26 魔導ロボットの演習
俺たちが再びこの世界にやってきた事はレスリーにも伝わったようで、夕食時にレスリーが屋敷を訪れた。また、初めて見る顔が二人、一緒に現れた。
「へぇ、あんたらが異世界人か。まあ、俺の邪魔をしなければ、この屋敷にいてもいいぜ」
その男はいきなりそんな調子で喋り出した。言わば俺様キャラだ。紫がかった髪に、ハンサムな顔、素朴だが人を惹き付ける衣装。何という美男子か!
「第三ヒーローのウォルトよ」
「やっぱそっか。イケメンってレベルじゃないよ……」
美樹と俺は小声で情報交換した。ゲーム通りにこの男がカレンにベクトルを向けてしまったら、ロベルトは大変だろう……。
「部下のウォルトが失礼したね。私はマティアス。レスリー様の元で研究員をしている。この度、カレンの異能研究の役目を
マティアスと名乗った男は、40か50代の紳士という雰囲気だ。不意に美樹が俺とアマンダの肩を叩いた。
「あいつよ。あいつが黒幕」
俺とアマンダは了解とばかりに頷いた。つまり、あのマティアスという男が、ラスボス機の復活を企てている。そのためにカレンの異能を利用しようとしているのだ。
俺は別の意味で難しいこの世界のことを思い出した。ラスボス機の復活を阻止すれば良いのかどうか、分からない。転移者に何が求められているのかがハッキリしていない。
「
レスリーが言った。今のところ、レスリーもマティアスの真の目的は把握していないのだろう。
ウォルトとマティアスは挨拶の後に帰っていき、レスリーは俺たちと夕食を共にした。
「ほう、そちらの世界ではそんなに魔物が暴れているのですか?」
「この世界とは違うのね。そんな魔物の大発生という話は聞かないもの」
雑談でクラーケン退治の話が出たところ、レスリーとカレンが言った。この世界では、武力は、他国への睨みを効かせるなど抑止的な意味が強いらしく、ロベルトたちの世界のように、魔物の大発生の対処に使われたりはしていないのだ。
「学徒動員まで行ってるから、割と事情は深刻ですよ。私も来年にはそうなる……」
アマンダが言った。魔法での魔物退治を表すかのように、指先に魔法で火を発生させる。
「器用なことをするんだな、アマンダ」
「簡単よ。教えてほしい?」
「バカ言え。そのくらい、練習すれば自分で出来るようになるさ」
「あら、そう?」
メルビンは何やらアマンダに対抗意識を持つことがあり、それが微妙に面白かった。カレンがそれを見てクスクスと笑っていた。
「メルビン、アマンダの魔力を肌で感じているんじゃないかしら」
「そうなの?」
「うん。レベルの高い人に妙に対抗する癖があるの」
「へぇぇ。負けず嫌いって奴か」
「そうね」
カレンの言葉にロベルトが反応した。
「明日、魔導ロボットの公開演習があります。ぜひ、皆さんも来てください」
レスリーがそんなことを言った。
魔導ロボットは国を鼓舞するシンボルの役割もあり、定期的にそういうイベントが開催されるとのことだった。
◇
翌日。
無事に騎士団の一員となったメルビンは、魔導ロボットの公開演習に参加するため、朝早く出発した。カレンが見送ったようだが、どうやらロベルトも一緒だったらしい。頑張っているじゃないか、ロベルト。
残ったメンバーで朝食を取り、公開演習場に向かった。周辺は既に多くの人が出ている。俺たちが異世界人ということで、特別に内部に案内してもらえる事になった。レスリーが俺たちを呼びに来る。
「何だか、随分と配慮してくださり、ありがとうございます」
「いえいえ。ぜひ見ていってください。魔導ロボットが異世界の皆さんにどのように映るか、後でぜひお聞かせ願いたい」
アマンダとレスリーが言った。
「といっても、原理が違い過ぎて、俺たちは何も言えないよな……」
「ホントよね……」
俺と美樹が呟いた。魔法で動くロボットに、俺たちが言えることなど何もない。強いて言えば、アマンダやロベルトは何か別の感想を持つのだろうか。
中に案内されると、メルビンがいた。どうやらウォーミングアップをしているらしい。身体を動かすだけでなく、魔力を暖めたりもしているようだ。
「あれ、姉さん、皆?」
メルビンが俺たちに気づき、駆け足でやってきた。
「メルビン、もういちいち心配したりしない。頑張ってね」
「ああ、任せて姉さん!」
カレンとメルビンが言った。俺たちもメルビンに近づき、労いの言葉をかけた。
「それにしても魔力で動く、か。私にも動かせるのかな、これ?」
ふとアマンダが呟いた。近くに佇む魔導ロボットを見上げている。
「ああ、そうですね。きっとあなたになら可能ですよ」
現場を見にきていたレスリーが言った。
「でもまあ、騎士団員でない者が操縦するわけにはいかないでしょう?」
「いえ、面白いかもしれません。演習の後、ちょっと試してみましょうか」
「え、いいんですか! やった!」
メルビン、レスリー、アマンダが順に言った。
「おいおい、アマンダがこれを……?」
「へぇ、一体どうなるんだろうね……」
俺とロベルトが呟いた。
公開演習は、事前に訓練された集団行動や、一定の動作の訓練、模擬戦等を、訓練用の魔導ロボットを騎士団員が交代で使う形で進んでいった。入団したばかりのメルビンは、本来は出番が少ないはずだったが、持っている魔力の大きさが認められ、何度も登場する事になった。
観客の声援に混じり、俺たちも応援の声を上げた。
模擬戦では、メルビンがウォルトと対戦する場面もあった。メルビンも入団したばかりとは思えないほど善戦したと評価されたが、経験の面でウォルトに勝つことはできなかった。
「くそ!!」
模擬戦の後、俺たちがメルビンに会いに行くと、メルビンは悪態をついていた。ピリピリしている様子に、俺もカレンでさえも声をかけるのを
「メルビン、お疲れ! 相手のウォルトとは年季が違うんだから今勝てなくてもしょうがないよ」
「うっさいな!」
メルビンは本当に気が立っていたようで、アマンダの後ろの壁を右手で叩いた。
「負けは負けだ! 惨めになるから気休めなんか言わないでくれ!」
メルビンが怒鳴る。そういえば、年相応に悩む姿が、ゲームでもメルビンの人気ポイントだと美樹が言っていた。現実のメルビンも同じのようだった。
しかし、メルビンがアマンダに対してやっているのは壁ドンだ。乙女ゲームのヒーローがギャルゲーのヒロインに対してやっているその姿は、恐ろしいほど絵になっていた。
アマンダは眼前に超絶イケメンがいるというのに、赤面一つせず、真っ直ぐにメルビンを見返している。身長差は若干あるから見上げる形だ。そして、くるりと回転し、メルビンに対して逆に壁ドンをし返した。
アマンダの頭がメルビンより若干高い位置にある。風魔法で宙に浮いているらしい。身体が微動だにせず、凄まじい精度だ。
「今現在の勝ち負けなんて意味ある? 惨めとか言うな」
逆壁ドンをしながらアマンダがメルビンに告げる。メルビンもまた、眼前に超絶美少女がいるのに赤面一つせず、真っ直ぐにアマンダを見ていた。
流石は乙女ゲームのヒーロー。アマンダにあんなことされたら、俺だったら平静ではいられないだろう。きっと、隣に美樹がいてもだ。アマンダはそういうことを分かっているだろうから、俺にはやってこないと思うが……。
「ほらほら二人とも、落ち着いてください」
見かねた様子のレスリーがメルビンとアマンダを引き離す。カレンがメルビンに近寄り、何やら言葉をかけている。美樹もそこに合流した。俺とロベルトはアマンダに近付く。
「アマンダ、珍しいね、あんな風に……」
「う、うん、ごめん。でも何か、こう、メルビンが悔しがるのは良いけど、惨めに思う必要なんて無いはずなんだからさ」
「ま、確かにな。カレンのために、って想いが強いけど、空回りしているのかもね」
3人でしばし話した。
やがて公開演習が終わり、観客が帰った後にレスリーが俺たちの元に来た。
「では、約束通り、アマンダに試してもらいましょう」
「やった! ありがとうございます!」
レスリーとアマンダがコクピットに入り、しばらくすると魔導ロボットが動き出した。
「うわー、やっぱアマンダにも動かせるんだな」
「魔法学校の学年一位だもんね。訓練したら、強くなりそう……」
俺と美樹が言った。
アマンダは『ムズい~』などと言いながら魔導ロボットを歩かせたり、剣を持って振ったりした。しばらくそれを続けた後、片付けをするからということで終わりになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます