12 転移仲間

 夜が明け、俺は早い時間からロベルトとアマンダを連れ出した。変装っぽいことはしてもらっているものの、人の少ない時間帯のうちにラザードの元へ行きたかったのだ。


 ラザード精神クリニックの最寄り駅から二人を連れて歩き始めると、途中の公園のベンチに見知った顔を見つけた。彼らは俺を見ると、歩み寄ってきた。


美樹みきちゃんとかける……」

 まただ。またここで遭遇。一体どういうことなのだろうか。


「おはよう、山和やまとくん」

「どうしてここに?」

「ラザードさんに会いに行くんでしょ?」

「え!?」

「マジだったのね……。山和くんも関係者だったんだ……」

 俺は絶句した。それを考えなかったわけではない。ラザード精神クリニックのある場所で何度も美樹と出くわしたのだから。


「何度もここで会ったから、もっと早く察するべきだったわ」

「俺もだよ……」

 まさかの共通点に、俺は沈黙した。すると、後ろのロベルトとアマンダに話しかけられた。


「ヤマト」

「このは?」

「俺の……友達さ」

「その人たちは?」

 美樹が帽子で顔を隠すようにしているロベルトとアマンダを見て言った。


「話は後にしよう。美樹ちゃんたちもラザードさんのところへ行くんだろ? そこで詳しく話そう」

「分かったわ……」

「翔も、それで良いな?」

「ああ、問題ないさ」



    ◇



 ラザードの元に着くと、ロベルトとアマンダは変装を解き、持ってきた魔法学校の制服に着替える。


「まさか、本当に異世界からの来訪者とはな……。今回の事件は異例尽くしだ」

「向こうから来たってことなの!?」

「そ、そんなまさか!?」

 ラザード、美樹、翔が順に言った。どうやら美樹も翔もロベルトとアマンダのことは知らなかったらしい。原作ゲームをプレイして感銘を受けたから転移者に選ばれたわけではないのだろうか。


「それよりラザードさん、どうして俺以外にも転移者がいることを教えてくれなかったんですか?」

「第一原則として、プライバシーは守られなければならない。ただ、今回は君たちが情報共有してしまったな」

 俺の言葉にラザードが反応する。


「少し待っていたまえ。あのホワイトボードに君たちの状況を軽くまとめてある。持って来よう」

 ラザードは席を立ち、大部屋の隅にあるホワイトボードの元まで歩いていった。


「ロベルトさんとアマンダさんはこの世界でも魔法を使えるんですか?」

 その間に美樹が質問した。


「敬語は要らないわよミキ。同い年なんでしょ?」

「え……。う、うん、分かったアマンダ」

「魔法についてはこの通り。この世界でも使える」

 アマンダは右手の人差し指の上に火を作ってみせた。まあ、大事おおごとになるから、外ではあまりやらないでほしい。


「ちなみに、俺は魔力無しだから魔法はできない」

「え!? 魔力が無いの!?」

「美樹ちゃん……」

 美樹の言い方が少しロベルトに悪かったのではないかと思い、俺は彼女をたしなめる。


「いいよヤマト。確かに珍しいことだ」

 ロベルトがフォローする。


「カレンだけかと思ってたぜ」

「カレン?」

「あれ、知らないの? 向こうの世界で魔力無しなんて、彼女くらいしかいないと思っていたのだけど」

 翔、俺、美樹が順に言った。


 カレンって、誰だそれ? そんな魔力無しのキャラがいるなんてゲームでも実際の向こうの世界でも聞かなかった。


「アマンダは魔法師なのよね? やっぱり魔導ロボットには乗るの?」

「魔導ロボット? 何それ??」

「え?」

 美樹とアマンダの会話も何か噛み合っていない。というか、俺も『魔導ロボット』なんて言葉、初めて聞いたぞ。


 何か変だ……。俺も美樹たちも、何かをしているんじゃ……?


「待たせたね」

 ラザードがホワイトボードを引いて戻ってきた。


 その時、周囲に稲妻の光が現れるのが見えた。


「あ!?」

「やばい、転移するぞ!!」

「ショットガンを取りたまえ!!」

 ラザードの言葉に反応し、俺は近くに立てかけてあったショットガンを取り、ゴム弾の入った箱を掴んだ。そのタイミングで光が大きくほとばしった。


 光が収まり、目を開けると、大きな湖の前だった。来たことのない場所に転移したようだ。ロベルトとアマンダもいるし、美樹と翔も一緒に転移してしまったらしい。


「また変な場所に転移しちまったな……」

「そうね、嫌んなっちゃう! まあでも街は見えるし、歩きましょう」

 翔が愚痴り、美樹が指を指しながら言った。その方向に目を向けると、大きな街が見えた。俺の記憶には全く無い場所だ。


「どこよ、ここ……?」

「検討もつかないね」

 アマンダとロベルトが言った。


「えっ、知らない場所なの? そういえば、以前の転移の時も、山和くんとは一度も会わなかったもんね。違う国とかなのかな?」

 美樹が俺の方を見て言った。


 違う国……? いや、多分そうじゃない。根拠は無いが、そうじゃないと思う。


「美樹ちゃん、ちょっと」

「え……?」

 俺は美樹を少しだけ離れた場所に連れ出した。そして、質問を投げかける。


「この世界、美樹ちゃんが触れた何かの物語なのは間違いないよね?」

「うん。ラザードさんが言ってた。世の中の物語には実話が含まれていて、感銘を受けた人がその世界に転移することがあるって」

「それは俺も聞いた。そして、俺が転移していたのは『時空の果てに響く旋律』というゲームの世界だった」

「えっ……!?」

 美樹が驚愕の表情を浮かべる。


 もう、その顔が答えだ。美樹たちと俺は別の世界に転移していたんだ。


「そういうことだったのね……。だからさっき話が噛み合わなかったんだ」

「ここは、何の世界?」

「ここは『混沌のホーリーナイト』というゲームの世界。乙女ゲームよ」

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