27 乙女ゲームのラスボス機

 魔導ロボットの公開演習を見た翌日。


 食堂で朝食を取っていると、朝からレスリーが訪問してきた。


「皆さんに、古代兵器の魔導ロボット、ゼーデルガイナーを見て頂こうかと思っています」

 レスリーが俺たちに向けて言った。


 それこそが、乙女ゲーム『混沌のホーリーナイト』のラスボス機だ。美樹みきによると、ゲームでもラスボス機を見学する機会はある。マティアスの差し金らしい。カレンの異能を使ってラスボス機の起動に繋げられるかどうか、密かにチェックするのだそうだ。


「ゼーデルガイナーは、操縦者を自ら選びます。しかし、記録が残っている内では選ばれた者はいません。だから、現在はこの国の騎士団を鼓舞する象徴としての意味しかありません。実際、見学は騎士団の新人の歓迎会のようなものです。今回は、メルビンを含む新人たちのための会ですが、皆さんもぜひ来てください」

 マティアスの真の目的を知る由もないレスリーはそんなことを言った。


 食後、レスリーは帰っていった。俺とアマンダと美樹は、部屋に集まってラスボス機見学会の相談をした。


「マティアスの目的でカレンが呼ばれるのは、その可能性の物語で示されていたんだよね?」

「そう。マティアスは密かにテストをするの。カレンの異能で集めた魔力の集合体が使えるかどうか」

「それで使えると判断されて、その後カレンが拉致される、って流れか。魔力の集合体が完成したらそのゼーデルガイナーって兵器が起動しちゃうんだろ?」

 アマンダ、美樹、俺が順に言った。


 カレンの安全を考えると、拒否した方が良いのかもしれない。しかし、それで良いのだろうか。


「どうしよう?」

「行くべき、じゃない? 少なくとも、そのゼーデルガイナーってのは確認すべきよ」

「そうだなぁ。この機会を回避しても、どうせマティアスはカレンに近寄ってくるだろうしな」

 美樹、アマンダ、俺が順に言った。俺たちは見学会に参加することにした。


 未だ、この世界で成すべきことが分からない。一方、『時空の果てに響く旋律』の世界で復活する大いなる闇を倒す手段は失われたままだ。そちらに注力するためにも、この世界の問題を早く把握し、解決しなければならない。俺はそんな想いだった。


 部屋を出ると、食堂前の長椅子でロベルトとカレンが談笑していた。


「ロベルトがあんなに積極的になるなんてなぁ。どうしてカレンだったんだろ」

「そこに理由を求める必要は無いんじゃない? というか、メルビンはどう思うのかな」

「お姉ちゃんっ子だからね、あいつは」


 そういえば、ゲームではメルビンも攻略対象の一人だったはずだ。だったら彼もロベルトのライバルになり得るのか? 確か、実の姉弟ではないと判明する話だったと思うけど……。


「なぁ、アマンダ。カレンとメルビンの魂の在り方も似てるの?」

「似てる似てる。まごうことなき姉弟よ」

「えっ! そうなんだ!」

 俺、アマンダ、美樹が順に言った。


 俺は美樹と顔を見合わせた。そんな重要なところまでゲームと違うのかと、二人で苦笑してしまった。



    ◇



 翌日。

 朝から俺たちは馬車で移動した。移動先には大掛かりな神殿があった。入り口に一人の男が立っている。


「騎士団員メルビンの関係者の皆さんだね? 本日、案内役をうけたまったクェンティンです。以後、見知り置きを」

 クェンティンが頭を下げる。


 かなり年上と思われるが、この男もとんでもないイケメンだ。だとすればこの男も……。


「クェンティンは第四ヒーローよ」

「やっぱりそうか……」

 美樹の耳打ちに俺が答えた。


 クェンティンの案内に続き、メルビンが途中で別れて新入騎士団員の控室に向かう。俺たちは来賓用の部屋に案内された。部屋には新入騎士団員の親族と思われる人たちがいた。


「何だか、気品の高そうな格好の人ばかりだなぁ」

「騎士団に入る人は身分の高い人が多いの」

 ロベルトとカレンが言った。なるほど、確かに俺たちは場違いではないかと感じる雰囲気だ。


「ま、堂々としていましょ。メルビンだって立派な新入騎士団員よ」

「そうだな」

 アマンダと俺が言った。


 用意されている軽食をつまんでいると、係の者が呼びに来た。いよいよ見学会が始まるらしい。俺たちは引き続きクェンティンに案内された。


 地下に進むと、かなり大きな空間があった。その大部屋の壁はクリスタルのようなもので出来ていて、青い光を放っている。大部屋の奥に、巨大な魔導ロボットが立っていた。通常の魔導ロボットと大きさは同程度。しかし、ベースカラーは赤だ。神秘的な形状と配色ながら、禍々しさも感じさせる圧倒的な存在感だった。


「あれがゼーデルガイナーだ。現代の魔導ロボットの全てがあの古代兵器の劣化コピーに過ぎない」

「劣化コピーですか?」

「そうだ。どう足掻いても記録に残るその性能を再現することができない。神話の時代のオーパーツだよ」

 クェンティンが言った。


「古代の宿命に翻弄されるのは、この世界も一緒……か」

 アマンダが呟いた。きっと、大いなる闇を思っての言葉だろう。


 俺たちはそのまま来賓席に案内された。やがて、新入騎士団員が入ってきた。中にはメルビンもいる。新入騎士団員がゼーデルガイナーの前で整列すると、レスリーとマティアスが仰々しい服装で入ってきた。彼らに加え、騎士団の上層部らしき者たちや、ウォルトも入ってくる。


 彼らが新入騎士団員の前に立つと、来賓席の俺たちも起立を求められ、立ち上がった。


 レスリーが何やら挨拶をし、来賓は着席した。次にマティアスが新入騎士団員に向かって演説をする。裏ではゼーデルガイナーを使って悪どいことを考えているだろうに微塵もそれを出さない振る舞いだった。


 騎士団の上層部の者も演説をし、その後、レスリーが新入騎士団員を鼓舞するような挨拶をした。大部屋中が拍手に包まれる。


 レスリーとマティアスが退場すると、新入騎士団員たちには自由が与えられたようで、各自ゼーデルガイナーに近付いたりし始めた。あわよくば自分が起動できないかと考えているようだった。


「さて、皆さんも行きたまえ。きっと二度とゼーデルガイナーを生で見る機会など無いだろうから」

 クェンティンが俺たちに言った。


 その言葉に甘え、俺たちは新入騎士団員がたむろしているところまで移動した。


「メルビン」

「あ、姉さん」

 カレンがメルビンに労いの言葉をかけに行った。ロベルトもそれに続いている。一度退場したレスリーとマティアスが服を変えて戻ってきて、カレンたちに近付いてきた。


「うーん、マティアスがカレンに近づくのは不安だな」

「そうね……」

「確かに、マティアスから魔力の流れを感じる。何かを操作しているわね……」

「ホント?」

「アマンダ、少し調べてもらえるか?」

「うん、任せて」

 アマンダは俺たちの元から離れ、歩き始めた。


「頼りになるね、アマンダ」

「そうだな。アマンダが転移者に選ばれた理由も、こういうところにあるんだろうな」

 美樹と俺はそんなことを言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る