29 頭を切り替えよう

 古代兵器ゼーデルガイナーを起動させてしまったアマンダは、大勢から調査を受ける事になった。ゼーデルガイナーはアマンダの意志でコクピットを開くようで、アマンダは苦もなくゼーデルガイナーを歩かせたりすることができた。しかし、他の者が乗ることはできない。アマンダの命令で開いたコクピットに入ろうとすると、不思議な力で弾かれてしまうのだ。


「一大事ではありませぬか、レスリー様」

「そうですね。まさか異世界からの来訪者がゼーデルガイナーの起動者に選ばれるとは。兄上が聞いたらどんな顔をするか……」

 騎士団の重鎮らしき人とレスリーが言った。レスリーの兄、第一王子は、ルートによってはゼーデルガイナーの力を利用して隣国に攻め込もうとするような野心家だ。報告するとなると頭が痛いのだろう。


「アマンダ、凄いな……。まさか、これほどの器だとは……」

「本当ね。凄い人と知り合えたものだわ……」

 メルビンとカレンが言った。若干、アマンダに対抗意識を持っていたメルビンは、今回の事に関しては脱帽のようだ。


「で、どうしよう、山和やまとくん……?」

「と言われても、もうこの先どうなるかなんて、ゲームのこと知ってても分からないよ……」

「そうよね。でもほら、あれ見てよ」

 美樹みきに促され、俺はマティアスの方を見た。マティアスは座り込み、頭を抱えている。全ての計画がひっくり返ってしまったのだ。もう取り繕う理由も無くなってしまったのだろう。


「起動者はもう選ばれてしまったから、マティアスが問題を起こす事は無くなったのかな。あれ、じゃあ、もしかしてこれでバッドエンド回避?」

「あ、そっか。確かに、もうカレンが狙われる理由も無いよね」


 この世界のバッドエンドは、マティアスがカレンの異能で人々の魔力を集め、魔力の集合体を擬似人格としてゼーデルガイナーの起動者としてしまうことでもたらされるはずだった。しかし、少なくとも、それはもう起こらないのだ。


「でも、そうだとしたらこの世界ともお別れか?」

「だとしたら、皆にお別れ言わないと」

 俺と美樹が言った。すると、ようやく解放されたアマンダが俺たちの元へやってきた。


「ふぅぅ、大変な事になっちゃったわね」

「アマンダ、お疲れ」

 ロベルトが反応し、アマンダと拳をぶつけ合う。俺も含めた三人でよくやっていることだったので、俺も二人に拳をぶつけに行った。


「アマンダ、本当に凄いんだな」

「少しは見直したか、少年?」

「ああ! やばいよ、君は! 潜在魔力も飛び抜けて高いってことだろ!?」

 メルビンはアマンダの起こした出来事に誰よりも興奮していた。アマンダはそれに苦笑しながら、手袋をしたカレンとハイタッチをする。


「さて、ヤマト、ミキ」

「もう、アマンダ、本当に予想外の事をしでかすわね……」

「まあ、これはビックリしたよね。でも、この兵器ってさ」

「ん?」

「大いなる闇への切り札になり得るんじゃない?」


 アマンダのその言葉に、俺は沈黙した。理解が追いつかなかったのだ。


「あっ!?」

 頭が動き出し、俺は叫んだ。横から美樹に服を掴まれ、興奮した様子の美樹も声を上げた。


「そうじゃん! その通りだよ!!」

 美樹が叫んだ後、二人でアマンダに向き直った。


「やるじゃないか、アマンダ!」

「よくやったよ、アマンダ!」

 俺と美樹は興奮してアマンダの手を取る。現金なものだと思う。さっきまで、『混沌のホーリーナイト』の世界への多大なる影響に落ち込んでいたというのに……。


 もしかすると、俺たちがこの世界に転移した意味は、この世界を救うことではなく、この世界の力を借りるためだったのだろうか。


「とすると、次の問題は、ゼーデルガイナーをアマンダたちの世界に転移させることができるのかどうか、かな?」

「でも、レスリー様とかに事情を説明せずに持ってっちゃうのも気が引けるよ」

「そうね……」

 俺、アマンダ、美樹が順に言った。


「終わりだ……。私の計画が……」

「マティアス、どうした? 見学会は終了だ、帰るぞ。起動者については、おいおい考えれば良いんじゃねえの?」

 ネガティブなオーラが可視化できそうな雰囲気のマティアスがウォルトに連れていかれる。悪人にならずに済んだのだから、やり直すチャンスでもあるのではないだろうか。


「ゼーデルガイナーが動くところを見られるとは。人生、何が起こるか分からないね」

 クェンティンがアマンダのところに来て言った。


「まあ、君たちはいつ転移してしまうか分からないから何とも言えないが、私も魔導ロボットのパイロットだ。ゼーデルガイナーと共に戦う日が来る事を楽しみに待っているよ」

 そう言うと、クェンティンは引き上げていった。


「さて、皆さん。屋敷までお送りしますが、今後の事をご相談したい。私も伺いますね」

 レスリーが言った。そのまま、俺たちはレスリーの誘導で拠点の屋敷に向かった。



    ◇



 屋敷に戻り、全員で広間に移動する。


「さて、アマンダがゼーデルガイナーの操縦者に選ばれてしまったわけですが、それもゼーデルガイナーの意志です。ですから、それについて、とやかく言う気はありません」

 レスリーが言った。


「しかし、異世界人が起動者になるというのは、何かの運命に導かれている気もしますね」

「僕もそう思うよ、姉さん。皆が転移してきてから、僕たちの運命も大きく変わったわけだし……」

 カレンとメルビンが言った。


 ふと、アマンダが立ち上がった。


「ヤマト、ミキ。さっきの話、ここの皆にも伝えるべきだと思う。いいよね?」

「アマンダ……。ああ、そうだな!」

「何から話そうか……」

 アマンダに続き、俺と美樹も立ち上がった。


 俺と美樹は、未来の可能性の物語に触れたことを説明した。そして、もう一つの世界で近いうちに復活する大いなる闇に敗北すると世界が滅亡してしまうので、それを阻止するためにゼーデルガイナーの力を借りたいという願いを。


 但し、ロベルトの色恋の話は伏せた。それはもう意味のない事だし、ロベルトとカレンとの関係に余計な物だと考えたからだ。


「世界が滅亡するって、アマンダたちの世界だけでなく、ここも含んで全部ってことか……?」

「そうだ、メルビン。俺たちの世界もそうなる。だから、絶対に大いなる闇がビッグクランチを起こすのを阻止しないといけない」

「ヤマトたち、そんな大問題を抱えていたのね……」

 メルビンとカレンは真剣な顔をして聞いてくれた。


「なるほど。ヤマトがロベルトたちの世界、ミキがこの世界に転移し、やがて転移は三つの世界を巻き込んで複雑に絡み合った。そして、ゼーデルガイナーの起動。確かに、何か滅びを拒まんとする世界の意志を感じます」

 レスリーが言った。


「それにしても、ヤマトもアマンダもミキも、そんな重要なこと、俺にも言ってくれれば良かったのに」

「すまないロベルト。事情があってお前には話していなかったんだ」

「ロベルトが知ってしまうと、未来の可能性に影響しかねない事情があったのよ。でも、それはもう払拭された」

 アマンダは、不要な情報をロベルトとカレンに隠しつつ、上手く説明してくれた。流石だ、このは頭も回るのだ。


「そっか、分かった。何にせよ、知ったからには俺も協力するよ」

「ありがとう。きっとロベルトの異能も重要になるわ」

 ロベルトと美樹が言った。


「私は皆さんを信じます。事情が事情ゆえ、ゼーデルガイナーだけでなく、我が騎士団も動けるように準備しておきましょう」

「えっ! あ、ありがとうございます!」

 思わぬレスリーの申し出に、俺は感謝を示した。


「ですが、転移できる者は限られています……」

「分かっています。ですが、転移者は増えているでしょう? 世界が、存続のために誰かを選んでいるというのなら、我が騎士団からもさらに選ばれる可能性はある。その時のための準備をしておく、という事です」

「な、なるほど、流石ですね……」

 レスリーの考察に、美樹が感嘆の声を上げた。


 だとしたら、俺たちも、自衛隊あたりに手を回しておくべきなのだろうか……。


「むっ!?」

「あっ!?」

 不意にロベルトとアマンダが叫んだ。俺も転移の光にすぐ気がついた。


「転移ですね! 皆さん、今話し合った通りに行動しましょう!」

 レスリーが全員への確認を念押しし、それを聞いたタイミングで転移の光がほとばしった。

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