13 今度は乙女ゲームの世界
「乙女ゲーム……、マジか……?」
何という極端な話だろう。俺がギャルゲーで
「くっそ、物語把握してないな、俺もやってれば良かった」
「
「ジャンルなんぞでより好みしていたら、物語の良し悪しは分からなくなっちゃうでしょ」
「うん、そうよね。そういう話が通じるのは助かるわ」
美樹も小さい頃から演劇関係の活動をしていただけあって、この辺の価値観は俺と似ている。それが、少し嬉しかった。
「簡単に言うと剣と魔法の世界で、さっき名前が出たカレンというのが主人公の女の子。ひとまず彼女に会いに行きましょう」
「分かった。結局、主人公が中心にいるのは間違いないもんな」
「そういうこと。もっと詳しい事情は、おいおい説明するわ」
美樹がそう言うと、俺たちはロベルト、アマンダ、
俺はロベルトたちにも事情を説明した。
「なるほど、ヤマトの世界とも俺たちの世界とも違う、3つ目の世界ってことか」
「何だか凄いことになっちゃったわね。こんな短期間にいくつもの世界を見ることになるなんて」
ロベルトとアマンダが言った。
俺ももう、頭が混乱し通しだ。まさか、この世界にも危険なバッドエンドの可能性があるんじゃないだろうな……。
街道を歩きながら、美樹が全員に向けて話しかけた。
「街に入る前に皆に注意しておくわ。私たちがお世話になっている女の子、さっき名前が出てきたカレンという
「魔力を奪う……?」
「うん。魔力の無い私たちは大丈夫だけど、アマンダは気をつけてね。肌同士が触れ合わないように」
「肌同士が触れただけで魔力が……。それはそのカレンという
この乙女ゲーム『混沌のホーリーナイト』の世界では誰もが魔力を持っている。それは彼らの血肉にもなっているから、魔力を限界まで奪われると命に関わるということだ。
ちなみに、主人公がそんな悲しい異能を持っていてもなお、攻略対象の男性キャラクターたちは愛してくれる、というのが乙女ゲームとしての根底のようだった。肌を触れ合えなくても想いは本物。なかなか情緒ある話だとは思う。
が、ギャルゲー『時空の果てに響く旋律』の世界で、主人公ロベルトとヒロインたちが全く恋仲になる気配が無かったことを俺は知っている。なので、美樹にその辺りの事情を聞いてみることにした。
「なあ、美樹ちゃん。その主人公のカレン、攻略対象のヒーローたちといい感じになりそう……?」
「それが、どうも雲行きが怪しくて。男性陣がちっともカレンに近づいて来ないのよ……」
「やっぱり……」
事情は『旋律』世界と同じのようだ。カレンの事情を考えると、カレンが愛されないというのは切ないことだが……。
◇
街に着き、美樹たちが拠点としていた屋敷に移動する。俺たちの格好はこの世界の住人からすると違和感があるようで、道行く人々からやたら視線を感じた。
「ああ、ミキ!」
「カレン!」
拠点の屋敷から、カレンと思われる少女が出て来て、美樹と抱き合う。
髪の色はオレンジと茶色の間のような色で、長袖に長めのスカートにタイツ。夏だというのにこの服装なのは、万が一にも人と素肌を触れ合わせないようにするためだろう。
華奢で消え入りそうな儚げな印象。美少女には違いないが、エロス的なものとは方向性が異なる容姿で、さすが乙女ゲームの主人公というところか。
美樹は、カレンにとって、初めて出来た素肌を触れ合わせることができる友人だ。これまでの交流でかなり親しくなったらしい。
アマンダがカレンに近寄り、自己紹介をするとともに手袋をしているカレンの手を取って握手した。
「手袋ごしでごめんなさい」
「ううん、気にしないで、事情は聞いたから。……正直言うと、本当にダメなのか試してみたいけどね」
「ダ、ダメです! 本当に勢いよく吸ってしまうので、相当に負担がかかるんです。大人の男性でも、すぐに立っていられなくなるぐらいなんですよ!」
「そ、そっか……」
カレンに止められ、アマンダは渋々といった様子で引き下がった。社交性の高いアマンダのことだ。素肌同士の握手さえできなかったのが悔しかったのだろう。
俺とロベルトもカレンの前に立ち、自己紹介をした。俺もカレンと素肌で握手することは可能のはずだったが、特別な交流を持つのは美樹だけにしておこうと思い、アマンダと同じように手袋ごしの握手をした。ロベルトも同じようにした。
この屋敷は王家によって管理されているらしく、中ではメイドがせっせと動き回っていた。美樹が執事の格好をした管理者に俺たちのことを話すと、管理者は俺たちにこの場で待機するように言い、頭を抱えてどこかに行ってしまった。
しばらく待っていると、管理者と共に一人の男が入ってきた。
「この国の第二王子、レスリーよ」
「……ひょっとして彼が?」
「うん、『ホーリーナイト』の第一ヒーロー」
美樹が耳打ちしてきた。
正直、一目でそう予想できた。金髪に青い瞳、赤のベースカラーが彩る高貴な衣装。何という美男子だろうか! 男の俺でさえ、その美しさに目を奪われる!
カレンがひざまずき、美樹と
「そのままで良いです、異世界からの来訪者のお三方。違う世界の者に、我らの常識を押し付ける気はありません」
よく通る美声だ。俺たちの非礼を許すその寛大さにも感銘を受ける。きっと美樹たちにも同じことを言ったのだろう。美樹たちがひざまずいているのは、作法を教えてもらって自発的にやっていることに違いない。
レスリーが促すと、カレンたちも面を上げた。
「ヤマト、ロベルト、アマンダ、あなた方がこの屋敷で活動することを許可します。夜までには部屋の支度が整うでしょう。どうぞ、良い滞在となりますように」
「「「ありがとうございます」」」
俺とロベルトとアマンダの声が綺麗に揃った。その様子にレスリーは笑みを浮かべる。
「3人の追加手続きのため、私は席を外します。どうかごゆるりと」
レスリーは管理人と共に大きい扉の部屋に入っていった。
「皆様、お疲れでしょう。軽食を用意いたしますので、広間へどうぞ」
一人のメイドがそう言い、俺たちを誘導する。
広間の入り口に入る前、美樹が俺を呼び止めた。
「山和くん、少しだけ伝えるわ」
「え? レスリーのこと?」
「うん。本来だと、カレンが迫害されている現場をレスリーが救って、この屋敷にカレンを連れてくるはずなのね。でも、そうならなかった。私と翔がカレンと会う方が先だったから、私たちが異世界人であることを王家に明かして、異世界人用の施設としてここをあてがってもらったの」
「それでドサクサに紛れてカレンもここに押し込んだのか」
「そう。苦労したよ……、ゲーム通りの形にするまでに……」
「だから、前に会った時にあんなに疲れてたんだ」
「それは言わないで、悪かったよ……」
「で、あれか、レスリーがカレンに関心を持とうとしない、と」
「うん、それで困っちゃってさ……」
もう一つの『旋律』の世界もそうだったが、登場人物の行動がとにかくゲームと違う。この分ではレスリーだけでなく、他のヒーローもそうなのだろう。
「おーい、どうしたの、ヤマト、ミキ?」
広間からアマンダの声が聞こえた。
「美樹ちゃん、続きは後にでも。情報を精査したらアマンダにも伝えないといけない」
「うん、分かった」
そして、俺たちは広間に入っていった。
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