10 異能研究グループ

「異能研究グループ?」

「うん。ロベルトの魔力増幅の異能を研究するの。私もメンバーよ」

 食堂でロベルトにアマンダが説明している。校長の発案で、過去に例のないロベルトの異能の効果を研究するグループが立ち上がったということだ。


 ゲームでは、そのグループの活動を通し、ロベルトとヒロインたちの親睦が深まることで、ロベルトの異能の効果が高まることが徐々に明らかになっていく。そして、ロベルトと結ばれたヒロインとの魔力増幅は、最大級の威力となって大いなる闇を倒すのだ。


 なお、ゲームではアマンダが無理やり立ち上げたもので、校長が起点になっているというのはゲームと違う。しかし、この際それはどうでもいい。重要なのは、シャネットもまた初期メンバーに選ばれるということだ。何とかして、ロベルト✕シャネット作戦を実行してやるぞ。


「アマンダ、それ俺も参加できないかな?」

「そう言うと思って推薦しといたよ。ヤマトも無事に選ばれたわ」

「おお、さすがアマンダ」

「やるねえ」

 俺とロベルトはアマンダと拳をぶつけ合った。



    ◇



 そして俺たちは魔法学校のある教室に集まった。活動に参加するという事で、俺にも魔法学校の制服が支給されている。


 メンバーには、ロベルトとアマンダは勿論のこと、同じ学年の生徒や、マックスとメアリーを含む下級生たちがいる。その中には待望のシャネットが含まれていた。また、リオノーラやその友人たちも来ていた。


 しかし、シャネットはさすが第二ヒロインだ。間近で見ると、アマンダとは別方向で可愛い。綺麗というより可愛い系なのは下級生キャラということを体現しているのだろうが……。


 また、上級生は実地研修が多く、こういう活動に参加する余裕は無いので一人もいない。


 俺たちは各人で自己紹介をした。ゲームでは自信なさげなセリフでひ弱さをさらけ出すはずのシャネットは堂々と喋り、その様子にリオノーラがウンウンと頷いている。良い友に恵まれたからこそ得た強さだ。それは良いことなんだけど、ロベルト✕シャネットの可能性を下げられている気がするぜ……。


 しばらくは、ロベルトの異能でどれだけの魔力増幅が起こるかという実験が行われた。多少の差はあっても倍率は同じだ。だから、元々の魔力が一番強いアマンダと組んだ時が最も強力となる。もっとも、ロベルト✕シャネットを実現できたとしたら、シャネットの方が遥かに上回ることになるわけだが。


 ある日、教師が実地研修の案件を持って来た。本来、上級生が務めるものだが、異能研究グループの実戦ということで教師が回してもらって来たものだ。こういうイベント自体は本当にゲーム通りに進んでいる。


「魔物の襲撃で放棄された村の奪還、ね」

「中心部にボスクラスの魔物がいるのか。なら、そいつの撃破が最優先だな」

 アマンダとロベルトが言った。


「異論はありません。ですが、このグループの趣旨からすると、ロベルト先輩は確実に対ボスチームですね」

「魔力増幅も一発一発に時間を要するとなると、誰がロベルト先輩と組むのが宜しいでしょう? やはりグループ最強のアマンダ先輩でしょうか?」

 シャネットとリオノーラが言った。その言葉に合わせて、俺はすかさず発言する。


「そのことなんだけど、ロベルトとアマンダは一度実戦で組んでいる。別パターンも試すべきじゃないかな」

 俺がそう言うと、賛同の声が上がった。


「確かに、研究って意味では複数パターンでトライするべきだよな」

「とすると誰が適任だ?」

「それならシャネットじゃない? このグループ内だったら魔力2位でしょう?」

 男子生徒二人とメアリーが言った。なお、メアリーはようやく触手のあとが治り、包帯を外している。


「ボスクラスの魔物と戦うというのは大役ですわよ。シャネットさん、できますの?」

「……やります!」

 少し試すようなリオノーラの問いかけに、シャネットは力強く答えた。


 こうしてボス戦でロベルトと組むのはシャネットに決まった。俺は上手く誘導できたことにホッとしていた。



    ◇



 実地研修の日。


「ではヤマトさん。マッドプラントが出てきたらお願いします」

「ああ、分かった」

 俺はマックスの言葉に返答した。ショットガンを持って来られなかったし、今の俺が実戦できるのはそのくらいなものだ。出番が来ない限り、村外れに設置した拠点で待機する。


「じゃあ皆、作戦通りに。気をつけて!」

 アマンダがそう言うと、メンバーたちは各々の持ち場に移動した。


 待機のメンバーと共に前線から入る情報を見守る。情報の通信を担っているのは電波ではなく魔法だ。本当に文明が違う。


 しばらくすると、マッドプラントが出現したという情報が入り、俺は待機の男子生徒と共に現場に向かった。通信魔導具から入ってくる対ボス班の情報に耳を傾けつつ、彼らの勝利を信じて俺はスマホとイヤホンを手に取った。


 やがて、ボスを退治したという情報が通信魔導具を駆け巡った。拠点に戻ると、疲れた顔をしながらもメンバーたちが次々と戻ってきていた。



    ◇



 魔法学校に戻ると、俺はロベルトとシャネットを呼び止めた。


「この後、軽く夕食に行かない? ロベルトとシャネットのボス戦での様子も聞きたいしさ」

「え、俺は良いけど」

「私も、大丈夫です」

「え、夕食行くの!? なら私も行く!」

 ロベルトとシャネットから肯定の返事が来て、さらにアマンダが実習を終えても元気な様子で混じってきた。ロベルトとシャネットを二人きりにするのが難しくなるが、断るのも変なので、アマンダも含めて4人で夕飯に行くことにした。


 なお、リオノーラも来たがったが、家で用事があるらしく渋々と帰っていった。


 レストランに入り、テーブル席に着くと、アマンダとシャネットは和気あいあいとメニューを見始めた。本当に、シャネットのキャラがゲームとだいぶブレている。もっと寡黙なキャラだったはずなのに!


 談笑しながら夕飯を楽しんだ。しかし、どこかのタイミングでロベルトとシャネットを二人にしたい。俺は思い切ってアマンダに耳打ちをしてみた。


「ちょっと、来てくれないか?」

 ロベルトとシャネットに気づかれていなさそうなタイミングでそう言い、さらにトイレと称して席を立つ。


 遠い場所からロベルトとシャネットのことを観察していると、アマンダもやってきた。


「ヤマト、どうしたの?」

「いや、ちょっと聞きたいことがあって」

 するとアマンダはため息をついた。そして俺に向き合って言葉を続けた。


「もしかして、ロベルトとシャネットの相性とか、そういうことを聞こうとしてる?」

「え!? 何で!」

 ズバリ言い当てられ、俺は驚いてしまった。


「分かるよ。何か、やたらロベルトとシャネットを二人でセットにしたがってたもんね、最近」

「鋭いなぁ、アマンダは……」

「この夕食もその一環でしょ?」

「うん、その通り……」

「ちなみに、ロベルトにその気が無さそうだから、進展はしないと思うよ」

「…………そう思う?」

 聞きたくない内容を切り込まれ、俺は声のトーンを落としてしまった。


「実際のところはまあ、あの二人次第だけどさ。本当にどっちかが気になり出したら自分でデートに誘ったりするでしょ」

「そういうもん……だよなあ。ビックリするぐらい正論だよ……」

 何だか無駄な努力をしていた気がして、肩が落ちてしまった。


「ヤマト、私とロベルトに対してもそんなこと試したよね? そろそろ理由を教えてよ」

「そ、それは……」

「そんなに一人で抱え込まないで。元の世界で何かを知った、とかなんじゃない?」

「……っ!? 鋭い……。ほんっと鋭いアマンダ。さすがだよ」

 言っても良いんだろうか。未来に起こる可能性を知っていて、大いなる闇を倒すための四苦八苦だったことを。ここまで頭の良い彼女なら、一緒に背負ってくれそうな気がする。


 多分、この調子だと、第三ヒロインと第四ヒロインもロベルトと上手くいかせるのは難しいだろう。だったら、もう普通に過ごして、ロベルトが自発的に好きになった相手と共に大いなる闇に立ち向かえば良いんじゃないだろうか。


 4人のヒロインの場合ほどの魔力は望めないかもしれないが、足りない分は他の皆で補う方法があるのではないだろうか。


「分かった、言うよ……」

「うん、聞くよ」

 アマンダがそう言うと、そのタイミングで周囲に青い稲妻が光ったのを認識した。


「あ!? ヤマト、それ!!」

「ああ! ごめん!! 一度元の世界に帰る! きっとまた来るから、今の話はその時に!!」

 俺が叫ぶと、そのタイミングで転移の光がほとばしった。

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