28 選ばれし者

 アマンダはマティアスから流れる魔力の流れを追った。行き先は、ゼーデルガイナーの立っている位置からさらに地下。そこに何らかの魔法が発動している。マティアスを介して、カレンに対して何らかのテストをしているのだろうかと、アマンダは思った。


(直接、魔力の到達点を調べないと、詳しい事は分からない、か)

 アマンダはゼーデルガイナーの手前から地面を見てそう思った。


 周囲では新入騎士団員だけでなく、来賓たちもゼーデルガイナーを興味津々で見ている。


(うん、確かに凄い力を感じるわ。神話の時代の超兵器、か……)

 アマンダもゼーデルガイナーを見た。


『汝に問う』

「えっ!?」

 不意に聞こえたその声に、アマンダは驚いて辺りを見回す。誰も反応していない。アマンダにしか聞こえなかったのだろうか。


『これを解け』

 再び聞こえたその声に続き、アマンダの目の前に魔力の塊が出現した。複数の魔力が絡まって出来ているようだった。どうやらアマンダ以外には見えてすらいない。


「解けって、ほどけば良いの?」

 アマンダは両手に魔力を帯びさせ、その塊を触って操作し、複雑に絡まっていた魔力をほどいた。


『汝の知恵を認めよう。次に汝の魔法技能を問う』

 すると、今度はアマンダの目の前に魔法の炎が出現した。


「消せば良いのかしら?」

 アマンダは風魔法と水魔法の合わせ技で、最小限の魔力消費でそれを消してみせた。すると、電撃の塊、水の塊、土の塊、と次々と魔法で作られたものが出現したが、アマンダはさっさとそれらを消し去った。


『汝の技能を認めよう。最後に問う。強大な力を、汝は何の目的で振るう?』

「強大な力? そんなものがあるなら、私の世界の大いなる闇を払うために使う」


 魔物の大発生の原因となっているアマンダの世界の宿命、大いなる闇。山和やまとたちの情報によれば、この夏にそれが復活してしまうという。力が手に入るのなら、それを倒すために使う。それがアマンダの答えだった。


『汝を我が主として認めよう。これより、我が剣はそなたと共に』

「え?」



    ◇◇(山和視点)



 俺と美樹みきはマティアスへの警戒を解かないまま、カレンたちに合流した。


「君たちはヤマトとミキだったね。異世界人から見てどうだ、ゼーデルガイナーは?」

 マティアスは俺たちに話しかけてきた。


「迫力が凄いです」

「そうですね。この力を手にした者は何でも出来てしまうのでしょう。それこそ、ことだって」

「くっくっく、怖いことを言う。あくまで兵器は抑止のためにあるべきものだよ」

 俺と美樹の言葉に、マティアスは白々しく返してきた。美樹の発言もかなり皮肉の効いたものだったと思うが、マティアスは真意を見せなかった。


「もし、僕が起動者に選ばれてたら出世も早かったのかな」

「メルビンったら、そんなことを考えてたの?」

「この手の古代兵器は、その手の願いには反応しなさそうだけどね」

 メルビン、カレン、ロベルトが順に言った。


 ロベルトの言う通りなのだろう、それこそ本来マティアスなどを起動者に選ぶ事など無いはずだ。それでもマティアスの陰謀でゼーデルガイナーが起動してしまうのは、抜け道を見つけられた結果ということか。


 そんなことを思っていると、突如地面が揺れた。


「な、何!?」

「地震か!」

 俺たちは思わず姿勢を低くした。周りの者たちも皆同じだった。


 しかし、地震にしては揺れが継続していない。地響きのような揺れが3回ほど響いた。そして、俺は気づいた。


 ゼーデルガイナーが前進したのだ。そして、片膝を地面につき、それが4回目の地響きを起こした。


「なに!?」

「ゼーデルガイナーが!!」

「まさか!?」

 そこにいた誰もが声を上げた。それはそうだ。動くはずのない古代兵器が突如動き始めたのだから。


「み、美樹ちゃん、これは!?」

「知らない知らない! こんなの、ぜんっぜんゲームと違う!」

 俺の言葉に美樹が叫んだ。


 俺は改めてゼーデルガイナーを見ると、その古代兵器がひざまずいた先には、一人の少女が立っていた。それが誰なのか、俺たちが見間違うはずもない。


「ア、アマンダ……?」

 俺は思わず口にした。


「え?」

 アマンダはこちらを振り返って言った。


 しばしの沈黙が訪れる。大広間にいる誰も言葉を発しようとしなかった。


 しかし、やがてフリーズした頭が動き出すかのごとく、声が上がる。


「え?」

 レスリーが言い、俺たちを見た。


「「「え?」」」

 俺と美樹とロベルトの声が揃った。


「は?」

 今度はマティアスが呆気にとられた様子で呟いた。


「「え?」」

 カレンとメルビン姉弟の声が揃う。


「「「ええええーーーー!?」」」

 そして、叫び声は大広間にいた者たち全員に伝搬していった。


 俺はアマンダから目を離せなかった。アマンダは両手をひらひらさせて、訳が分からないという表情をしている。


「はぁぁぁぁああ!?」

 脳が動き出した俺は思わず叫んだ。既に大広間中が大騒ぎになっていたから、その声はちっとも目立っていなかった。


 何が起こったのかは、眼前の光景の通りだ。


 あ、あのギャルゲー第一ヒロイン……、乙女ゲームのラスボス機を、起動しやがった……!!


 全く予想だにしなかったその展開に、俺は尻もちをついた。美樹も何やら疲れ果てた様子で俺の隣で座り込んだ。ゲーム『混沌のホーリーナイト』の世界は、タイトルの通り混沌としてきた。こんなイレギュラーが起こっては、ゲームの知識など、もう先読みには全く使えない。俺は、お手上げしたい気分だった。

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