14 バッドエンドの考察
日が落ちる前には、俺とロベルトとアマンダの部屋の準備が終わった。部屋自体は全員分を割り振るが、同室にしたかったら自由にしてくれとのことだった。随分と好待遇なものだ。
夕飯前に、俺は
美樹がまとめてくれた情報によると、『混沌のホーリーナイト』には各ヒーロー共通のラスボスがいる。といっても生物ではなく、古代兵器のロボットだ。復活させようとしている黒幕がいるが、それを操ることになる人物は各ルートで違ってくるらしい。
第一ヒーローであり、第二王子のレスリールートの場合、彼の婚約者が操る。元々、婚約者は黒幕に利用されていただけだったのだが、彼女の執念が上回り、黒幕が起動させたラスボス機を奪取してしまう。カレンへの嫉妬に狂う婚約者を止める話となるらしいが、なかなか凄い話だ。完璧に個人的な対決となっているのだから。
第二ヒーロールートの場合、国の第一王子がラスボス機を黒幕から奪い、操る。ラスボス機の圧倒的な力を持って、隣国に攻め込もうとするのをカレンと共に止めるシナリオとなる。
第三、第四ヒーロールートの場合、ラスボス機を復活させようとしていた黒幕自身が操ることになり、黒幕との対決シナリオとなる。
黒幕がラスボス機を復活させるのに利用するのがカレンの力で、人々から魔力を吸収して魔力の集合体を作り、それをラスボス機の仮想的な契約者にしようとする。各ヒーローの好感度が足りないと、誰もカレンを助けに来ず、黒幕がラスボス機を完全掌握して、暗い未来を感じさせるバッドエンドとなる。
「うーん、シンプルだけど、何を止めればいいのかピンと来ないな」
「そうなのよ。カレンが黒幕の手に落ちないようにすれば彼の計画が進まなくなるけど、果たしてそれでバッドエンド回避と言えるのか、それが分からないの」
「逆に、世界滅亡というバッドエンドがある『時空の果てに響く旋律』の方が分かりやすかったな」
身も蓋もない事を言ってしまえば、このストーリーではバッドエンドになっても元の世界に影響は無いだろう。もっとも、知り合ってしまった人たちが不幸になるのを見過ごすわけにはいかないし、美樹と翔がいつまでも転移から解放されなくなってしまうから放置はできないが……。
「うん、現状は分かった。ちょっとアマンダを呼んでくる」
アマンダが部屋に来ると、俺たちは、この世界にも未来の可能性の物語があり、古代兵器のロボットが復活して大きな事件が起こることを説明した。カレンの恋愛事情については、あまり意味は無さそうなので触れなかった。
「それだったら、その黒幕の男を失脚させるとか、どう? 偉い立場の人なんでしょ?」
「あー、なるほど。その立場が無くなれば研究自体ができなくなるね」
「でも、そういう奴って、最後まで諦めない気もするなぁ」
アマンダから面白い意見は出たが、やはりそれで解決となるのかは釈然としない。
「根本的にはその古代兵器があるから起こるトラブルだから、それを倒せば間違いなく終わりなんじゃないか?」
ずっと話を聞いていた翔が言った。それも一理ある。しかし、ラスボス機を復活させるとなると、カレンが一度黒幕の手に落ちる事を容認しないといけないので、心苦しい。きっと美樹とアマンダはその想いの方が強いだろう。もしくは、復活前に破壊してしまうか。
「何にしても、その古代兵器を確認したいところではあるな」
「場所は秘匿されている。でも、多分、近々お目にかかれるわ」
美樹が言うには、カレンが全ヒーローと共にラスボス機の元まで行くストーリー展開があるそうだ。ゲーム通りに事を進めることができれば、その時はやがて来るという。
その時、部屋のドアがノックされた。
「皆様、ここにお集まりですか? 夕飯の支度ができましたので、食堂にお集まりください」
「あ、もうそんな時間か」
「これは堪能すべきね! 短期間で二つ目の異世界の食事だなんて、ラッキーよ!」
アマンダは本当に楽しみなようで、目を輝かせて言った。
◇◇(視点変更)
ロベルトは廊下を歩きながら背伸びをした。立て続けに異なる異世界を訪れることになったので、疲労しているのは確かだった。3つの世界はどれもかなり違う。ロベルトの世界とこの世界は魔法が中心になって動いている点は同じだが、それでもかなり違う。慣れるには時間がかかりそうだと、ロベルトは思った。
ふと漂ってきた美味しそうな匂いに釣られ、ロベルトは食堂の方に足を向ける。ちょうどそこでカレンとばったり出くわした。
「あ、カレン」
「ロベルト」
カレンもロベルトに気づく。最初は畏まって敬語を使っていたカレンだったが、同い年だからといういつものアマンダの押しでそれも取れている。
「いつも、こんな大きい食堂で食事をしているの?」
「ええ。私や弟のような者がこういう屋敷に住むなんて、恐れ多いことなのだけれど……」
「弟さんがいるんだ」
「騎士団に入るための夏期集中訓練に行ってる。そろそろ帰ってくる頃かな」
「姉さぁぁぁぁああん!!」
突如、屋敷中に大きな声が響き、ロベルトはぎょっとして振り向いた。一人の男がロベルトたちに向かって走ってくる。そしてロベルトとカレンの間に入り、カレンの両肩を掴んだ。
「大丈夫だった!? また異世界人が増えたって聞いたけど!」
「だ、大丈夫だけど……」
カレンはその男の雰囲気に圧倒されているようだった。そして、その男はロベルトの方を向いた。
「おい、異世界人! 気安く姉さんに近づくな!」
「メルビン! そんな言い方、失礼よ!」
「姉さんは甘いんだよ! 今度こそ姉さんの異能を利用しようとしてたらどうするんだ!」
◇◇(
屋敷に大きな声が響き、俺は美樹、アマンダ、翔と共に部屋を飛び出した。広間を見ると、ロベルトと一人の男が向き合っているところだった。
「あれは……?」
「カレンの年子の弟、メルビン。あれが第二ヒーローね」
「え、弟なのに?」
「メルビンルートは、血の繋がりが無いことが発覚して、そこからメルビンの心が家族愛から変化する話」
「なるほど……」
美樹の解説に俺は納得する。
メルビンもレスリーとは別系統の美男子だ。髪はカレンと同じ茶色とオレンジの中間のような色。弟キャラということもあって、少し幼さを残した顔立ち。服装は、レスリーと違って一般人ということもあって派手ではないが、彼本来のイケメンっぷりを引き立てている。
しかし俺が何よりも今までと違うと感じたのは、『旋律』世界のヒロインたちや、この世界の他のヒーローと比べて、メルビンが随分と主人公のカレンに執心していることだった。もちろん、今のところそれは恋愛ではなく家族愛なのだろうが。
「あらあら、随分なお姉さんっ子が出て来たわね……」
アマンダはそう言うと、面白そうだという笑顔でメルビンたちに近づいていく。俺もそれに続き、引き続き敵を見るような目で俺たちを見るメルビンに自己紹介をした。
「カレンを取って食ったりしないから安心しなさい」
「口だけなら何とでも言える。僕は信用できないね」
「ふぅ、まあいいさ。少しずつ信頼してもらえればと思ってるよ。改めて宜しく、メルビン」
アマンダ、メルビン、ロベルトが順に言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます