25 主人公と主人公
ロベルトが魔力無しのカレンを好きになってしまった事実に俺は倒れそうになったが、背中に痛みを感じて我に返った。見れば、アマンダが俺の背中をつねっている。『気持ちは分かる、だけど今は話を聞こう』という事だろう。
「世界が違うわけだし、無謀かな。全部終わったら切り離されてしまうんだろ?」
「そ、そうだな……。けど、気持ちに嘘はつかなくていいと、思うぞ……?」
俺は必死に取り繕ってロベルトに答えた。
「きっと、また近々転移が起こるから、ロベルトもついていけたんならカレンと話してみるといいよ! 私も転移したら協力するからさ!」
「あ、ありがとう!」
アマンダとロベルトが言った。
「でもロベルト、自分が魔力無しだってこと、カレンには伝えたの?」
「いや、言ってない。カレンの異能を考えると有利なんだろうけど、ズルいかと思ってさ」
「あっ! そ、そっか……!」
アマンダ、ロベルト、俺が順に言った。
俺はロベルトの言葉にハッとした。確かに、カレンにとって、ロベルトは素肌を触れ合わせることができる数少ない人間なのだ。そう考えると、カレンにとっては良いことなのかもしれない。勿論、カレンの気持ちはカレン次第なわけだが。
しかし、それでもバッドエンド回避に向けて大きく後退したのは間違いない。ロベルトとのやり取りの後、俺はアマンダと共に
「えっ……ロベルトがカレンを……?」
「マ、マジか……?」
もたらされた思わぬ情報に、美樹と翔も驚いていた。
「ロベルトのことは、応援しようと思う。けど、大いなる闇に対する最大のカードを失ったのは事実だ」
「ロベルトが魔力増幅できる同時の数を増やす、とかしか対抗策は思いつかないね。それだとやっぱり厳しいの?」
「分からない。俺が知ってる未来の可能性の一つに、複数人で魔力増幅した魔法攻撃をするというのがあるけど、それだと負けちゃうんだ。数を増やせばいけるのかもしれないけど……」
それは、ゲームでロベルトが誰も選ばなかった場合のバッドエンドの展開だ。最後の時を過ごす人々の描写が悲劇の物語としては好きだが、実際にそうなってしまったらたまったものではない。
「同時数を増やすのを試すしか案がないね。大丈夫かな……」
「そうだね、それはやるべきだ。あとは、俺たちの世界に戻って、残り少ない時間で銃火器の訓練をして、それを持って来るとかかなぁ」
「軍用ヘリコプターとか戦闘機が欲しいな。けど、厳しいだろ、それ」
「だよな……」
だが、銃火器を持ち込むのは悪くない案のはずだ。本当にどうして俺たちなのか。自衛隊のレンジャー部隊とか、アメリカ海兵隊とかに役割を引き継げないものだろうか……。
話し合いを終え、そのままバーベキュー会場に戻って続きを楽しんだ。正直、テンションが下がっていたが、アマンダや美樹が盛り上げてくれた。難問を共有している友だというのに凄い。俺は不甲斐ない自分を呪った。
しかし、どうやら異能研究グループ内で一組カップルが成立したらしく、皆で囃し立てるのには参加した。その頃には俺もだいぶノリを取り戻せていた。
皆で騒ぐ中、ベラがふと呟いた。
「楽しかったなぁ。でも、皆、明日には帰っちゃうんだよね……?」
「そうね。私たちも楽しかった。ありがとう、ベラ」
「うん……」
アマンダの受け答えに、ベラは神妙な顔をしていた。
◇
翌朝。
食堂で朝食を取っていると、エリザベートが前に出た。
「私も職員として魔法学校に戻ることにした。異能研究グループの活動、実に興味深い」
すっかり親睦を深めていたエリザベートのその宣言に、生徒たちは歓声を上げて喜んだ。これはゲーム通りの展開だった。
「ベラ、君も来たまえ」
「えっ?」
突然話を振られ、ベラは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「君の魔力量は相当なものだ。そんな人材を放っておくなど、国のためにならん」
「で、でも……」
「行っておいで、ベラ」
「お、お母さん……!」
「働いてくれるのはありがたいけど、私もお父さんも大丈夫だから。あなたは自分の道を見つけなさい」
それを聞いたベラは泣き出し、エリザベートの申し出を受けた。生徒たちはさらに歓声を上げる。これはゲーム通りでは無かった。ゲームでは、ベラはロベルトを追いかけて魔法学校に来る事になるのだから。
「ほんっと、ゲーム通りじゃない」
「そうなんだ……」
俺の小声に美樹が反応した。
「あ、ちょっと!」
不意にアマンダが叫んだ。アマンダの周囲に稲妻が光っている。見れば、俺や美樹の周りもだった。
「転移!?」
「えっと、皆ごめん、後は任せた!」
美樹と俺が叫ぶと、転移の光がほとばしった。
目を開けると、そこは草原だった。城塞都市が見える。つまり、『混沌のホーリーナイト』の世界だった。
「最近、元の世界に戻ってないな」
「そうね。夏休み、終わっちゃいそう……」
俺と美樹が言った。ロベルトとアマンダも転移してきており、俺たちの元に歩いてきた。
「あれ、カケルがいない……?」
「えっ!? あ、本当だ……!」
ロベルトの言葉に俺が続いた。美樹は一瞬不安そうな顔をしたが、すぐに言葉を続けた。
「でも、今回はこれでいいのかも。翔、メアリーと話したいだろうしね」
「え、カケルがメアリーを!?」
美樹の言葉にロベルトが反応する。
「世界を
「へ、へええ……!」
「ふふ、頑張れよ、ロベルト!」
アマンダ、ロベルト、俺が順に言った。
俺ももうこの件は飲み込んだ。俺たちがここに来たということは、ロベルトとカレンの再会は間近だ。応援してやろうと思う。
◇
カレンたちの拠点に辿り着くと、カレンは例によって美樹と抱き合った。俺たちも順に握手をする。
「ふん、来たのか異世界人」
相変わらずツンツンした雰囲気のメルビンが言った。
「おー、来たぞ、少年!」
アマンダがそれに返す。
「カレン、元気だった?」
「うん、色々あったけどね。ロベルトは?」
「俺たちにも色々あったよ。話すことがいっぱいある」
「そっか」
カレンに話しかけるロベルトの表情は嬉しそうだった。あの朴念仁がこんな顔をするとは……。いや、俺が気が付かなかっただけで、本当は前来た時もこういう顔になっていたのかもしれない……。
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