそれを観てきたらどうだね?」
美樹の言葉に続き、ラザードが情報をくれた。
スマホで調べてみると、なるほど、11分のシーンを追加した特別編のようだ。まだ公開中の映画にそんなバージョンが用意されるとは、本当に評判を呼んだんだな、この映画。
「そういう事なら行こう! 俺も完全版、観てみたい」
かくして、俺たちは異世界の友人を連れて映画を観に行くことにした。ロベルト、アマンダ、カレンの変装は、ラザードが用意してくれた。
全員で映画館に向かい、上映開始までをカフェで過ごす。皆、日本のカフェを気に入ってくれた。
劇場に入ると、俺はロベルトとカレンが隣の席になるように誘導した。アマンダと美樹も同じ考えだったように感じる。最近、ロベルトとカレンはよく二人で楽しそうに話しているし、結構良い感じなのではないか。
予告が終わると、本編が始まった。さあ、異世界の皆は、このアメリカのSFホラーをどう受け止めるのだろうか……!
この映画『呼び出されたモノ』は、火星開拓が進んでいる世界を描いたものだ。ある日、アメリカの火星第3基地の地下に遺跡が発見され、大騒ぎになる。考古学者の主人公とその夫が出向き、その調査を始める。
その遺跡の文字は、地球に存在する文字と酷似しており、主人公がそれを読み上げてしまう。すると、その場にあった古の機械が動き出し、宇宙の果てと時空が繋がってしまうのだ。そして、惨劇が始まる。
第3基地が、未知の怪物に襲われるのだ。怪物は、生き物に寄生し、やがて乗っ取ってしまう。生き物を乗っ取った怪物は、細胞レベルで変形することができ、犠牲者の人間がグロテスクな形状に変形するシーンはかなり衝撃的だ。
美樹やカレンは悲鳴を上げていたし、チラッとアマンダを見ると、アマンダも緊張しているようで両腕を組んでスクリーンに見入っていた。
終盤、この怪物を地球に行かせるわけにはいかない主人公たちは自爆を図るも、怪物のリーダーを倒し損ねる。さらに、主人公の夫が寄生針で刺されてしまう。万事休す、バッドエンドを感じさせるその雰囲気の中、主人公は古代語で、ある言葉を発する。
「XXXXX(我々の、負けだ)」
その言葉に反応し、突然、主人公の夫が怪物を投げ飛ばす。さらに、筋骨隆々の体躯に変貌し、身体をSF的なバトルスーツが覆っていく。
そう、映画序盤の時空接続は、怪物を呼び寄せてしまったのではなく、ここで正体を現したこの戦闘狂の宇宙人を呼び出していたのだ。宇宙人はいつの間にか主人公の夫になりすましていた。宇宙人は、怪物を戦うに値する相手と認識していたが、地球人に倒されるならそれまでと、動向を観察していた。
宇宙人は身体的強さも兼ね備えており、怪物の寄生をも受け付けず、圧倒的な力とバトルスーツの兵装で怪物を攻撃する。
このミスリードを活かしたドンデン返し! 終始、おどろおどろしいホラーだった雰囲気が、ラストで爽快アクションへと変貌する! 初見の時も、この魅せ方の上手さに俺は感心したものだった。
宇宙人は怪物を倒し、なり代わるために拉致していた主人公の夫を返す。そして、『地球人はまだ我々が戦うに値しない』という言葉を残し、自分の世界に帰っていく。主人公は、地球の文明がさらに発展し、いつか彼らと戦う日が来るかもしれない未来を夢想し、映画は幕を閉じる。
完全版は、エンドロールの後にも追加があり、『Dark Hunter will return』という文字が表示された。ダークハンターというのはあの宇宙人の仮名だったはず。早くもあのキャラクターが出てくる新しい映画の制作が決まったということだ。登場時間はほんの僅かだったにも関わらず、その存在はSF映画ファンのハートを鷲掴みにしてしまったのだろう。
「へぇぇ、なるほどねぇ……! ミスリード上手いわ!」
「でしょ! ジャンルがどうというより、魅せ方が凄いんだよ!」
美樹と俺は物語を作る方に立つ身でもあるので、同じような感想だ。劇場を出ても、しばらく語り合っていた。
「手汗が凄いよ……! カレン、大丈夫だった?」
「途中で手袋脱いじゃった。ほら……」
カレンは汗まみれの手をロベルトに見せ、二人はそのまま笑い合っていた。
「はあ、怖かったけど燃えた……! でも凄いね、映画って。この世界は進んでるわ……」
アマンダはそんなことを言っていた。何にしても、皆が楽しんでくれたようで良かった。
「おい、少年たち、そろそろ時間だぜ」
「え? あ、ケビン?」
「あれ、来てたんですね……?」
ラザードと一緒に施設に残ってたのかと思ったら、ケビン、俺たちについてきていたのか。それにしても流石は元軍人。全く気配を感じなかった……。
「確かに、ちょうどいい時間だな。移動しよっか?」
「そうね。会いに行きましょう、物語の作り手に」
今見た映画ほどの魅せ方ができる作り手ではないようだが、別の意味で重要な人物に会いに行く。その人がギャルゲー『時空の果てに響く旋律』と乙女ゲーム『混沌のホーリーナイト』に未来の可能性を込めた謎を解くために。
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